ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 家族に迷惑をかけない相続 > 相続の準備は、早すぎても遅すぎても意味がない?
よく相談される質問で「相続の準備はいつから始めればいいですか?」というものがあります。
早すぎると気持ちも変わるし財産も増減します。
一方で遅すぎると対策を立てている間に万が一のことが起きることも。
では、いつから準備を始めるのが良いのか、事例をもとに解説します。
皆さんは現在何歳になられるでしょう。
仮に60代だとして相続対策は始めていらっしゃいますか?
①「60代であと平均寿命まで20年以上もあり、まだまだ死なないから」
②「まだ、呆けてないし病気もなく元気だから」
③「そもそもうちは子ども同士仲がいいので関係ない」
など、様々な理由でまだ対策を始めていない方が多いのではないでしょうか。
では、それぞれの問題点をみていきましょう。
①の場合
誰にも自分の寿命はわかりません。
もし何年何月何日とわかるのであれば、それに間に合うように準備すればいいでしょう。
②の場合
今は元気でもいつか痴呆になるかもしれませんし、大きな病気で治療費が嵩むこともあるでしょう。
早めに対策をしなくては、もし判断能力がなくなれば法律行為はできなくなります。
また、大病にかかれば、治療中に相続対策をする気力が湧くとは思えません。
③の場合
「そもそも子ども同士仲がいい」これは本当によく聞きます。
確かに今はいいと思います、将来も仲がいいでしょう。
でも、争族があることは事実です。
子の配偶者が横やりを入れてきたり、子の経済状態が悪化したらどうでしょう。
今と同じように仲良くしているとは限らないのです。
それでは、実際に私のお客様の事例でご説明しましょう。
私のセミナーに参加された後、公正証書遺言を遺すかどうか悩んでいるという70代後半のAさん(男性)が相談に来られました。
「うちには子どもが二人いて仲もいいのですが、上の子と同居していてなにかと世話をかけているので、上の子に少々多く財産を遺したいと思っています。
自宅も上の子に相続させたいし、いずれは遺言をと考えていますが、いつ準備を始めたらいいでしょう」という内容のものでした。
私は「できるだけ早く準備されることをお勧めします」と答えました。
Aさんは「う~ん、まだ元気だしもう少し考えます」といってお帰りになったのですが、それから約1年後、奥様から連絡がありました。
内容は「夫が癌で余命宣告を受け、病院に入院しています。公正証書遺言を遺したいと言っているので相談にのって欲しいのですが」というものでした。
奥様からの電話の後、すぐ弁護士の先生と病院に伺いましたが、鼻から酸素吸入をしていて病状もかなり重いご様子でした。
もちろん、判断能力はしっかりしているので遺言を遺すことは可能ですが、いつ容体が悪化して意識が低下するかわかりません。
大急ぎで準備を進め、公証人に病院まで出張してもらい署名も公証人に代筆してもらうことで公正証書遺言は無事に作成できました。
ただ、本人としてはいろいろと子に伝えたかった想いがあるようでしたが付言(※)まで行きつきませんでした。
そして、Aさんは遺言が完成してホッとされたのか、その5日後にお亡くなりになりました。
この実例では、ギリギリ遺言は間に合いましたが、体力・気力共に落ちている状況での遺言の作成は、本当に最後の力を振り絞って...という表現があてはまるほど大変な作業見ているこちらが辛くなる場面も多々ありました。
できれば、最初にご相談に来られた後すぐに遺言の準備を始めていれば、気持ちにも体力にも余裕がある中で付言事項もしっかりと遺せたのではないでしょうか。
*付言(ふげん)とは、本文とは別に想いや感謝の気持ちなどを遺せる部分のこと。
付言そのものには法的効力はないが、公正証書遺言の中身を補填するのに使える。
なぜこのような内容の遺言を遺そうと思ったのかを相続人に納得させるためには大切な事項となる。
次は対策が間に合わず、悔しい思いをした事例です。
60代前半のBさん(女性)は3人姉妹の末っ子です。
90歳になる母親の介護は、まだ独身の身で同居しているBさんがずっとしてきました。
姉二人は遠方に嫁ぎ母親の世話は一切していませんが、何かと母親に小遣いをもらっている様子を苦々しい気持ちで見てきたそうです。
Bさんは相続税対策に生命保険の加入を母に勧めていて、できれば受取人は自分にして欲しいとの要望がありました。
そこで、母親に生命保険の加入をお願いしたところ「あなたにはいろいろと苦労をかけてきたからいいわよ」と快諾。
ところが、母親が風邪をひいたり、いろんな用事が重なってそうこうしているうちに数ヵ月が経過。
ようやく落ち着いたので契約をしようと保険を取り扱っている銀行に連絡しました。
ところが返ってきた返事は「申し訳ありません、取り扱い保険は90歳までで91歳の方はご契約いただくことができません」とうものでした。
数ヵ月の間に母親が誕生日を迎え、銀行に電話したのは誕生日を数日過ぎてからのことでした。
たった数日過ぎただけで保険の契約ができなくなったのです。
生命保険の非課税枠を使用した相続税の節税はおろか、自分を受取人にしてもらうことも不可能になってしまいました。
「母の風邪がよくなってすぐに契約していればこんなことにならなかったのに...」と悔やんでも悔やみきれないBさんは、母親に公正証書遺言を勧めようと考えていらっしゃるそうです。
皆さんは、2つの事例を読まれてどのように感じられましたか?
私は「相続対策はいつから始めたらいいですか?」と聞かれると、いつも今すぐ始めてくださいと答えています。
財産が増減したり、気持ちが変わればやり直せばいいのです。
ちなみに私は、40歳の時には公正証書遺言を遺してエンディングノートも書いています。
こういう仕事をしているから皆さんの手本にならなくてはいけないという理由ももちろんありますが、「いつか、いつか」と言っているうちに手遅れとなり、後悔されている方をたくさん見てきたからこそ、早く準備しようと思いました。
「あの時、ちゃんとやっていれば」と後悔することのないよう「相続の準備は今スグに」とお伝えしたいと思います。
AFP 相続診断士 家族信託コーディネーター 終活カウンセラー上級。
頼れるマネードクターとしてこれまでに1,500件もの相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。講演・メディア出演多数。システムダイアリー社の「エンディングノート」監修。
著書「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP出版)。
相続診断士事務所「笑顔相続サロン」代表 東京相続診断士会会長。
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