ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 人生を豊かにする老後のマネー > 高齢者の不安「健康・お金・孤立」の解決のヒント
OECDが加盟国34ヵ国にロシアとブラジルを加えた国を対象に行った「世界幸福度ランキング2014」の1位はオーストラリア、2位ノルウェー、3位スウェーデンで、日本は20位でした。では、日本人はどのような時に幸福と感じるのでしょう。
「平成23年度国民生活選好度調査結果」(内閣府)によると、日本人が幸福感を判断するときに重要視するトップ3は「家計の状況」「健康状況」「家族関係」です。「国民全体、社会全体の幸福感を高める観点から、政府が目指すべき主な目標は?」という問いに対しては、「公平で安心できる年金制度の構築」がトップでした。この結果から、「お金」「健康」「人間関係」が幸福感の指標と考えられるでしょう。逆に言えば、この3つが不安の種ということになります。
一般財団法人経済広報センター「高齢社会に関する意識調査報告書」(2012年)によると、60歳代・70歳代が高齢期の生活・暮らしについて不安に思うことは、
1位 健康で自立した生活を送ることができなくなる
2位 配偶者との離別
3位 家族が健康を崩す。またその世話ができない
4位 収入(年金など)が減少し、生活が苦しくなる
5位 体調を崩したときに十分な医療・介護を受けられない
であり、7位に「家族・知人などと疎遠になり、孤立する」があります。高齢者の不安の多くは「健康」「お金」「人間関係」にあるようです。実際に、この3つのバランスが崩れると生活破綻に陥る可能性が高くなります。では、この「健康」「お金」「人間関係」について少し詳しく見ていきましょう。
充分な老後資金を準備していたにも関わらず生活に困窮するケースには、病気やケガなどで長きにわたり医療・介護が必要になったという世帯が少なくありません。心臓病や脳卒中、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病は要介護になる片道切符のひとつで、その対策には適正な食習慣や運動習慣、休養などが有効であると言われています。健康寿命を延ばす生活習慣として、非営利活動法人日本成人病予防協会の専務理事は次の4つをあげています。
ウォーキングやハイキング、サイクリングなど適度な強度の運動を定期的に行う。
「健康長寿食」といわれる和食を中心に栄養バランスの取れた食事を、よく噛んで腹八分目に。栄養バランスは、農林水産省「食事バランスガイド」をご参照ください。
人間は頭とからだと心の3つでできており、互いに強く影響しあっている。心の治癒力をアップするには、日常生活をニコニコと過ごすのが基本。
創造や感動、ユーモア、忍耐といった人間の英知をつかさどり、右脳と左脳のコントロールタワーでもある前頭葉のバランスが崩れると認知症につながる。前頭葉を刺激するには、「ワクワク・ドキドキ」感を持つことが大切。
「高齢者も応分の負担」として社会保険制度の見直しが進んでおり、2015年8月から280万円以上の年金収入のある単身者、359万円以上ある夫婦世帯は、介護保険サービス利用の自己負担が1割から2割に増えます。健康寿命を延ばすことが、介護や医療に関する支出の抑制や社会保険料の負担の増加を低くすることにつながります。人生の満足度を高め、かつ経済面のゆとりにもつながるわけです。
厚生労働省は、2004年の年金大改正で導入した年金給付を抑制する仕組み「マクロ経済スライド」を見直し、より厳しい内容に改革し実施する関連法案の2015年通常国会提出を目指しています。マクロ経済スライドとは、現役世代の減少率と平均余命の伸びからはじき出した削減率(現在は0.9%)を物価上昇率から差し引く仕組みですが、デフレ下にあった日本ではまだ実施されていません。
改革案は、物価水準に関係なく物価上昇率から削減率を差し引き年金額に反映させる、というものです。例えば、物価上昇率が0.2%の場合の翌年度の年金給付額は、前年度より0.7%(=0.2%-0.9%)少ない額になります。主婦感覚では「毎年収入が1%減る」ということになるでしょうか。
この案が実施されると、15年後の年金受給額は、物価上昇率がゼロの場合現在の受給額より約12%減少します。前出の「高齢期の不安」の4位「収入(年金など)が減少し、生活が苦しくなる」がランクアップするかも知れません。
現在の日本では、家族や地域の人たちとの交流が薄い高齢夫婦世帯や単身世帯でも、民間の様々なサービスを利用すれば生活に支障を感じることはほとんどありません。しかし、健康や配偶者との関係に変化が起きた場合、頼れる人がいないという社会的孤立に陥り、生活が破綻する可能性があります。「平成23年版高齢者白書」では高齢者の社会的孤立がもたらす問題点として、生きがいの低下や消費者被害の増加、高齢者による犯罪、孤独死をあげています。では、消費者被害の実態を「2014年版消費者白書」(消費者庁)で見てみましょう。
高齢者の消費生活相談の件数は、2008年を100%とすると、2012年が130.7%、2013年は162.8%と増加し続けています。被害の形態は「電話勧誘販売」が急増、また「健康食品の送り付け商法」も増加傾向にあります。二次被害も2010年以降増加しており、2013年の2次被害に関する相談の約6割が高齢者です。消費者被害が急増している背景には、親族以外に不安や悩みを話したり相談したりする人間関係を作るのが苦手な日本人気質があるようです。
前出の「高齢社会に関する意識調査報告書」によると、60歳代と70歳代が高齢期に働く理由のトップ3は「社会や人とのつながりを持つため」(70歳代は2位)、「体力・知力を維持したいため」(70歳代は1位)、「生きがいのため」で6位に「生活費を得るため」があります。働くことで老後の3大不安「お金」「健康」「人間関係」を解消しているようです。
働き方は、在職中の技能や経験を活かした起業や派遣でセミナー講師や技術指導などもいいですが、シルバー人材センターに登録して夢や趣味を実益化するなど、仕事を楽しみながら人とかかわるプチ仕事で、毎月3万円程度のプチ収入を得るというスタイルもいいのではないでしょうか。高齢になればなるほど「ワークライフバランス」が重要になるのですから。
専業主婦の身から外貨預金に興味を持ったことを機会にファイナンシャル・プランナーの勉強を始め、2000年にCFP (FPの上級資格)の試験に合格。2002年に独立開業し、個人向けにリタイアメントプラン、年金、貯蓄、賃貸経営などの相談業務を行う。また各種セミナーの講師も担当。1級ファイナンシャルプランニング技能士、福祉住環境コーディネーター2級、年金アドバイザーなどの資格を持つ。
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