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老後の暮らしとお金のコラム人生を豊かにする老後のマネー

2015/03/16
老後の住まいモデル「高齢者住宅」は進化し続ける

高齢者だけ」から「多世代と共生」へ

30年ほど前の高齢者住宅といえば「養老院」で、多くの人が「姥捨て山」というイメージを抱いていたようです。現在の高齢者住宅は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅のように、介護の不安を解消し快適な日々を過ごすための住宅といったポジティブなイメージですが、まだまだ姥捨て山のイメージを払しょくできず利用をためらう人も少なくありません。また「高齢者ばかりなので違和感がある」という声もあります。確かに建物の中で目につくのは介護スタッフと高齢者で、子どもや若者などとの交流はあまり望めない環境です。それも高齢者が入居をためらう一因なのかもしれません。

高齢者だけを囲い込み、時には過剰ともいえる介護サービスを提供する現在の高齢者住宅のシステムは、人口が減少し介護者も減少する時代では継続が困難な面を持っています。本格的な超高齢・人口減少時代に向かって、できるだけ長く自立し多世代の人と支え合えるアクティブシニアを、住環境整備から作ろうとする動きが始まっています。

国が進める高齢者向け住宅を核とする新しい住環境

「平成24年高齢者・障害者・子育て世帯居住安定化推進事業」(国土交通省)として埼玉県住宅供給公社は、サービス付き高齢者向け住宅を核とする鴻巣市の古い団地のリノベーションを行いました。1階にコミュニティホールやミニコンビニ、ケアマネステーション、デイサービス、生活相談室、理容室、家庭保育室が、2~3階にサービス付き高齢者向け住宅(32戸)や障害者ケアホーム(12室)、一般賃貸(4戸)が入っています。

UR都市機構が行った「多摩平の森 住棟ルネッサンス事業」は、5つの棟―高齢者向けの棟、大学生や若い社会人を対象とするシェアハウスの棟、子育て世代やスローライフ志向の人、アクティブシニアなどに向けた棟―を核に、小規模多機能居宅介護施設や貸し菜園、カーシェアリング、野外キッチン、食堂などが整備されています。多世代の入居者が交流し生活を共に楽しむ住環境がコンセプトです。

いずれの事業も介護関連施設が設置されているので、仮に要支援・要介護になった場合でも住み慣れた自宅で介護サービスを受けることができます。

日本版CCRCで新しい高齢者中心のコミュニティが誕生

平成26年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に「日本版CCRCの検討、普及」が明記されました。CCRCとはContinuing Care Retirement Communityの略で、直訳は「継続的なケア付きリタイア世代のコミュニティ」です。全米に約2,000ヵ所あり約75万人の高齢者が暮らしています。自立の段階から終末まで、必要に応じて生活・医療・介護の継続的な支援サービスやケアを受けながら同じコミュニティで暮らすことができます。介護度の進行や終末期など身体の変化に応じて施設から病院、病院から施設、施設から施設へと転居を余儀なくされる日本の現状から見ると夢のようなシステムです。

政府は日本版CCRCを、都市部に住む60歳代の健康なシニアの地方移住を推進する政策のひとつとして捉えています。同年5月に成立した改正都市再生特別措置法を活用し、コンパクトシティの中核のひとつに日本版CCRCを整備することで、地方創生が促されるのかも知れません。

介護・生活支援ロボットの活用で介護が楽に

「購入したい/購入したが無駄だった」と賛否両論のお掃除ロボット。ロボットとの共生が少しずつ進んでいます。広く認知されているロボットは、アザラシ型のコミュニケーションロボット「パロ」でしょう。癒しやセラピー効果があるロボットとしてギネスに認定されており、認知症患者の症状の安定などにひと役買っています。人型ロボットでは国際宇宙ステーションで若田宇宙飛行士と会話実験を行った「キロボ」。若田氏との別れの会話は、多くの地球人の涙を誘ったという強者です。

介護スタッフを助けるロボットには、腰痛補助介護ロボット「マッスルスーツ」、立ち上がりや起き上がりを補助する「ROBEAR」、歩行支援装着型ロボット「HAL」、移乗を支援する「トランスファーアシストロボット」、離床アシストベッド「リショーネ」などがあります。介護は人が行うもの、という思い込みや価格の高さから導入はなかなか進みません。しかし導入により介護に携わる人に時間・体力・気力のゆとりが生まれ、要介護者ひとり一人とじっくり対応できるようになるのは確実です。介護の一翼をロボットが担う時代がすぐそこまで来ています。

現在の高齢者住宅の多くは、住宅型・介護型・住居型有料老人ホームや特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホームなど、身体状況によって区分された高齢者だけの閉鎖的なコミュニティです。この垣根が外れ、多世代の人やロボットと共に暮らすコミュニティが整備されると、終末期を在宅で過ごすことも可能になるでしょう。これが平成23年の介護保険法改正の目的「高齢者が地域で自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される『地域包括ケアシステム』の実現に向けた取り組みを進める」を実現した姿です。高齢者住宅が、ITや産業技術の進化や地域社会の成熟と深くリンクして進化するのと同時に、高額な入居料金も多くの人が利用できる料金に進化して欲しいものです。

執筆者:大沼恵美子

専業主婦の身から外貨預金に興味を持ったことを機会にファイナンシャル・プランナーの勉強を始め、2000年にCFP (FPの上級資格)の試験に合格。2002年に独立開業し、個人向けにリタイアメントプラン、年金、貯蓄、賃貸経営などの相談業務を行う。また各種セミナーの講師も担当。1級ファイナンシャルプランニング技能士、福祉住環境コーディネーター2級、年金アドバイザーなどの資格を持つ。
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