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厚生・共済年金の収入がある65歳~70歳未満の無職夫婦世帯の年金の平均額は287万円で、収入の9割を占めています。一方支出は342万円です。公的年金で生活費の8割をカバーしています。ちなみに厚生・共済年金がない同年代の夫婦世帯の年金収入は111万円、支出は約200万円、カバーできるのは5割程度です。公的年金だけで老後の生活費を賄うのは難しいというのが現実です。
この不足分をカバーする上乗せ年金の1つに企業年金がありますが、その説明する前に公的年金制度の仕組みを確認しておきましょう。
公的年金には、国民年金と厚生年金と共済年金の3つがあり、2階建てで構成されています(図―1参照)。1階部分は国民年金で、日本に住む20歳以上60歳未満の人全員が加入します。基礎年金とも呼ばれ、保険料の納付方法などで「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」に区分されます。
「第1号被保険者」は自営業者や学生、フリーター、無職の人。保険料を自分で納めます。「第2号被保険者」は、サラリーマンや公務員など厚生年金や共済年金に加入している人。保険料は給与から天引きされる厚生(共済)年金保険料に含まれますので、国民年金保険料として別途納める必要はありません。「第3号被保険者」は第2号被保険者に扶養される20歳から60歳未満の配偶者。保険料は厚生(共済)年金保険が負担しますので、手続きを行えば個人で納める必要はありません。
2階部分は民間企業のサラリーマンが加入する厚生年金と公務員や私立学校教職員が加入する共済年金です。共済年金にはさらに「職域加算」という上乗せ年金があります。保険料は報酬に比例して決まり、企業や国・地方公共団体がその半分を負担します。個人負担分は給与天引きで納めます。
厚生年金に加入している人は、受け取る年金額を増やすために、さらに年金を上乗せして「3階建て」にすることができます。その3階部分が企業年金にあたります。いったいどのようなものなのでしょうか。
企業年金は、企業が社員の福利厚生の一環として独自に設ける年金制度で、退職年金とも呼ばれます。保険料の積立期間中だけでなく受け取る間も税金面で優遇されます。代表的なものに、厚生年金基金、確定給付型企業年金、確定拠出年金(401K)があります。
そのうち厚生年金基金と確定給付企業年金は、会社が年金原資を積立・運用・管理・給付する、言い換えればすべて企業にお任せする「確定給付型」の年金です。一方「確定拠出型」は本人が運用を指示します。それぞれの特徴と今後の動きをご紹介しましょう。
厚生年金基金は、企業年金の掛金に公的年金である厚生年金の保険料の一部を「代行部分」として上乗せして運用するものです。「代行部分」が予定以上に運用できればその分は厚生年金基金に上乗せし、下回れば企業がその分を補填し給付します。
2012年のAIJ投資顧問事件をきっかけに財政の悪化した基金に解散を促す「厚生年金保険法等の一部を改正する法律」が2014年4月に施行されました。財政がしっかりしている一部の基金以外は解散あるいは他の企業年金に移行することになります。解散予定の基金からすでに年金が給付されている場合には減額されることもあります。厚生年金基金からのお知らせにはしっかりと目を通しましょう。
企業にすべてお任せの確定給付型企業年金は、将来の年金額が決まっており、老後設計がしやすい年金です。平成25年度末の加入者数は約800万人で企業年金のおおよそ半分を占めます。企業から見れば負担が大きい年金ですので、一部を確定拠出年金に移行あるいは確定拠出年金に一本化する企業が増えてきました。
通称「日本版401K」と呼ばれる企業年金です。企業が掛金を拠出し、本人がその運用を指示します。運用商品には預金や投資信託、保険などがあります。年金資金は個別管理されますので、転職時に持ち運ぶことができます(=ポータビリティがある)。退職後に受け取る年金額は運用次第で決まりますので、老後の設計が立てにくいというデメリットがあります。また、原則60歳まで引き出せません。
拠出額の上限は月額55,000円、確定給付型の企業年金がある場合には27,500円です。企業の拠出額が上限に達していないときには、規約の定めがあれば一定の範囲内で個人が掛金を上乗せ拠出することが可能です。これをマッチング拠出と言います。
厚生年金基金や確定給付企業年金等がない企業の従業員も個人で加入することができます。掛金の上限は月額23,000円です。
このように個人が掛金を出し企業年金をつくる・増やす道が開かれたのですが、確定給付型の企業年金はあるけれど確定拠出年金を導入していない会社の従業員は加入できません。
国民年金の第1号被保険者も確定拠出年金に加入できます。拠出額は国民年金基金の掛金と合わせて68,000円(月額)までです。
門戸が広い確定拠出年金ですが、加入できない人がいます。それは前出の確定給付型の企業年金はあるけれど確定拠出年金を導入していない会社のサラリーマン、公務員、専業主婦です。理由は、サラリーマンは企業年金の制度上、公務員は職域加算がある、専業主婦は国民年金保険料を自分で納付していない、からです。
厚生労働省は、確定拠出年金に公務員や専業主婦なども加入できる確定拠出年金法の改正案を2015年4月3日に国会に提出しました。拠出額上限は前出のサラリーマンと公務員は月額1.2万円、専業主婦は月額2.3万円です。国会での改正案が成立すれば、ほとんどの人が公的年金の3階部分いわゆる企業年金部分を(自前で)準備できる土俵が整います。国が公的年金の給付額の伸びを抑えるために自助努力を国民に求め始めたということになります。少子化が更に進むと年金制度の改正はこの程度では済まないでしょう。老後の資金設計は数年ごとに見直しということになるのかも知れません。
専業主婦の身から外貨預金に興味を持ったことを機会にファイナンシャル・プランナーの勉強を始め、2000年にCFP (FPの上級資格)の試験に合格。2002年に独立開業し、個人向けにリタイアメントプラン、年金、貯蓄、賃貸経営などの相談業務を行う。また各種セミナーの講師も担当。1級ファイナンシャルプランニング技能士、福祉住環境コーディネーター2級、年金アドバイザーなどの資格を持つ。
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