ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 知らないと損をする相続・贈与対策 > 相続税を減らす生前の不動産対策【土地活用と法人化編】
不動産を所有していれば、毎年、固定資産税が課税されますので、土地を守ることは並大抵ではありません。しかし、土地を使って収益を上げればその土地を維持しやすくなります。土地を残して維持するためには、その土地を活用し、賃貸事業をすることが選択肢のひとつになります。土地を守り抜いて次世代に継承することができれば、資産として価値があるといえるでしょう。
所有する土地が賃貸事業に適していると判断された場合は、収支計画が成り立つバランスを見極め、アパートやマンションを建築すると、確実に相続税は大きく節税できます。なぜなら、資産評価方法が変わり、評価額が減額されるためです。
1.土地の評価は「貸家建付地」評価となり、時価のほぼ80%程度に。
2.建物は固定資産税評価額となり、実際に払った建築費の40%程度に。さらに賃貸していると借家権30%を引いた70%評価となります。
3.賃貸物件を建てる際の借入金は、負債として財産評価から差し引くことができます。
このような評価方法により、貸家建付地の評価減、建物の評価減、負債のマイナスを総合すると負債の方が大きくなることがよくあり、相続税を減らすことができるというわけです。
賃貸事業用地は、「小規模事業用宅地等評価減」の特例があり、条件に当てはまれば200平方メートルまでは50%で評価をすることができます。居住用の小規模宅地特例を使えない場合は、賃貸事業を始めておくことも大きな節税になります。
空き地にアパートやマンションを建ててさえおけば、相続税の節税になると思っている人がほとんどでしょう。ところが、建築費の返済も終え、全室が空き家という場合は、更地評価となり、節税効果はまったくないのです。全室が空き家でなくても、評価減が得られるのは、貸している部分だけです。
たとえば、10室のうち入居者がいるのが5室、残りの5室が空室となったままのアパートで、いずれ壊すつもりでリフォームもせず、募集もしていなかったという場合は、「貸家建付地」は敷地の半分となり、「小規模宅地等の特例」も半分の減額しか得られない計算になります。
貸家の形はあっても節税効果は少なくなるので、満室にしておくことが相続のことを考えた場合のメリットにつながります。
賃貸事業が順調に稼働して家賃が入るようになると、所得税もかかり、現金が財産として残っていくことになります。増える現金に対しても相続税が課税されますので、賃貸住宅を建てたことにより相続税の節税効果が薄まることは防ぎたいところです。
そうした場合、現金が増えることを避けるために、自分で不動産管理会社を設立して法人化し、その会社に家賃の一部を払うことで現金が増えることを防ぐと、所得税の節税にもつながります。また、親族に役員報酬を払うことで、将来の納税資金を貯めることもできます。
【実例】農業を縮小して賃貸マンションを建てたYさんの場合
Yさん:60代男性 相続人:Yさんの奥さん+子ども3人
農家を営むYさんは、ご夫婦で農業を続けて来られましたが、ともに60代後半になり、農業を縮小したいと考えておられました。会社員の長男と嫁いだ娘2人が自分たちのように農業を営むのは大変だという思いもあったようです。 そこで土地活用による節税対策を提案しました。
対策1:新たな賃貸事業で節税対策をする
Yさんは、父親が節税対策のために建てたアパートを相続していましたが、築年数が古くなり、負債もほとんど返済し終わっているため節税効果は薄く、次の対策を検討する時期にきていました。対策できる土地は、自宅に隣接する1,300平方メートルの畑です。ビニールハウスで野菜をつくり、即売所にしていましたが、そこに賃貸マンションを建てることを提案しました。
対策2:「オール電化」と「ペット可」で競争力のある賃貸物件に
現地は最寄り駅から徒歩15分ほどかかりますので、競争力のある物件にするためのコンセプトとして、「オール電化」と「ペットが飼える」賃貸マンションを提案しました。1K、1DK、1LDKのバリエーションがある鉄筋コンクリート造3階建ての26世帯住宅とし、駐車場も完備。周辺の2階建てアパートと比べて重厚感があり、完成後、すぐに部屋は埋まりました。財産評価の減額と借入れによる負債で相続税の節税にも成功しました。
◇土地活用による節税◇
[対策前]
●財産評価 3億2,400万円
内訳
土地(畑:市街地農地):1億400万円
その他(自宅、アパート、預貯金、有価証券など):2億2,000万円
[合計]3億2,400万円
●相続税 5,800万円(改正法)
(計算式)
1.課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算します。
財産評価 3億2,400万円 - 基礎控除 5,400万円(3,000万円+600万円×法定相続人数 4人)=2億
7,000万円
2.奥さんの課税遺産総額を法定割合2分の1と想定し、1億3,500万円に税率40%を掛け、定められた控
除額1,700万円を引きます。
1億3,500万円×40% - 1,700万円=3,700万円
3.子ども1人の課税遺産総額を法定割合6分の1と想定し、4,500万円に税率20%を掛け、定められた控
除額200万円を引きます。さらに3人分を合算します。
4,500万円×20% - 200万円=700万円、700万円×3=2,100万円
4.奥さんと子ども3人の相続税を合算し、合計額を出します。
3,700万円+2,100万円=5,800万円
◇対策
1.1,300平方メートル(路線価8万円/1億400万円)の土地に、新たな賃貸マンションを建てることを
提案。そうすることで、土地は「貸家建付地」評価となり、評価額は18%(1,872万円)の減額に。
2.賃貸マンションは、固定資産税評価で建築費2億2,500万円の40%の評価額に。さらにそこから借地
権30%を引いた6,300万円の建物評価に。また借入額2億5,000万円の負債が加わることで、対策後
の純資産額は1億1,828万円まで減額することができた。
[対策後]
●財産評価 1億1,828万円
内訳
土地(畑:市街地農地):8,528万円
賃貸マンション:6,300万円
その他(自宅、アパート、預貯金、有価証券など):2億2,000万円
賃貸マンションを建てるための借入金:△2億5,000万円
[合計]1億1.828万円
●相続税 約774万円(改正法)
(計算式)
1.課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算します。
財産評価 1億1,828万円 - 基礎控除 5,400万円(3,000万円+600万円×法定相続人数 4
人)=6,428万円
2.奥さんの課税遺産総額を法定割合2分の1と想定し、3,214万円に税率20%を掛け、定められた控除
額200万円を引きます。
3,214万円×20% - 200万円=442.8万円
3.子ども1人の課税遺産総額を法定割合6分の1と想定し、1,071万円に税率15%を掛け、定められた控
除額50万円を引きます。さらに3人分を合算します。
1,071万円×15% - 50万円=110.65万円、110.65万円×3=331,95万円
4.奥さんと子ども3人の相続税を合算し、合計額を出します。
442.8万円+331.95万円=774.75万円
【節税額】対策前の相続税 5,800万円 - 対策後の相続税 約774万円 = 節税額 約5,026万円
賃貸事業による月額の家賃収入は175万円、そのうち返済金が95万円、残り80万円が毎月の手取りになります。畑が収益性のある賃貸住宅となり、Yさんにはとても喜んでいただけました。また、新たな物件を建てたこの機会に奥さんを代表とする不動産管理会社をつくって法人化し、所得税の節税にも取り組まれています。
公認 不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士。日本初の相続コーディネーターとして1 2000件以上の相続相談に対処。感情面、経済面に配慮した“オーダーメード相続”を提案し、家族の絆が深まる「夢相続」の実現をサポートしている。NHK「あさイチ」」、TBS「はなまるマーケット」、フジ「とくダネ」などに出演。新聞、雑誌の取材も多数。「相続税を減らす生前の不動産対策」(幻冬舎)など著書多数。
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