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2015/02/02
必要な言葉が書いてない!気持ちは伝わっても自筆遺言では無効になる?

遺言書が無効になることもある

子どもたちが揉めないように遺言書を残しておこうという方が増えています。自分が亡くなった後は残された人がなんとかするだろうというのでは、うまくいくかどうか不安が残りますが、遺言書があれば自分の意思が実現できるからです。そのため、遺言書を書いておけばもう安心だ、と思う方も多いのですが、遺言書が必ず実現できるわけではなく、無効になってしまうこともあるのです。

今回は、無効になった実例を紹介しながら、そのような失敗をしないよう、遺言書作りのポイントをご紹介します。

〈失敗実例〉

毎日通って面倒を看た証の遺言書は無効だった

被相続人:父親
相続人:母親
    本人(Yさん 50代女性)
    姉3人

パートを辞めて毎日介護に通った

Yさんは四姉妹の四女です。四姉妹ともそれぞれが県内や近県に嫁いでおり、旦那さんやお子さんがいます。ご両親は実家で二人暮らしをしていますが、ともに80代後半となり、数年前から介護が必要になりました。特にお父さんが病気で寝込むようになってからは介護ヘルパーさんを頼んでも、お母さんだけでは手に負えなくなったのです。

その状態を見かねたYさんは、パートを辞めて 1日置きに実家に通い、ご両親の介護をするようになりました。介護を四姉妹で分担できれば負担も軽くすみますが、長女、次女は仕事をしており、三女は旦那さんの理解が得られないという理由で協力してくれません。結果、Yさん一人がご両親の面倒を看るしかありませんでした。

お父さんは自筆の遺言を書いてくれた

Yさんのお父さんはそうした状況を理解していたので、日頃からYさんにとても感謝しており、「相続のことはすべて任せる。家も渡す。」と言ってくれました。そして自筆遺言書にも、こう書き残していました。
「最後まで面倒を看てくれたYさんには本当に感謝している。ありがとう。遺産の分配は、Yに任せる。実家にはYが住んで残してもらいたい」

しっかり日付と署名、捺印もされていました。

しかし、遺言書は無効で使えなかった

Yさんは、お父さんが亡くなった翌日、封をしていないお父さんの遺言書を持って専門家に相談に行きました。お父さんの遺言書が活かせるのか、知りたかったからです。確認してもらうと、「お父さんの気持ちは表現されているものの、財産の分け方について明確な記載がないため、遺言書で相続手続きはできない」と説明されました。

遺言書には「遺産の分配はYに任せる」と書かれているので、お父さんの財産はYさんが介護した分だけ多めにもらうなど、Yさんが自由に決めてよいという意味に受け取れますが、「相続させる」という言葉が記されていないので、手続きができないというのです。

お姉さんたちが介護の貢献を認めず父親の意思は活かされない

そうなると、お父さんの財産の分け方については、お母さんと四姉妹で話し合いをして決めなければなりません。お母さんはお父さんの遺言に異論はなく、Yさんがすべての財産を相続すればいいと言ってくれましたが、問題はお姉さんたちです。Yさんは、お父さんの遺言書を見せて介護の貢献に見合うようお父さんの財産は自分が相続したいことを伝えましたが、三人ともまったく認めようとしません。お父さんの意思は活かされず、介護の苦労が報われないことになります。

話し合いは紛糾し、結局、法定割合で分けることになり、お母さんが亡くなったときに実家を売って分けられるよう共有名義にし、お母さんが一人暮らしをしています。

お父さんの意思も活かされず、介護の貢献度も認めてくれない姉たちとは、この先もうまくやっていけないだろうと、Yさんは不安な気持ちを抱えています。

<相続対策のポイント>

Point1.遺言書には遺産分割の内容を明記する

遺言書には、個々の財産について、誰に、どのような割合で相続させるかを明記しなければなりません。たとえ家庭裁判所で検認手続きが終わったとしても、曖昧な書き方では手続きができずに無効となります。例えば、「私の全財産について○○に相続させる」「私の所有する土地、建物を○○に相続させる」「私の所有する預貯金については、○○と○○と○○で各3分の1の割合で相続させる」など、具体的に書くようにします。

Point2.公正証書遺言だと間違いがなく安心できる

公正証書遺言は、法律家である公証人と証人の立ち会いの下に作成する正式なものなので、法的な間違いはなく、無効になることはありません。本人と証人が公証役場に出向いて作成しますが、入院されている場合や高齢で公証役場まで出向くことが困難な場合は、公証人と証人が、病院や自宅などに出向いて作成することもできます。また、自署することが不自由な場合や発声することが困難な場合であっても、ご本人の意思を確認することができれば、公証人が判断をし、公正証書遺言を作成することができます。

ただし、認知症だと診断されたあとだったり、後見人が選任されたあとでは本人の意思能力がないと判断され、公正証書遺言の作成はできません。早いようでも本人の意思が明確なうちに作成されることをお勧めします。

Point3.遺言書をつくるときに配慮したいこと

・こっそり作成しない
  →相続人に知らせておくことが大切
・遺産分割は公平にするのが無難
  →遺留分には配慮する
・公平な遺産分割にならないときは理由を明記する
  →付言事項を活用し理由や意思を書いておく
・財産のことだけでなく、感謝や気持ちも残す
  →意思を残すことは最良の説得材料で価値がある

自分の想いがちゃんと正しく反映される、揉めない相続には、正しい遺言書を書くことが重要です。また、自筆の遺言書の場合は、無効になることもあるため、事前に専門家のアドバイスやチェックを受けておくようにしましょう。

執筆者:曽根恵子

公認 不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士。日本初の相続コーディネーターとして1 2000件以上の相続相談に対処。感情面、経済面に配慮した“オーダーメード相続”を提案し、家族の絆が深まる「夢相続」の実現をサポートしている。NHK「あさイチ」」、TBS「はなまるマーケット」、フジ「とくダネ」などに出演。新聞、雑誌の取材も多数。「相続税を減らす生前の不動産対策」(幻冬舎)など著書多数。
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