1. 不動産の購入にはさまざまな諸費用が掛かる
土地や建物を購入するときは、仲介手数料や住宅ローンに関する諸費用、登記費用や火災保険料など、土地代や建物代以外にたくさんの諸費用が掛かります。 またさまざまな諸費用が取引のどういったタイミングで必要になるのか紹介します。
2. 仲介手数料(仲介手数料が掛かる場合と掛からない場合)
仲介業者を通して物件を購入する場合、売買代金に応じた仲介手数料が掛かりますが、不動産会社や建設会社から直接物件を購入する場合、仲介手数料は掛かりません。
例えば、どんな物件でも仲介業者を通して物件を購入するときは仲介手数料が掛かりますが、仲介業者を通さず物件の売主から直接購入する建売住宅や中古リノベーション物件等には仲介手数料は掛かりません。
なお、仲介手数料の有無は、購入を検討している物件広告の取引態様欄を見れば分かります。
取引態様の種類 | 売主 | 媒介 | 代理 |
---|---|---|---|
仲介手数料の有無 | 無 | 有 | 有 |
取引態様の明示例 | 取引態様:<売主> 営業時間:AM10:00~PM7:00 |
---|
2-1. 取引金額
代金額 | 報酬の限度額(税別) |
---|---|
400万円超 | 代金額×3%+6万円 |
200万円~400万円以下 | 代金額×4%+2万円 |
200万円以下 | 代金額×5% |
2-2. 5,000万円の物件を購入した際の報酬額の計算例
(5,000万円×3%+6万円)×1.1(消費税)=1,716,000円
2-3. 売買代金(建物)に消費税が含まれている場合の報酬計算について
建物に消費税が掛かる物件の仲介手数料については、売買代金総額をベースに計算するのではなく、売買代金総額から消費税を控除した売買代金をベースに計算します。
2-4.【具体例】売買代金総額税込3,980万円(うち、土地代金2,000万円)の建売住宅の場合て
売買代金総額は3,980万円であり、そのうち消費税が掛からない土地代金は2,000万円のため、建物代金は税込1,980万円。
建物代金には消費税が含まれるので、消費税額は180万円、建物代金は1,800万円。
土地代金2,000万円と税抜きの建物代金1,800万円の合計は3,800万円のため、報酬額の上限は下記のとおり計算します。
(3,800万円×3%+6万円)×1.1(消費税)=1,320,000円
下記のように誤って計算されてしまう場合があるので注意が必要です。
(税込売買代金総額3,980万円×3%+6万円)×1.1(消費税)=1,379,400円
契約締結時と決済時に半金ずつ支払うケースが一般的です。
3. 登記に関する費用と登録免許税
建物を新築したときは表題登記や保存登記。
土地や建物を購入したときは所有権の移転登記。
住宅ローンを利用して金融機関から融資を受け土地や建物を購入するときは、土地や建物に抵当権の設定登記を行うように、不動産を購入するときはいろいろな登記手続きが必要になります。その登記手続きの際、必要になるのが登記費用です。
登記費用には登記手続きに必要な登録免許税といった税金だけでなく、登記手続きを行う司法書士に対する報酬やその他の費用が掛かります。
標準税率 | 軽減税率 | |
---|---|---|
土地の所有権移転登記 | 2% | 評価額×1.5% (令和3年3月31日まで) |
所有権の保存登記(新築建物等) | 0.4% | 評価額×1.5% (令和4年3月31日まで) |
所有権の移転登記(中古建物等) | 2% | 評価額×0.3% (令和4年3月31日まで) |
(注) 上記の軽減税率の適用を受けるには、床面積が50平方メートル以上であることや、新築又は取得後1年以内の登記であること等一定の要件を満たす必要があります。
本則税率 | 特例税率※ | |
---|---|---|
抵当権の設定登記 | 0.4% | 評価額×0.1% (2022年3月31日まで) |
※個人の住宅の用に供される床面積50平方メートル以上の家屋・中古住宅の場合は、築後25年以内(木造は20年以内)のもの、または一定の耐震基準に適合するもの
参照:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
参照:財務省「登録免許税に関する資料」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/e08.htm
3-1. 司法書士への報酬の目安
所有権移転:50,000円~
抵当権設定報酬:45,000円~
抵当権抹消報酬:20,000円~
※登記の種類、依頼する司法書士、地域により、目安の費用は異なります。
3-2. 司法書士へのその他費用の目安
日当:10,000円~
交通費:3,000円~
附属書類作成、事前調査:10,000円~
事後謄本、受領書、還付、郵券等:3,000円~
登記識別情報通知引渡し:2,000円~
※不動産の所在地、地域、交通の利便により、目安の費用は異なります。
3-3. 家屋調査士への報酬、その他の費用の目安
表示登記:50,000円~
測量業務:500円/m2~
隣地境界立会い:20,000円~
※一戸建てを新築したり、土地を購入したりする場合など
なお、登記に関する費用や登録免許税は建物を新築し完成した段階や、売買の所有権移転登記時(決済時)に現金で司法書士に支払うのが一般的です。
4. 印紙税
取引で扱われる売買契約書や建設工事請負契約書だけでなく、 住宅ローンを利用して不動産を購入する場合には、住宅ローンの利用に伴う金銭消費貸借契約書に法令所定の印紙税額の印紙を貼付して納付しなければなりません。
印紙税額の例 | 売買契約書 | 工事請負契約書 | 金銭消費貸借契約書 |
---|---|---|---|
売買契約書売買代金が1,000万円超5,000万円以下の場合、1万円(2022年3月31日まで) | 工事請負契約書工事請負代金が1,000万円超5,000万円以下の場合、1万円(2022年3月31日まで) | 金銭消費貸借契約書借入金額が1,000万円超 5,000万円以下の場合、2万円 |
印紙税は、売買契約や工事請負契約の締結時に使用される売買契約書や工事請負契約書に印紙を貼付して納付します。また、住宅ローンの借入に伴い金融機関と金銭消費貸借契約時に使用される金銭消費貸借契約書に印紙を貼付して納付します。
参照:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/08/10.htm
参照:国税庁「建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/12/03.htm
5. 不動産取得税
土地や家屋を売買や贈与、建築(新築・増築・改築)などにより取得した人に課税される税金で、登記の有無、また有償・無償にかかわらず課税されます。ただし、相続により取得した場合など課税されないケースもあります。
一定の要件を満たすことで、課税標準の特例や税額減額の特例が受けられます。
不動産取得税は、保存登記や所有権移転登記を行ってから4~6カ月くらいの間に納税通知書により通知され納税することになります。
6. 住宅ローンの借入に伴う諸費用
住宅ローンを利用する場合には、融資手数料や保証料等が掛かります。
融資手数料は数万~数十万円と一律で決まっている場合や、融資金額の2%といったように、融資金額により変動する場合など金融機関や住宅ローンの種類によりさまざまです。
保証料は、一般的に借入金額の2%前後を住宅ローンの契約時に現金で一括払いする方法や住宅ローンの金利に上乗せして、毎月の返済額に含めて支払う方法があります。
※一部の金融機関や住宅ローンの種類によっては保証料が掛からない場合もあります
住宅ローンを利用する際は、死亡や所定の高度障害状態となった場合、保険金が支払われ、住宅ローンの返済が不要となる団体信用生命保険(保険料が金利に含められ、実質負担0円)への加入が原則前提となりますが、三大疾病保障特約等の保障範囲を広げた特約を選択する際は、金利の上乗せが必要になることが一般的です。
フラット35(中古タイプ)を利用するときは融資を利用するための条件を満たしているかどうか判断するための資料として「適合証明書」の発行費用が発行する会社により異なりますが、5万円~10万円程度必要になります。
利用したい金融機関や住宅ローンの種類、借入額等により住宅ローンの借入に伴い必要な手数料や保証料は異なるため、諸費用を現金で十分に充当できないときは、諸費用まで含めた借入額を検討するなど、早めに金融機関と相談しておきましょう。
7. 火災保険・地震保険料
引渡しを受けるまでの間に契約しておく必要がある火災保険。
最近の火災保険は、火災落雷、破裂・爆発といった「火災リスク」だけでなく、風災、ひょう災、雪災、水災等の「自然災害リスク」や、外部からの物体の衝突、水濡れ、不注意による破損・汚損といった「日常生活リスク」なども補償します。補償範囲を広くすれば広くするほど保険料は高くなり、保険期間を長くすれば長くするほど(火災保険期間最長10年)保険料は高くなります。
補償範囲や保険期間をよく見極めたうえで損害保険の代理店から保険会社数社の見積もりを入手しておきましょう。
火災保険とセットで加入することが前提になっている地震保険は、地震リスクが高いエリアほど保険料が高めに設定されていますが、保険会社による差はありません。
初期費用を抑えるために、保険料を年払いにする方法などもありますが、保険期間の全部を一括払いすることで保険料が節約できる場合もあります。
8. 固定資産税及び都市計画税の清算金
不動産の売買では、年間の固定資産税等を引渡し前日までの分を売主が、引渡し日以降の分を買主が負担するように固定資産税等を引渡し日に清算(365日日割精算)を行います。
この清算を行う起算日は、慣習上、関東では1月1日、関西では4月1日になります。なお、売買した年度は売主と買主間で365日日割精算を行いますが、翌年度からは買主が毎年1年間分を負担することになります。
※固定資産税額が年間15万円の関東(起算日1月1日)の物件の不動産取引で、2021年7月1日に引渡しを行う場合の清算例。
売主負担日数:2021年1月1日〜2021年6月30日までの181日分
買主負担日数:2021年7月1日〜2021年12月31日までの184日分
売主負担額:150,000円×181日/365日=74,384円
買主負担額:150,000円×184日/365日=75,616円
9. 修繕積立金や管理費等の精算金
マンションの取引の場合、毎月負担しなければならない管理費や修繕積立金について引渡し日において日割精算を行います。
清算はその月の1日から引渡し前日までの分を売主が、引渡し日以降その月の末日までの分を買主が負担するように清算を行います。ただし、管理費や修繕積立金は口座振替により翌月分が前月に引き落とされていることが多いため、日割清算分だけでなく1カ月分余計に売主へ支払う清算を行うのが一般的です。
※管理費15,000円/月、修繕積立金15,000円/月(合計30,000円)の物件の不動産取引で、2021年7月20日に引渡しを行う場合の清算例
売主負担日数:2021年7月1日〜2021年7月19日までの19日分
買主負担日数:2021年7月20日〜2021年7月31日までの11日分
売主負担額:30,000円×19日/31日=18,387円
買主負担額:30,000円×12日/31日=11,613円
10. 引越し費用
引越し費用は荷物の量や移動距離だけでなく、建物の階数やエレベータの有無、引っ越す時期によりかなり差があります。 また、業者により価格だけでなくサービス内容にも違いがありますので、早めに何社かに見積りを依頼しておくことがいいでしょう。
11. リフォーム費用
中古住宅の取引では、内装だけでなく外装も修繕する必要がある物件はめずらしくありませんし、大掛かりな修繕やリフォームには多額の費用も掛かります。
また、内装や外装といった修繕やリフォームにはそれなりに時間も掛かるため、引っ越すまでの間の仮住まい費用や、賃貸住宅の引き渡し時期を修繕やリフォームの完了時期まで伸ばす費用が必要になります。
大規模な修繕やリフォームには事前の打合せにもたくさんの時間が掛かりますので、打ち合わせに必要な期間の仮住まいを確保したりなるべく打合せは効率的に済ませたりするなど、修繕やリフォーム工事の期間だけでなく打ち合わせの時間も考慮した仮住まい費用を検討しておくことと、気に入った業者数社から見積もりを入手してじっくり比較することが大切です。
12. 建物の調査費用
中古住宅の取引では、その建物のコンディションを把握してあとどのくらい住めそうか、リフォームや修繕にどのくらいの費用を見込んでおいたほうがいいかといった判断をするための既存住宅状況調査や、中古住宅を購入するときに住宅ローン減税(住宅借入金特別控除)が利用できるようにするための耐震基準適合証明書の取得調査費用など、意外と知られていない諸費用もあります。 これらの費用はすぐに役立たなくても、長期的に考えると効果的なときや、結果的には大きな恩恵を享受できる費用になる場合もありますので、ぜひ覚えておきたい諸費用のひとつです。
13. その他
購入した不動産がそれまでの間に住んでいた家や部屋より部屋数や面積が増加するケースでは、照明器具やカーテン、家具やエアコンなどを新規や追加で購入しなければならない場合がほとんどです。 これらの費用は数十万円単位や百万円台になることもめずらしくありませんので、忘れずに準備しておきたい費用です。
14. まとめ
建物の新築や土地や建物の売買では、さまざまな諸費用がさまざまなタイミングで掛かります。 また、引渡し直前には引越しの準備や公的手続き等に時間が奪われ、各種の諸費用を十分に比較検討することができず、余計な諸費用を支払うことになったり諸費用が必要なタイミングで必要な金額を支払うことができなくなったりすることがあります。忘れがちな諸費用もたくさんありますので、諸費用の計算や比較検討にじっくり考える時間が確保できますよう、早めに諸費用まで含めた資金計画を立ておきたいところです。
三上隆太郎
宅地建物取引士・2級ファイナンシャル・プランニング技能士・管理業務主任者
大手ハウスメーカーにて注文住宅の受注営業、家業の建設業では職人として従事。
個人向け不動産コンサルティングのコンサルタント・インスペクターを経験し
中古+リノベのボランタリーチェーン展開、資格の予備校にて宅建業法専属講師など、不動産業界に幅広く従事。各種講演、執筆実績多数。
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