近年「キッチン」は家族の絆を育む大切な場として捉えられるようになり「住まいの中心はキッチンにあり」とも考えられるようになりました。分譲マンションでも魅力的なキッチンが多く見られ、購入する側にとっても物件選びの基準のひとつに「キッチン」を上げる人が増えました。キッチンは、そこに住む家族のライフスタイルや食生活に密接に関わる場です。どんなキッチンが自分たちにあうのか、間取りを見ながらよく考えて選ぶようにしましょう。
まずはキッチンに必要な設備を確認しておきましょう。一般的にマンションのキッチンは無駄なスペースがなくコンパクトに設計されていることが多いのですが、最低でも流し台(シンク)、作業スペース、コンロ、レンジフード、冷蔵庫と食器棚を置くスペースが必要です。ビルトイン食器洗浄機や造り付けの食器棚などは、分譲マンションではオプションで設置できるようにしているケースが見られます。
家庭で食事を作る回数が少ないシングルの人であれば、ミニキッチンに電気ポットと電子レンジがあれば良いという考え方もありますが、今回はファミリーを対象としたマンションのキッチンレイアウトを間取り図で紹介します。
「壁付け型」はキッチンの主要機器(シンク、コンロ)を壁面に沿って配置したレイアウトのことを言います。そして【図1】のキッチンのように、冷蔵庫・シンク・コンロを1列に並べたレイアウトを「1列型配置」と呼びます。
壁付けキッチン/1列型の場合、リビング・ダイニングとの境に壁はなく、リビング・ダイニングとつながるオープンキッチンになることが大きな特徴です。
・オープンキッチン「壁付けキッチン/1列型」のメリット
このキッチンレイアウトはリビング・ダイニング・キッチンのスペースが12帖程度しか取れない場合などでも採用可能で、限られた空間を最大限有効活用できる点が最大のメリットです。キッチンで作業していてもリビングやダイニングの様子が音や気配でわかりやすいですし、シンクの前に窓があると、景色を見ながら調理をすることができます。旧公団の間取りなどでもよく見られる、キッチンの基本的なレイアウトになります。
・オープンキッチン「壁付けキッチン/1列型」の注意点
シンク・コンロ・冷蔵庫が横一列に配置されているため、調理中の動線が横方向に長くなりすぎると効率はあまりよくありません。リビング・ダイニング・キッチンが一体化しているので、キッチンの匂いや音がリビング・ダイニングにダイレクトに伝わります。また、リビング・ダイニングに背を向けて壁に向かって作業することになるため、リビングにいる子どもの様子を見たいときなどに振り返る必要があります。
【図2】もシンク・コンロを壁に沿って配置した「壁付け型」のキッチンで、シンクの背面にコンロ台が配されている2列型になります。リビング・ダイニングとの間に扉が設けられ、扉を閉めると独立したキッチン(=クローズドキッチン)になることが大きな特徴です。
・「独立キッチン/2列型」のメリット
独立したキッチンとなるため、料理に集中しやすいです。扉を閉めてしまえば調理中のにおいや音がリビング・ダイニングに漏れにくくなります。また、2列配置になっており、充実した設備を設けることができます。1列型と比べ作業動線が短くなるため作業がしやすく、収納も大きく取ることができます。
・「独立キッチン/2列型」の注意点
2列の間に最低90センチの間隔が必要なため、キッチンの面積が大きくなります。ある程度の広さがあるマンション住戸で可能なレイアウトです。リビング・ダイニングとの間の扉を閉めるとリビング・ダイニングの様子がわかりにくくなるため、調理中は孤立しているように感じるかもしれません。
キッチンの一部が半島のように壁から突き出した形をしていることから「ペニンシュラ型」と呼ばれるレイアウトです。特徴はシンクの片側が壁にくっついていることです。
ペニンシュラ型はリビング・ダイニングとつながりのあるオープンキッチンまたはセミオープンキッチンが主流になります。コンロやシンクの前に立つと、リビング・ダイニングの様子がわかります。
・セミオープンキッチン「ペニンシュラキッチン」のメリット
このタイプのキッチンは、リビング・ダイニングとキッチン空間が緩やかにつながっているため、キッチンに居ながらリビング・ダイニングの様子がわかりやすいことが魅力です。料理をしながら子どもの宿題を見たり、リビングにいる家族との会話もでき、家族同士のコミュニケーションが取りやすく、特に子育て世帯のファミリーに大変人気があります。
・セミオープンキッチン「ペニンシュラキッチン」の注意点
キッチンとリビング・ダイニングが緩やかにつながっているため、音や匂いはリビング・ダイニングに伝わりやすいです。また、リビング・ダイニングからキッチンのシンクまわりや調理の手元が丸見えになることを気にする人もいるようです。シンクの前面に10~15センチ程度の立ち上がりがあれば、見えにくくすることが可能です(上の写真を参照)。
シンクまたはコンロ、もしくは両方を設けた機器を、まるで海に浮かぶ島のように四周を壁から離して設置したレイアウトを「アイランド(=島)型」といいます。アイランドを囲むようにして作業ができるので、家族で調理を手伝ったり、ホームパーティを開いたり、自宅で料理教室を開くときなどに向くレイアウトです。
・オープンキッチン「アイランドキッチン」のメリット
シンクやコンロなどの調理機器の存在がひときわ目立つキッチンレイアウトです。キッチンがリビング・ダイニング空間と一体になっており、視界を遮るものがなく、開放的なキッチンになります。周囲からキッチンが良く見えるため、家族の手伝いも自然と増え、コミュニケーションが深まりやすいキッチンです。
・オープンキッチン「アイランドキッチン」の注意点
アイランドキッチンは周囲にスペースが必要なため、設置するためには大きな空間が必要となります。【図4】の間取りのLDKは約20.4帖。このくらいの広さがあればほとんどのLDKでの設置は可能ですが、狭い空間には設けることができない場合があります。
調理機器やコンロ付近に設ける換気扇が丸見えになるため、設ける設備機器のデザイン性を重視したいところです。雑然としないよう、常にキッチンをキレイに保つ必要があります。そのためには、調理用具などを収納するスペースが十分確保されていることも必要です。日ごろの整理整頓、掃除が苦にならない人に向きます。
最近では共働きの家庭が増え、外食や、外で買ったものを家で食べる中食が増える傾向があり、家庭での食事の在り方が変わりつつあります。また、もう一つの大きな変化として、調理時間を短縮できる便利なAI家電の登場もあります。AI家電を駆使すれば、大きなキッチンは要らなくなるかもしれませんが、それらの家電を置くスペースが必要になります。
このように、家庭において日々の食事をどうするのか、これからどうしていこうと考えるのか、それは家庭ごとにいろんな答えがあって良いと思います。自分たちが思い描くライフスタイルが実現できるキッチンを選ぶためにも、間取り図をよく確認することが大切です。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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