マンションに住んでいる場合、子ども部屋はどこにあったらよいでしょうか。住まい全体の広さや個室の数、子どもが何人いるか、年齢の差、性別などはもちろん、子どもの成長とともに理想の子ども部屋の在り方も変化します。もし長く住み続けるつもりであれば、フレキシブルに対応できる間取りを選びましょう。
「子ども部屋はどこにすべきか」と考える前に、そもそも「子どもに個室を与えるべきか」という議論があります。個室はあった方がよい、いや兄弟または姉妹で同じ部屋でもよい、または必ずしもきちんと区切られた個室でなくてよいなど、さまざまな考え方があります。
今回はその良し悪しの判定をするのではなく、マンションに住む家族が「子どもがある年齢になったらそれぞれに子ども部屋を与えたい」と考えていることを前提として、子ども部屋が必要な期間の確認と、子ども部屋をどこに設けたらよいかを検証したいと思います。
欧米では、子どもの自立心を育てるため、また親の育児負担を軽減するため、子どもが生まれる前から子ども部屋が用意されることが多いようです。一方、日本では、欧米を見本として早くから寝室を別々にした方が良いと言われていた時もありましたが、現在では添い寝で愛情を育むという考え方が広く一般的になっているようです。
もし小さいころに添い寝をするのであれば、子どもが小さいうちは、子ども部屋はなくても良いでしょう。
最初に訪れる大きな節目は子どもの「小学校入学」です。小学校入学時にはランドセルや学習用具などをそろえる必要があり、これを機に学習机を購入する家庭が多く、机を置くスペースとして子ども部屋を検討するようになります。子どもが複数人いる場合は、成長に伴い、同じようなタイミングで子ども用のスペース捻出を検討することになるでしょう。
実際には小学校入学を迎えても親と一緒に就寝するスタイルは変わらず、親と離れて子ども部屋で就寝するようになるのは、個人差はありますが10歳くらいが多いのではないかと思います。
「中学入学」を迎えると、思春期の訪れとともに子どもが強く「個室が欲しい」と訴えるようになる時期です。このころには昼夜問わず、子ども部屋にこもる時間も増えてくることが考えられます。
次のタイミングは子どもの「大学進学」です。進学を機に実家を離れ、一人暮らしを始めるケースです。例えば、第一子が巣立って行ったあと、子どもたちが順番に巣立っていく家庭も多いでしょう。それぞれに与えていた個室が空き部屋となり、使っていない部屋がひとつ、ふたつ、と増えていく時期です。
以上を次のような例でまとめてみました(夫婦+子ども2人の4人家族。子どもには小学校入学時にそれぞれ個室を与えると想定)。
【子ども部屋が必要な時期】
「未就学期(夫婦と子どもが2人、第一子が未就学の家庭)」
子どもは親と同じ部屋で就寝。子ども部屋はなくてもよい
「小学校入学期(夫婦と子どもが2人、第一子が小学生の家庭)」
・第一子が小学校入学のタイミングで子ども部屋を1室設ける
・第二子が小学校に入学するタイミングで子ども部屋をもう1室設ける。子ども部屋は計2室となる
・しばらくは親と一緒に就寝する。10歳~中学入学の頃には就寝も別々になる
「高等教育期(夫婦と子どもが2人、第一子が大学生の家庭)」
・第一子が一人暮らしを始めると子ども部屋は2室→1室へ
・第二子も一人暮らしを始めると子ども部屋は空き部屋に
このように考えると、子ども部屋が必要な時期は意外と短いことが分かります。子どもが2人で年齢差が3才の場合、第一子が大学入学とともに一人暮らしをする最短のケースでは、子ども部屋が1つあればよい期間は計6年間、それとは別に、子ども部屋が2つ必要な期間は10年程度です(【表1】)。
子どもが巣立ってから夫婦が2人で暮らす期間はその後20年くらいあると考えると、子ども部屋が空き部屋になった時の使い方も考えておく必要があります。
もし3LDK以上の間取りであれば、子ども部屋が2室必要だとしても個室数は足りるでしょう。しかし、3LDKでは個室が足りなくなるケースもあります。例えば在宅勤務をするために仕事部屋が必要な場合や、3LDKの間取りの1室がプライバシー性の低い中和室の場合などです(参照【図表2】中和室のある間取り)。
南向きの部屋は、1年を通して快適に過ごせます。昼間の明るい時間が長く、冬は日射が部屋の奥まで入り込んで暖かく、太陽高度の高い夏は窓の外にバルコニー(または庇=ひさし)の出があれば適度に日射が遮られるため、西向きの部屋ほど暑くなりません。
もし、子どもが日中の多くの時間を子ども部屋で過ごすのであれば、南向きがおすすめです。しかし、もし学校や習い事などで昼間の時間の多くを自室以外で過ごすのであれば、貴重な南向きの部屋は別の空間に割り当てて良いと思います。
例えば家族の誰かが昼間にリビングやキッチンで過ごす時間が長いならリビングやキッチンを南向きに、在宅で仕事をする時間が長いなら仕事部屋を南向きに持ってくる、などです。昼間の滞在時間が長い部屋が快適な南側に来るように計画することをお勧めします。
光熱費の観点でも、住まいで消費するエネルギー量は夏の冷房よりも冬の暖房の方が多く、世帯あたりのエネルギー消費量の割合は冷房2.4%に対し、暖房25.1%と10倍以上になっています(【図表3】)。そのため、冬場に日射によって空気が温まりやすい南向きの部屋を長い時間滞在する部屋として使えば、暖房エネルギーの消費を抑えることができ、省エネ、エコ、光熱費の削減につながります。
一方、北向きの部屋にもメリットがあります。北向きの窓から見える景色は陽が当たってキレイに見えます。例えば北側の隣家の庭に花が植えてあれば、それらの花はこちらを向いて咲いています。また、部屋に陽が入らなくて暗いというイメージがありますが、直射日光が入らず1日を通して部屋の明るさが均一のため、読書や勉強、仕事をする部屋に適しているといわれています。子どもが受験期などで集中しやすい環境が必要なら北向きもよいでしょう。
具体的な間取り例を見ていきます。
【図表4】と【図表5】は、共に専用床面積80.7m2の同じ住戸です。住戸の真ん中にアイランドキッチンがあり、20.4帖の広々としたリビング・ダイニング・キッチンと夫婦寝室が南側に設けられています。
【図表4】は子どもが就学前の時期における空間の使い方のいち例です。子どもはまだ個室を必要としないため、将来子ども部屋になる部分を「ファミリーライブラリー」として多目的な空間にしています。南側の寝室(約7.5帖)に幅140cmのダブルベッドを2つおいて、家族4人で川の字で就寝します。
続いて【図表5】は、子どもが中学生以上になり、それぞれに個室を与えた時の間取りの例です。子ども2人が中学に入学し、子ども部屋をふたつ作った例です。子ども部屋はそれぞれしっかりとプライバシーが確保されていますが、LDKから出入りするので気配は感じることができるでしょう。
以上のように、子どもが小さいころは広く家族の共有スペースとして活用し、子どもの成長とともに個室にするなど、変化に対応できる間取りだとベストだと思います。
子どもが成長して思春期になったころに子ども部屋という個室があると、家族の負担も軽減できることをお伝えしたいと思います。
わが家では男の子2人を育てましたが、思春期に入るとものすごい反抗期がやってきました。そうなると親と子、兄弟間でも緊張の続く日々となります。顔を合わすのも辛いという時期に、子ども部屋があったおかげで冷静になれる、クールダウンの時間を持てました。
もし子ども部屋がなかったらお互いにイライラしっぱなしで、もしかしたらどこか親の目が届かない外に行って長い時間帰ってこなかったかもしれません。幸いなことに自宅内に子ども部屋という子どもの居場所がありました。
親としても、例え話をしなくても、部屋にいる気配を感じることで安心することができたと思います。思春期を過ぎれば仲の良い親子に戻りましたが、あの時期の子ども部屋には本当に助けてもらったと思っています。
子ども部屋を設けるか、設けないかは子どもの個性や親の考え方、住まいの状況によりさまざまな答えがあります。子どもそれぞれに個室を与えなくても、同性であれば、相部屋にするという考え方もあります。また、きょうだいで年の差があれば、時間差で部屋を使いまわすことも可能です。
もしそれぞれに子ども部屋を作ってあげようと考えるなら、子どもの数+1(夫婦寝室)の数の個室が必要です。子どもが2人なら、3LDK以上の間取りがよいでしょう。ただし、在宅勤務をするなら仕事をするスペースも必要です。また、3LDKでもそのうちの1室がリビング・ダイニングに隣接し引き戸でつながっている場合、プライバシー性が低く、個室として使いにくいということを念頭に入れておいてください。
最初から子ども部屋が独立している必要はなく、親と添い寝をしている小さい時期は遊び場として広く使い、1人で就寝するようになったら区切って個室にするなど、年齢にあった子ども部屋を与えられるような、フレキシブルな間取りを選ぶようにしましょう。子どもが個室を必要とする時間は意外と短く、子どもが巣立った後に空いた部屋を有効に使えそうかも含め、最初からイメージして間取りを選ぶとよいでしょう。
マンションでは、角部屋やワイドスパンの住戸などを除き、南向きの部屋は貴重です。リビング、ダイニング、子ども部屋、仕事部屋、どの部屋がどの位置にあると良いか考える際には「長い時間を過ごす部屋」を南向きに持ってくることをお勧めします。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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