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老後の暮らしとお金のコラム60歳からの教科書『豊かな住まい方』

2017/04/28
60代以降の人生の豊かさはコミュニティで決まる

人生が90年の時代に入った。
平均寿命が40代だった1900年代(明治期)と比べて倍になったから、もはや一通りの人生では生ききれない事態が起こっている。60~65歳で定年したとしても、あと30年あるからだ。

60代からの第二の人生の豊かさは、それまでに夫婦で蓄積したものか、それ以降に自ら開発するコミュニティでの人間関係で決まる。属していた組織が無条件に晩年を保障してくれる人はもはや少数派だろう。だとすれば、生きるためにそれ以外の繋がりが必要になるからだ。この事実は、12万部のベストセラーとなった拙著『坂の上の坂』(ポプラ社)(https://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80007760)でも指摘させていただいた。

私の人生を彩っているもの

私たち夫婦の場合は、テニスを軸にしたコミュニティが大きな役割を果たしている。スポーツのコミュニティに集う都市部の人は、別荘などを拠点にしてテニスやゴルフ大会など、リゾート地でも仲間同士の交流を深めるケースが多いと思う。

一方、私自身が開発したコミュニティとしては、東日本大震災後の被災地の復興において、宮城県石巻市雄勝(おがつ)に絞り込んでコミュニティの再生に加担したことを挙げる。現地の中学生や高校生、学校関係者、漁師さんや自治体の職員との関係はもちろん、東京側で支援にあたる応援団同士のネットワークも広がった。今は、雄勝の旧桑浜小学校跡地に建設された自然学校「MORIUMUS(モリウミアス)」(http://moriumius.jp)を継続的に支援している。

「MORIUMUS(モリウミアス)」開設準備のための桑浜小学校跡での運動会に参加

文字盤に雄勝石を使った復興腕時計「japan311」を開発して、その収益金で和太鼓を寄贈し重要無形民俗文化財の雄勝法印神楽を復興。時計メーカーのコスタンテ・清水社長と

また、私には、「60歳からは恩返しの人生だ」という考え方もある。だから、アジアに10年間で200を超える学校を寄贈している「アジア教育友好協会(AEFA)」(http://www.nippon-aefa.org)をバックアップして、ラオスとネパールで義務教育を受けられない子どもたちのために学校を建設する「アジア希望の学校基金(WANG/Wisdom of Asia for Next Generation)」を設立した。(http://www.yononaka.net/wang/index.html)2月には、ラオスのパチュドン地区初の高校の開校式にリクルートやヤフーの仲間たちと行ってきた。震災で壊れたネパールのジャナター小学校の改築支援では、著名な経営コンサルタントである大前研一さんも参戦してくれた。

こんなふうに、被災地や開発途上国での教育支援では、良質なNPO・NGOと組むことで支援者同士のコミュニティがホットになり、コミュニケーションが深まっていく。様々な人との繋がりに、私もハラハラ、ワクワク、ドキドキした人生を送れている。

大前研一さんがサポートしてくださった丘の上のジャナター小学校@ネパール

幼児教室での風景@ネパール

ラオスのパチュドン地区初の高校の開校式にて

コミュニケーションの題材としての「家」

60代からの住まい方の問題に話を戻すならば、自宅を中心とする地域コミュニティも開発すべきコミュニティの一つと言える。
最近の傾向として、住宅を新築したり改築する際には、「和」の味わいを大切にする人々が多くなってきたように思う。私は、地域コミュニティにおけるコミュニケーションの題材として、「和」の要素を取り入れた住まい方の知識が欠かせないと考え、自宅にも反映してきた。ここから先は、そのような私の「和」題を提供する。あくまで洋式の家に洋風に住みたい読者には読み飛ばしてもらって構わない(笑)。
 
まず、一つ目は、「和」の要素を住まいに取り入れようとすると、通常は私のように「ネオ・ジャパネスク・デザイン」を目指し、洋風の良さも取り入れながら、現代和風を追求することになるということ。なぜなら、純和風の邸宅に住もうと思えば、100坪単位の広い敷地がいる。門構えから玄関へのアプローチが長い方がいいし、できたら平屋構造で屋根には瓦を乗せたい、総2階の純和風なんて考えられない、という話になる。しかしながら、現代、特に都心部においてその広さの土地を確保することは、多くの人にとってあまり現実的な選択肢ではないからだ。

二つ目は、「町家を改装した宿」の話だ。古い家屋の躯体を生かして建てかえたり、マンションの一室をスケルトン状態から和風に改築するときに参考になる。
奈良に移住してから、友人が訪ねてくるたびに宿泊を勧めている「紀寺の家」(http://machiyado.com)の見事なデザインを見てほしい。もともと古い町家が連なっていたものを地主さんがアパートに建てかえようとしていたのだが、建築家の藤岡龍介さんがネオ・ジャパネスクにリノベーションし、5室だけのプライベートな旅荘として家族で経営している。古都を訪ねる60代の夫婦には一押しの宿である。

三つ目には、拙宅のネオ・ジャパネスクな演出の話を。読者が新築・改築するような時には参考になると思われる「一点豪華」のポイントについてである。
「玄関ドア」とトイレの「洗面ボウル」はちょっとお金をかけると印象がガラッと変わるから、ここに注力されることをおすすめしたい。

まず「玄関ドア」だが、オリジナルで作った強化ガラス入りの格子扉が次の写真だ。玄関がシースルーになるので開放的で明るくなる。正面の壁にアートを掛ければ、和モダンの美術館っぽい演出も可能だ。うちは台湾の作家、ティン・シャオ・クワンの絵を掛けている。

さらに、次の写真がオリジナルで陶芸家に製作を依頼した洗面ボウルだ。無名であれば、値段は驚くほど安い。しかも喜んでたった一品の特注品を製作してくれる。ぜひ試してみられることをお勧めするが、排水部分の水漏れ対策は欠かせないことを、念のため添えさせていただく。


こんなちょっとした工夫次第で、近所や仲間内からも評判になるのではないだろうか。

執筆者:藤原和博

教育改革実践家/『人生の教科書[家づくり]』著者
1955年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008~2011年橋下大阪府知事特別顧問。14年武雄市特別顧問、2016年春から奈良市立一条高校校長に就任。
リクルート在職中に注文住宅・リフォーム情報誌の創刊に携わる。37歳から家族でヨーロッパに移住。自然豊かなロンドンの住宅やパリのペントハウスに住んだ経験を活かし、東京に家を建て、2016年4月より奈良市に91歳の父と85歳の母と同居。

「よのなかnet」藤原和博のデザインワーク
http://www.yononaka.net/

人生の教科書[家づくり]―筑摩書房
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480421623/
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