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老後の暮らしとお金のコラム60歳からの教科書『豊かな住まい方』

2017/06/05
超コンビニ社会の表と裏

便利というのをどう考えるか?
・・・これは、60代からのライフデザインの一つの鍵になる。

私自身は喧騒や雑踏も含め、都会的な物事に囲まれて住まいたい方なので、歳をとるほど都心に、という主義だ。逆に、緑豊かな田舎で晴耕雨読が理想という人もいるだろう。もし、あなたが都会派だったら、24時間営業のコンビニの近くに住んだ方が圧倒的に便利だ。夜中だって店員さんがいるから、いざとなったら駆け込める安心感もある。だから現在、両親と同居している奈良では、私が出張中の両親のセキュリティ面も考えて、商店街の入口にあるローソンの裏に住むことにした。

「超便利社会」の落とし穴

ただし、子や孫にとってというなら、少々事情が異なる。子どもたちが、コンビニに代表される超のつく便利な機能にどっぷり浸かることは、必ずしも良い影響ばかりではない。あまりに便利だと、コミュニケーション能力が育たないからだ。
コンビニというのは、そもそも超大型の自動販売機のようなものだから、小銭さえあれば、店員と何も交渉することなく弁当でもおにぎりでも手に入る。仮にお孫さんがコンビニでマンガ雑誌を立ち読みし、コーラ1本買って帰ってくる姿を想像してみてほしい。一言も話す必要はないだろう。

私たちの周囲にはいつの間にか超小型のセンサーやチップが埋め込まれ、これからもドンドン便利になっていく。人間がやりたいことを先取りしてやってくれたり、環境を整えてくれたり・・・考えなくても生きていけるようになってしまう。
これが「超便利社会」の落とし穴である。

しかも、2020年ごろから本格化するAIを搭載したロボットの普及は、少なくとも人間がやっていた事務処理仕事を一掃するだろう。
だから、私たちは、黙っているとついつい怠け者になってしまう。

ロボットと共に生活する未来が来るというが、もうそれはとっくに始まっている。人型ロボットに限らず、ルンバやルーロのような「お掃除クン」ロボはもう普及しているし、車はもはや「移動クン」という名のロボットだ。自動で車庫入れや高速運転をし、渋滞中には前の車を自動追尾してくれる。乗り込むタイプのロボットだから、もはやガンダムの感覚に近い。
スマホは「通信クン」だし、冷蔵庫は「冷蔵クン」という名のロボットだ。もうすぐ買ってきた冷蔵食品をバーコードで見分けて賞味期限切れを教えてくれたり、自動的に足りない食材を発注したりするようになるだろう。「お掃除クン」に至っては、カメラから家の様子をあなたのスマホに送ってくれるガードマンの役割も果たすし、そのうち犬にお座りを命じてから餌をやってくれるようにもなる(笑)。
もちろん、赤ちゃんや認知症の老人の見守りも。

人間がやると面倒な作業を片っ端から担ってくれるわけだから、あとには何が残るのかが問題だ。たぶん、それこそが、真に人間的な活動であるはずだ。
 
こういう社会では、わざと面倒なことをやってみたり、手間のかかる道を選ぶ必要がありそうだ。そうでないと自分の創造性や遊び心が、便利さに甘やかされて薄れていってしまうからだ。スマホやネットとの付き合いもそう。たまにはSNSから遠ざかって、行方不明になってみるのも一考かもしれない。

面倒なことを時間をかけてやってみる

会社にいるときには効率重視で時間をかけないほうが「できる人」と呼ばれた。処理仕事が早いという意味だ。でも、60代からのライフデザインの世界では違う。 
「面倒なことを時間をかけてやって良い」という特権階級になったのだから。

だったら、欲しいものを完成品として買ってしまうのではなく、作ることにしたらどうか・・・「藤原和博のデザインワーク」(http://www.yononaka.net/neo-japanesque/index.html)はそんな発想から始まった。

家づくりとコーポラティブ・マンションの建設で学んだことは、第一回目のコラム(http://www.nomu.com/60/column/fujihara/1.html)でも紹介してきた。だからここではちょっとだけ、腕時計の開発話を紹介しておこう。

もともと、なんで腕時計なんか開発しようと思ったのか?
それは、そろそろ5年勤めた和田中学校(杉並区立)の校長を辞めるタイミングで、中学の時に親に買ってもらった腕時計、セイコー「ロードマチック」が壊れたことがきっかけだった。何度か修理してもらいながら40年間使っていたのだが、時計屋さんにもう動かないと宣告されたのだ。学校長を卒業するタイミングでもあったので、自分へのご褒美として新しいのを買ってもいいかなと考えた。

でも、国産にもスイスやフランス製の腕時計にも気に入ったものがない。ゴテゴテしたクロノグラフ・タイプは嫌だし、いかにもブランド物というのも嫌だ。
気品があって、自分が建てた家のコンセプト同様にネオ・ジャパネスクなデザインがいい。できたら、日本の職人の技術の結晶のような物が作れないのか・・・。そう思い悩んでいたところに、ビジネスパートナーとなる諏訪の時計師、コスタンテの清水新六社長との出会いがあった。

私のオリジナルなアイディアをプロの時計師たちが形にして、最初は1つの型を25個だけ売った。この8年で7つのシリーズが完売し、今また2つの新シリーズを売り出し中だ。「japan」シリーズは、こうして知る人ぞ知るブランドになった。


●コスタンテの通販サイト(http://www.costante.co.jp)

第5弾「arita」は初めて文字盤に有田焼の白磁を使用したもの
画像引用:藤巻百貨店(http://fujimaki-select.com/item/081_0021.html)


同様に「なかったら作っちゃえ」の発想から、仕事帰りにテニスやジョギングが気軽にできるよう、ハードシェル型リュックの開発にもチャレンジした。リュックにラケットを突っ込み、シューズも入るようにデザイン。ハードシェル型だから、パソコンやタブレットを入れても衝撃に耐えるし、ゲリラ豪雨が降っても布のリュックのようにビショビショにはならない。飛行機の手荷物室にちょうど入る最大の大きさだから、意外と容量があり、ラオスやネパールへの1週間前後の出張はこれ一つでOKだった。


●海外1週間の旅でもOKだった「大人のランドセルEMU」(http://www.yononaka.net/laos/index.html)

ハードシェル型リュック「EMU」
画像引用:藤巻百貨店(http://fujimaki-select.com/ext/selection/057.html)

個別生産のススメ

時代は、大量生産の時代から、多品種少量生産の時代を経て、すでに1個からでも作れる個別生産の時代に入った。
子や孫たちは、私のようにネットの力を使って、工場がなくてもマニュファクチャラー(生産者)になれる時代を生きているのだ。

腕時計オタクでも、鞄オタクでもない私にできたのだから、あなたにも、もちろん、できる。オリジナルなアイディアを生かした住まいの改築でもいい。
今のあなたのライフスタイルに合った住まい方を考え、必要なものを作ってみてはどうだろう?

さあ、面倒臭いことに、あえて時間をかけよう!

執筆者:藤原和博

教育改革実践家/『人生の教科書[家づくり]』著者
1955年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008~2011年橋下大阪府知事特別顧問。14年武雄市特別顧問、2016年春から奈良市立一条高校校長に就任。
リクルート在職中に注文住宅・リフォーム情報誌の創刊に携わる。37歳から家族でヨーロッパに移住。自然豊かなロンドンの住宅やパリのペントハウスに住んだ経験を活かし、東京に家を建て、2016年4月より奈良市に91歳の父と85歳の母と同居。

「よのなかnet」藤原和博のデザインワーク
http://www.yononaka.net/

人生の教科書[家づくり]―筑摩書房
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480421623/
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