ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 人生を豊かにする老後のマネー > 高齢者の医療費・介護サービスの利用負担が2割に増加
私たちの生活を支える公的な社会保険の中に「医療保険」と「介護保険」があります。年齢や所得に応じた保険料を納付し、病気やケガなどで医療サービスを受けるときには医療保険から、支援や介護のサービスを受けるときには介護保険から一定の給付が受けられます。例えば65歳の人の自己負担は医療費の3割、介護サービス利用費用の1割で、残りの費用がそれぞれの保険から給付されます。
1ヵ月間に負担する医療費や介護サービス費用には自己負担限度額が定められており、限度額を超えた分が「高額療養費」「高額介護サービス費」として返金されます。医療費については、前もって地方自治体や健康保険組合、協会けんぽなどから交付される「限度額適用認定証」を提示すれば、入院や高額な外来診療、調剤薬局、訪問看護などの支払いが自己負担限度額までになりますので、多額の医療費を準備する必要はありません。なお70歳以上の人は高齢受給者証を提示すれば「限度額適用認定証」は不要です。
以上のことから、医療と介護にかかる費用負担には天井があることがわかります。平成25年に医療・介護保険の負担と給付の見直しが行われ、所得の多い高齢者の天井は少し高くなりました。では、その見直しされた内容についてご紹介します。
通院や入院などで医療機関に受診し窓口で保険証を提示すると、支払額は[表−1]の自己負担割合だけで済みます。
表─1 医療費の自己負担割合
*平成26年4月以降に70歳になる人(昭和19年4月2日以降生まれ)
**平成26年4月1日までに70歳になった人(昭和19年4月1日以前生まれ)
***住民税課税所得が145万円以上ある被保険者、またはその被保険者と同じ世帯にいる被保険者。ただし、被保険者1人の場合は年収383万円、2人以上の場合は合計の年収が520万円未満である旨の申請があった場合は一般区分となる。
平成26年4月以降に自己負担割合が1割から2割になるのは、平成26年4月1日以降に70歳になる(昭和19年4月2日以降生まれ)一般所得者で、70歳になった翌月の診療分から適用されます。なお、昭和19年4月1日以前に生まれた人と69歳までに1割負担だった人はそのまま1割負担が継続します。
医療費負担が高額になったときを想定して作られた高額療養費制度では、年齢と所得によって1ヵ月間の自己負担限度額が設けられています。同じ月(1日~末日)に医療機関に支払った自己負担の合計額が限度額を超えた場合に超過した分が返金されます。
今回の見直しでは、
・70歳未満は所得区分を細分化し更に限度額の上限を引き上げ
・70歳以上75歳未満は政令本則を削除して、現状のまま
・75歳以上は据え置き
を行い、「高齢者も所得に応じた負担」を現実のものとしました。平成27年1月実施の予定です。
表─2 自己負担限度額 ■現行
*基礎控除後の総所得金額が600万円を超える世帯
**直近の12か月に1つの世帯で高額療養費支給が4回以上あった場合、4回目以降の自己負担限度額
*基礎控除後の総所得金額が145万円を超え、70歳以上の国民健康保険被保険者または後期高齢者受給者のいる世帯。ただし、被保険者1人の場合は年収383万円、2人以上の場合は合計の年収が520万円未満である旨の申請があった場合は一般区分となる。
**4回目以降は44,400円
*健保とは健康保険
**国保とは国民健康保険
厚生労働省保健局保健課事務連絡会(平成25年12月24日)「高額療養費の見直しに伴う関係政令等の改正内容について」を参考に作成した
介護保険は、認知症や身体のマヒなどで要支援・要介護状態になった高齢者が、できる限り住み慣れた自宅や町で暮らし続けることができるように社会全体で支える制度です。40歳以上の人が保険料を負担します。利用できるのは、①65歳以上の人は原因を問わず、②40歳以上65歳未満の人は、老化が原因とされる病気(例えば初老期認知症や関節リューマチ、骨折を伴う骨粗鬆症、脊柱管狭窄症など)に末期がんを加えた特定疾病16、で要支援・要介護状態になった人です。介護サービス利用費用の1割を負担します。
平成25年8月28日に社会保障審議会介護保険部会(第46回)から発表された「介護保険制度を取り巻く状況等」(※)によると、要支援・要介護認定者数は、40歳~64歳が16万人、65歳~74歳が65万人、75歳以上が450万人で、年々増加しています。 ※厚生労働省「第46回社会保障審議会介護保険部会資料」ページより引用
介護保険も費用負担の公平化に向けて次のような見直しが進んでいます。
・利用時の自己負担割合を年間の年収が単独で280万円以上(夫婦世帯で年収359万円以上)の人に限り2割(現行1割)に引き上げ
・介護施設に入所する低所得者への食費や居住費の補足給付を縮小
・65歳以上の保険料の区分を6段階から9段階に細分化
・低所得世帯の高齢者の保険料の減額幅を70%(現行50%)に拡大
介護サービス利用時の自己負担割合の引き上げは、平成27年8月実施を目指しています。なお、高額介護サービス費の自己負担限度額は現行のままです。
表─3 高額介護サービス費の自己負担限度額
高齢になると医療機関と介護サービスを併用する世帯が増え、その負担が重くのしかかります。それを軽減する制度が「高額医療・高額介護合算制度」です。高額療養費と高額介護サービス費を差し引いた自己負担額が「表?4 世帯の年間負担限度額」を超えたとき、その超過分が支給されます。合算対象期間は、毎年8月~翌年7月の12ヵ月間です。
今回の見直しでは、自己負担限度額の所得区分を細分化し、限度額も大幅に引き上げられました。
表─4 世帯の年間負担限度額
*「70歳以上の人または後期高齢者医療制度加入者+介護保険」は現行のまま
厚生労働省保健局保健課事務連絡会(平成25年12月24日)「高額療養費の見直しに伴う関係政令等の改正内容について」を参考に作成した
「高額療養費」「高額介護サービス費」「高額医療・高額介護合算制度」の限度額の計算方法は年齢や制度によって異なります。該当すると思う方は、地方自治体や健康保険組合等に問い合わせるといいでしょう。
高齢者の最大の不安のひとつである病気と介護を下支えする公的医療・介護保険は、「高齢者は弱者」の視点で運用されていました。しかし多額の貯蓄と現役世代と遜色のない所得の高齢者が増えている現状から、高齢者にも応分の負担を求める声が大きくなりました。低所得者は負担減、高所得者は負担増という見直しが今後も進むと思われます。老後資金に直結する制度だけに、こまめに情報をチェックするようにしましょう。
専業主婦の身から外貨預金に興味を持ったことを機会にファイナンシャル・プランナーの勉強を始め、2000年にCFP (FPの上級資格)の試験に合格。2002年に独立開業し、個人向けにリタイアメントプラン、年金、貯蓄、賃貸経営などの相談業務を行う。また各種セミナーの講師も担当。1級ファイナンシャルプランニング技能士、福祉住環境コーディネーター2級、年金アドバイザーなどの資格を持つ。
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