マンションデータPlus

ネットで住み替えノムコム nomu.com

歴史・魅力

#マンションの魅力#歴史

2024.06.20

南北で見せる顔が異なる街、三鷹。南の「三鷹ヒルズ」、北の「武蔵野タワーズ」街を彩るヴィンテージマンション(3)

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア
ide_20240620_01.jpg

東京都の23区と市部の境に位置する三鷹エリア。利便性が高いエリアである一方、昔ながらの商店街や家の街並みが残り、どこかのどかさを感じさせるエリアでもある。昨今は駅前の再開発で高層マンションが出現し始めたが、それもこの2010年前後からのことで開発のスピードは緩やかだ。

今回は三鷹エリアの南北の街の特徴と共に、象徴的なマンションを2つ取り上げる。

三鷹駅を中心とした南北の街並み

三鷹駅は東京23区の西に広がる、多摩エリアへの玄関口でもある。JR中央線と総武線が走るほか、東京メトロ東西線の始発駅でもあり、都心部へ通勤する人にとって利便性が良い。住みたい街として若い世代を中心に人気を集める「吉祥寺」も徒歩圏内であることが魅力だ。

また、ある種の豊かさと庶民的な雰囲気を残すエリアでもある。駅前のスーパーマーケットなどを見ると分かりやすい。駅ビルの1階には紀ノ国屋やクイーンズ伊勢丹のような高級路線のスーパーマーケットがテナントに入る一方、駅の向かいにはオオゼキのような値ごろ感のある品揃えのスーパーマーケットもある。

ide_20240620_02.jpg
スーパーマーケット紀ノ国屋が入る三鷹駅のアトレヴィ三鷹

この落ち着いた品の良さと、手の届きやすさ、暮らしやすさが三鷹のブランドを確立させているものだろう。三鷹に住む人の中には親の代、またさらにその親の代から住んでいる人も多く、一度住むと長く土地に根強く傾向がありそうだ。

また三鷹駅は、南口と北口で主な行政区が異なる。北口は武蔵野市、南口は線路や井の頭公園に近いところを除いて概ね三鷹市になる。この違いが、南北で街の雰囲気を変えるひとつの要因にもなっているようだ。玉川上水を挟んで、道の形状が違うことも特徴的な街であるが、北側と南側の武蔵野市に含まれる線路沿いのところは玉川上水に向かって道路が斜めに走っているのに対して、南口の三鷹市は三鷹駅を背に、碁盤の目のような縦横で綺麗に道路が通っている。

戦時中は田畑が多く、その他には軍事系の工場が多くあった土地である。戦後復興のために、急激に労働者が郊外に住むようになって宅地が増加していった。

文豪の街、南口の三鷹市エリアにある「三鷹ヒルズ」

まずは駅の南側について触れていこう。南側は線路沿いと井の頭公園に隣接する御殿山エリアを除き、ほぼ三鷹市となる。三鷹市は「文学者とゆかりが深いまち」として街づくりにも力を入れており、中でも有名なのは、太宰治が暮らし、三鷹の地で没したことがあげられる。三鷹駅の南側には太宰ゆかりのさまざまなスポットが19ヶ所あるほか、三鷹と縁のある作家の文学碑が並ぶ通りもある。

「文豪のまち」として街並みの保全や、井の頭公園が担う自然環境との共存などを考えた時、都市開発にはなかなか着手し難いのだろう。ちょうど駅のホームと駅ビルのある南側に商業地域が伸びるのみで、そのすぐ東側・西側は第一種住居地域・第一種低層住居専用地域となっている。簡単には大きな建物などが建てられない雰囲気を感じる。

ide_20240620_03.jpg
駅ビルの南側に伸びるピンクの地域(商業地域)の両脇はイエロー(第一種住居地域)とグリーン(第一種低層住居専用地域)のエリアが広がる(三鷹市わがまちマップをキャプチャ)

歴史と品性を保った街でもあるが、一方、他の街と比較すると変化には乏しい。その中にあるマンション「三鷹ヒルズ」はこの街並みに合う低層の建物だ。1997年に竣工した三鷹ヒルズは、野村不動産分譲にもかかわらず、総戸数はわずか11戸である。三鷹の街に馴染む低層住宅でゆったり暮らすことを望んでいる人に提供されたもののようだ。

ide_20240620_04.jpg
三鷹ヒルズの外観

建物が雁行型に設計されていること、間取りは90m2近いものが多いこと、そして低層住宅だけに重厚さを感じさせる外観は特別感がある。戸数が少ないこともあり、新築分譲後はほぼ流通市場には出ておらず、購入した人が愛着を持って住み続けているのだろうと予想される。

ide_20240620_05.jpg
分譲当時最も販売価格が高かった3LDK、90.99m2の間取り図。雁行型の構造を生かしたルーフバルコニーが目を引く(資料提供:東京カンテイ)

三鷹ヒルズのもうひとつの特徴は、禅林寺および太宰治の墓の西部にあることだ。部屋の角度や高さによっては寺の中や墓の様子が見えるかもしれない。通常、寺や墓地は嫌悪施設と呼ばれ、住宅購入検討者は避けがちである。しかし、太宰治を好きな人にとってはそのようなことは気にもならないのだ。

三鷹ヒルズは分譲から4年?9年後の2001年?2006年に流通したときは坪単価200万円前後で、60m2台で3000万円台、4000万円台のものも出ていた。ところが築25年を過ぎて坪単価は2023年に350万円を超え、平均取引坪単価約270万円超、平均物件価格1億円前後のヴィンテージマンションとなっている。もしかするとその背景には、太宰効果もあるのかもしれない。

ide_20240620_06.jpg
三鷹ヒルズのエントランス

北口の再開発と「武蔵野タワーズ」

一方の北口側は小・中規模の商業ビル、オフィスビルが立ち並ぶ。駅周辺には今も大手電機メーカーの横河電機本社があり、街並みには昔ながらの商業地の名残がある。都心へのアクセス利便性を考えれば、三鷹駅前はもっと開発できるのではないかとも思うが、いまだに大きな変化は見られない。

そのなかで唯一、空に伸びる存在感を感じさせるマンションが「武蔵野タワーズ」だ。竣工は2009年で、北口駅前に突如現れたスカイゲートタワーとスカイクロスタワーの2棟からなる高層タワーマンションは、当時、鮮烈な印象を与えた。

ide_20240620_07.jpg
2棟のタワーからなる武蔵野タワーズ

2000年代後半のマンションは、3LDKで平均80m2?90m2のものが中心であり、武蔵野タワーズも例に漏れないが、100m2超のプレミアムな住戸も有している。いずれもゆとりを持った間取りであり、近年のタワーマンションの中心となっている60m2?70m2代の間取りプランではあまり目にすることがなくなった広さだ。内装や外装は築年数が比較的浅いタワーマンションとそう差異はないものの、間取りや面積に関してはヴィンテージ性があるとも言える。

ide_20240620_08.jpg
武蔵野タワーズの最上階、プレミアムタイプ131.68m2(スカイクロスタワーの30、31階)の分譲当時の間取り。スカイゲートタワーの最上階もほぼ同様の間取りとなっている(資料提供:東京カンテイ)

一方で、最も小さな間取りのものは30 m2台からあり、各居室の面積のバリエーションがあることも、武蔵野タワーズのひとつの特徴として挙げられるだろう。取引坪単価はこちらも平均で270万円超、坪単価は2023年に500万円を超えることもあった。中古での販売価格は50m2台で1億を超えるものもある。

ただし総じてタワーマンションはヴィンテージマンションとしては位置付けし難い。住戸が何十と縦に重なって構成されており、どうしても低層階と高層階のグレードの開きが大きすぎるためだ。面積が小さいものは30m2から、大きいものは100m2以上の住戸も存在する中で、1つの建物として括って語ることは容易ではない。それだけに私の中では、この武蔵野タワーズもヴィンテージマンションというカテゴリーからは外している。

街並みに大きな変化が見られない中で、三鷹の地において武蔵野タワーズだけが超高層の建築物として際立って目立っている。マンションの用地取得の面でも、この武蔵野タワーズは奇跡的な物件と言えるのではないだろうか。

昔の風情を残しながら時を重ねる三鷹

これまで触れてきたように、私は三鷹については南側も北側も、まるで時が止まったかのような街だと感じている。武蔵野市も三鷹市も三鷹駅前の再開発計画を公表しているが、あまり進んでいないように思われる。

特に駅から離れれば離れるほどその傾向が顕著で、未だに駅からの徒歩圏内に多くの畑を目にする。よく言えば昔の風情が残っているけれど、あまり開発が進む気配が感じられない。このような街にあるヴィンテージ性のある2つのマンションもまた、時が止まるような静けさとともに独自の優位性を保っていると言っていいのではないだろうか。

井出武(いで・たけし)

井出武(いで・たけし)

1964年東京生まれ。89年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事、01年株式会社東京カンテイ入社、現在市場調査部上席主任研究員、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア

PAGE TOP