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#不動産売却#住宅購入

2022.04.05

本当のところどうなの? 生産緑地の2022年問題

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「生産緑地問題の2022年問題」とは、一体どのような問題でしょうか。不動産の売却・購入を検討中の人なら一度は耳にしたことがあるキーワードかもしれません。そもそも生産緑地とは何か、不動産、特にマンション市場に影響があるのかどうかについて、税理士の立場から解説します。

「生産緑地」とは?

生産緑地とは生産緑地法に定められたもので、良好な都市環境を確保するために都市部に残存する農地の計画的な保全を図ることを目的とした土地などのことです。要件としては次の5つが挙げられます。

生産緑地に指定されると、土地所有者の固定資産税は農地課税となることで減額され、相続税は納税猶予を受けることができます。一方、宅地造成や建物等の建築については、市町村の許可が必要になります。

また、指定の日から30年を経過したとき、または農業従事者が死亡、病気などの理由で農業に従事できなくなったときでないと、市町村に時価で買取ってもらうための申し出ができないという制約があります。

前置きが長くなってしまいましたが、生産緑地とは要するに「都市近郊の農地で最低30年は営農の義務があるが、その間は税金の減額や納税猶予が受けられる」という制度です。

生産緑地ができた背景には、高度経済成長期において都市への急激な人口流入に伴い、無秩序な宅地開発が進み、都市環境の悪化が生じたことが一因です。では今、何が問題となっているのでしょうか。

都市から農地が消える?

生産緑地の約8割が2022年、つまり今年、指定から30年が経過します。国土交通省「令和2年都市計画現況調査」によると、生産緑地は2020年3月現在で1万2332haあるので、その約8割は約9800ha、東京ドーム約2000個分にあたります。

それだけの所有者が生産緑地を継続するか、市町村への買取りを申し出るかの選択を迫られることになります。場合によっては、大量の生産緑地の指定が解除される可能性があり、その結果、土地の大量供給による地価の下落、空き家・空き地問題のさらなる深刻化、農地の宅地化による防災面等での環境の変化(延焼を防ぐ緑地空間の消失)などが懸念されてきました。今回のテーマである「生産緑地の2022年問題」とはこれらのことを指します。

一方で、生産緑地の指定が解除されると土地所有者にとっては、相続税の納税猶予も解除の方向となります。税負担が生じるため、相続税の納税猶予を受けている所有者は生産緑地の解除には慎重になると考えられます。

開発から農地との共生へ

近年では、国や自治体も「農地は宅地化を進める」から「農地は維持、保全されるべきもの」へと政策を転換してきています。2017年には生産緑地法が一部改正され、(1)特定生産緑地指定制度の創設、(2)指定面積要件の緩和、(3)行為制限の緩和がなされました。

この中で最も重要だと思われるのが、(1)特例生産緑地指定制度です。指定から30年を経過する生産緑地について、新たに特定生産緑地の指定を受けることで、事実上、生産緑地としての扱いを10年延長することができるようになりました。

その10年経過後に再度指定を受ければ、さらに10年延長することができます。生産緑地の扱いについて判断を迷っている所有者に対しては、特定生産緑地指定制度を活用して確実に農地を保全することを促す意図があるといえるでしょう。

図表1:特定生産緑地の指定を受ける場合のイメージ

その他の2つの要件緩和についてですが、(2)指定面積については500m2以上だったものを、市区町村の条例によって300m2まで引き下げるというものです。(3)行為制限の緩和は、生産緑地内においては農業生産に必要な施設のみの設置が認められていたところを、農産物直売所や農家レストラン等の設置が可能となりました。

さらに2018年には都市農地貸借法が制定されました。それまで認められていなかった生産緑地での「第三者による営農」が可能になりました。

メリットの一つが法定更新(農地法による契約の自動的更新制度)の適用がないので、契約期間経過後には農地が戻ってくるということです。もう一つが相続税等の納税猶予が継続されることです。これらのことで、生産緑地の所有者は安心して農地を貸し出すことができます。

これらの法制度の改正・創設によって農地所有者には、農地を今後も継続的に維持しやすい環境になってきた、と言えるでしょう。

街づくりに農地を生かす

国土交通省が2021年9月末時点の調査として発表した「特定生産緑地の指定意向調査」によると、全体の81%(7656ha)が「指定済・指定見込み」であるこということです(図表2)。

さらに東京都に限って言えば、実に9割が「指定済・指定見込み」となっています(図表3)。全国的にも「指定の意向なし」は7%(633ha)ですので、生産緑地の指定解除は限定的なものになるという見方が主流でしょう。

図表2:特定生産緑地の指定見込み(2021年9月末時点)
出典:国土交通省「特定生産緑地の指定意向調査」
図表3:特定生産緑地の指定見込み(都道府県別、2021年9月末時点)

これまで「生産緑地の2022年問題」を見てきましたが、特定生産緑地指定制度ができたこともあり、「問題」として懸念されていた、指定後30年が経過した生産緑地の解除により一気に市場に土地が大量供給され、地価、ひいてはマンション価格が急激に下落するということはあまりなさそうです。

新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが浸透し、都心や駅から近い場所だけではなく、少し離れた近郊の不動産にも注目が集まりつつあります。より自然が残った環境で子育てしたいなど、自然環境を重視する人には、市場に出回る量はそれほど多くないにせよ、生産緑地が解除されて宅地化された物件などは方向性が合致するかもしれません。

これからの都市は人に優しく、持続可能であることがポイントになるでしょう。それぞれの自治体が生産緑地に象徴される都市の中の農地を今後の街づくりにどう生かすか、注目されます。

堀川敏毅(ほりかわ・としき)

堀川敏毅(ほりかわ・としき)

税理士、税理士法人みかさパーク共同事務所代表社員。西日本新聞社から会計事務所等勤務を経て独立。相続・贈与にかかわる資産税のほか、各種税務・相談に携わる。横須賀商工会議所相談員、国税庁確定申告電話相談員なども務めている。

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