首都圏の新築マンションにおける管理費・修繕積立金は近年上昇傾向であり、管理費は2015年以降5年連続、修繕積立金は2016年以降4年連続で上昇している。直近10年間(2010年~2019年)の上昇率は管理費が16,116円から19,085円で+18.4%、修繕積立金が6,410円から7,826円で+22.1%と共に大きく上昇している。
月々のランニング・コスト(管理費+修繕積立金)は22,526円から26,911円で+19.5%と、10年間で4,385円の上昇となった。また、上のグラフからは新築価格(坪単価)と管理費・修繕積立金の相関性が確認でき、新築価格と連動して管理費・修繕積立金が推移していることがわかる。
近年における管理費・修繕積立金の値上がり要因は次の2点が考えられる。1点目は大手デベロッパーの供給シェアが年々拡大し、相対的に維持管理コストが掛かるハイグレードマンションの比率が高まったためである。
2点目は昨今問題となっているマンション管理業界や建設業界の人手不足による人件費の高騰や建築資材の高騰などによって、建物の維持管理に掛かる費用そのものが値上がりする状況にあることが深く影響しているものと考えられる。
修繕積立基金は2015年以降5年連続で上昇しており、新築価格と概ね連動する傾向となっている。直近10年間の上昇率は419,913円から607,811円で44.7%上昇しており、修繕積立金(+22.1%)を大きく上回った。
これは修繕積立金の設定額が充分な金額に達しておらず、修繕積立基金でカバーする動きが出ているものと推察できる。
デベロッパーは販売戦略として、入居当初の月々支払額(融資返済額+ランニング・コスト)を極力抑える工夫を凝らしているため、この影響が修繕積立基金の大幅な上昇に影響したものとみられる。
戸数規模別に管理費を見ると、2015年以降の各年で50戸未満が最も高く、一方で200戸以上または300戸以上の区分で最も安くなる傾向となっている。このことから、首都圏では200戸以上500未満のマンションでスケールメリットが働いていることがわかる。
しかし、500戸以上の規模では相対的に管理費が高いタワーマンションの比率が高まるため、年々管理費が上昇する傾向となっており、戸数規模の大きさが必ずしも優位とはならないことが確認できる。修繕積立金についても管理費と同様に50戸未満または500戸以上の区分で高額になる傾向が見られる。これは低層高額マンションと都心のタワーマンションの影響によるものである。
一方で修繕積立金が最も安くなる戸数規模は200戸以上と300戸以上の区分に集中している。2017年から2019年はこの傾向が顕著に見られ、50戸以上と100戸以上の区分が7,000円台であったのに対し、200戸以上と300戸以上の区分は6,000円台と水準の差がはっきりと表れている。
このことから、首都圏は修繕積立金においてもスケールメリットが働いていることがわかる。
最高階数別に管理費を見ると、2015年以降すべての年で20階以上の"タワー型"が20階未満の"非タワー型"の管理費を上回っていることが確認できる。また、首都圏では概ね階数が高いほど管理費も高額になる傾向が見られる。
タワーマンションの多くは豪華な共用施設や充実したサービスが付加価値として備わっており、これらを維持管理していくためには相応のメンテナンス費用が掛かることから管理費が高額になっている。
修繕積立金についても20階以上の階数区分のすべてで20階未満の金額を上回っており、タワーマンションの修繕積立金が高額であることがわかる。また、タワーマンションの戸数規模は300戸を超えるものがほとんどであるため、スケールメリットが働いていないことも併せて確認できる。
タワー型の修繕積立金が高額になる理由のひとつとして、大規模修繕工事の施工方法が特殊であることが挙げられる。中低層マンションでは外壁改修を行う際に「枠組足場」と言われる鉄材のパイプや板を組み合わせた足場を用いるが、タワーマンションは高層であるがゆえにこの工法を採用できない。
タワーマンションの外壁改修では屋上から足場を吊り下げて昇降させる「ゴンドラ」や、地上から建物に沿ってレールを設置し可動式の足場を組む「移動昇降式足場」を用いるのが一般的である。これらの足場を使った修繕は工期も長期化しがちであり、また建物の形状に合わせたオーダーメイドの足場計画が必要不可欠となっている。
このようにタワーマンションの大規模修繕工事には超高層ならではの困難さがあるため、修繕積立金が高く設定される傾向にある。
東京23区の中古マンションの管理費は築1年の25,211円が最も高いが、その後急落し築5年には18,792円となっている。築浅の管理費が高額な理由は新築マンションの分譲時の管理費設定額が年々上昇していることにある。
また、築浅で売りに出される物件の多くはキャピタルゲインを狙った投資物件であり、このような物件の多くは都心の高額マンションやタワーマンションであるということも、築浅の管理費が高額になる要因となっている。
築5年から築10年までは18,000円前後、築10年から築25年までは16,000円前後で概ね安定した水準となっている。築26年から築31年は、築30年の21,867円をピークに山が形成されているが、これはちょうどこの年代がバブル期にあたり、高額マンションの高水準な管理費が反映された動きである。バブル期以前の物件では16,000円前後の安定した水準となっている。
一方で、修繕積立金は築1年の7,739円から築4年までほぼ横ばいの推移となるが、築5年を境に明らかな上昇が確認できる。その後も比較的大きく上昇を続け、築10年では13,278円と築1年の1.72倍の水準にまで達している。築10年以上では緩やかに修繕積立金が上昇しており、管理費で見られたバブル期に竣工した物件による影響は表れていない。
管理費と修繕積立金の水準を比較すると築浅時の乖離は大きいが、築15年を経過するとバブル期の年代を除いて両者の水準は近しくなる傾向が確認できる。
築15年以上ではどの築年帯でも概ね15,000円前後の水準となっていることから、東京23区における管理費と修繕積立金の合計額は高くても30,000円前後を目安に設定しているものと推察できる。
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