高齢化社会を迎え「遠くに住む親を呼び寄せて一緒にマンションで暮らす」という機会が増えそうです。もし将来その可能性があるなら、二世帯でも暮らしやすい間取りを選んでおきましょう。高齢の親にとってもまた子世帯にとっても、お互いになるべくストレスを感じないようにすることが大切です。今回は二世帯同居に向いているマンションの間取りを取り上げ、特徴や注意点をお伝えします。
日本では、総人口に占める29%は65歳以上が占め、その中でも75歳以上の人口が65~74歳の人口よりも多くなっており、高齢化が進んでいます(図表1)。
一方、元気な高齢者も多く、65歳以上の一人暮らしの割合は増加傾向となっていますが、年を重ねて高齢者だけの暮らしが厳しくなったころに子世帯と同居を始めるケースもあると考えられます。
「近くに親が住む」と考えた場合、同じ住戸に一緒に住む「同居」と、同じマンション内の別な住戸に住む「近居」というスタイルもあります。「近居」は、二世帯がそれぞれ完全に分離して住むものの、同じマンション内であれば十分に距離は近く、親世帯が元気なうちはおすすめのスタイルです。
親が住んでいるマンションに子世帯が引っ越してくるパターン、反対に子世帯が住むマンションに親世帯が引っ越してくるパターンなどが考えられます。ただし、同じマンション内で売却物件が出るタイミングと家族のタイミングが合うかどうかや、希望する間取りであるかどうかなど、クリアすべきことも多いと言えます。
毎日顔を合わせ、玄関や水まわりなどを共有する「同居」は、外に出なくてもお互いの様子が分かる良い面もありますが、完全に分離している「近居」より距離がかなり近くなるため、配慮すべき事項が多いとも言えます。
これまで同居していなかった親世帯と子世帯が同居する場合、気をつけたいポイントに「プライバシーの確保」があります。親世帯も子世帯も、自分の友人を招いておしゃべりをしたい時もあるでしょう。もしリビングに隣接し、リビングを通らないと玄関やトイレに行けない部屋を親世帯のスペースにすると、お互いに気兼ねして友人を呼びにくいかもしれません。
プライバシーの確保という視点からは、基本的に親世帯が使うスペースは廊下から直接出入りでき、戸を閉めるとプライバシーが守られる位置にあると良いでしょう。
親世帯と子世帯とでは、起床時間や睡眠時間、食事の時間、テレビを見る時間などが異なる場合があります。同居のためリビング、ダイニング、キッチンは共用することになることが多いと思いますので、お互いを尊重しつつ生活リズムを合わせよう、という気持ちも必要です。
一方、見守りという視点もあります。もし親が車椅子を使うようになったり、寝たきりの状態になった時は、見守りや声掛けなどがしやすい位置に部屋があると良いでしょう。例えば高齢の親がリビングに近い部屋を使えば、壁を隔てていてもお互いの気配を感じやすく、気軽に様子を見に行くことができます。また、親が家の中で長い時間を過ごすのであれば、可能であれば陽当たりがよく、窓を開ければ風が通り、外の景色を楽しめるスペースを使ってもらえると良いと思います。
高齢になっても、いつまでも自分のことは自分で行い、自立した生活がしたいと願う人は多いと思います。日常的にもっとも使用頻度が高いトイレ、そして浴室も親の寝室の近くにあることが望ましいでしょう。使いやすい位置にあることは、自立した暮らしを長く保つための秘訣になります。
個室数が多く、それぞれの個室が独立している「大人の家族向け」の間取りは二世帯同居に向きます。子どもが小さい時は家族のコミュニケーションを重視し「リビング中心型」の間取りが好まれる傾向がありますが、二世帯同居の場合は、それぞれの時間を大切にする大人の家族に好まれる「個室のプライバシー重視型」の間取りがおすすめです。
この間取りが二世帯同居に向くポイントは、個室が全て廊下からアクセスすることができる点です。家族それぞれのプライバシーが守られ、自分の時間を過ごすことができます。また、洋室(1)にトイレと洗面がついている点に注目です。この部屋は高齢になった両親に使ってもらうと良いでしょう。
メゾネットタイプとは、マンションの一戸を2層で使用する間取りのことです。一般的に1階にリビング、ダイニング、キッチンなどがあり、2階に寝室や子ども部屋があります。1階と2階で生活空間を分けることができるため、プライバシーを守りやすく、家族構成やライフスタイルに合わせて使うことができます。マンションであるものの階段の上り下りがあり、戸建て感覚で住むことができる間取りです。
この間取りも、個室は全て廊下からアクセスすることができます。1階と2階というように、フロアで生活スペースが分けられるため、親世帯と子世帯それぞれのプライバシー性が尊重されます。高齢の親世帯には階段を使わずにアクセスできトイレに近い1階の洋室(1)を、2階の3室を子世帯が使用すると良いでしょう。
高齢になると暑さや寒さを感じにくくなり、適切なエアコンの使用ができず、室内にいても熱中症になるケースが報告されています。マンションの場合、戸建てよりも外気の影響を受けにくくなると考えられますが、高齢者が一緒に住むことを考慮すると、断熱性が高い、すなわち省エネ性が高いマンションであることに越したことはありません。断熱性能が高い住まいは室間の温度差が少なく、冬場のヒートショックの危険も減らします。
また若い世代にとっても咳やのどの痛み、手足の冷えやアレルギー性鼻炎などの症状が緩和するなど、断熱性能の高い住まいは健康によい影響を与えることが分かっています。親も子も、長く健康を保ち、元気に暮らすために、住まいの断熱性能は欠かせないチェックポイントです。
高齢の親世帯と同居が決まったら、危険な場所がないか今一度チェックし、必要であればバリアフリーリフォームを施すことも検討しましょう。将来の車椅子生活や介護を見据え、狭い廊下は壁を取り払って通りやすくしたり、トイレは介護者も入れるように広くし、ドアを開き戸から引き戸に変更するなどのリフォームも有効です。
その他にも、玄関や浴室の出入口など床に段差がある部分には縦手すりを設ける、廊下など水平移動をする場所には横手すりを設けるなどの対応も転倒などの家庭内事故防止につながります。
同じマンションに親世帯と子世帯が同居することは、お互いに助け合いながら暮らすことができ、毎日顔を合わせられる安心感もあり、メリットのある生活スタイルです。一方、キッチンや玄関、トイレ、浴室は共用になるため、お互いに配慮も必要になります。同居を始める前に、事前に良く検討してから決めるようにしましょう。お互いに良い距離を保ち、助け合いながら楽しく生活できるといいですね。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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