マンションの購入において自己資金をいくらにすればよいかは、誰もが検討すべき課題であることは間違いない。(1)初級編、(2)中級編では、借入金額にともなう実質負担額の変化や今後、金利が上昇した場合のシミュレーション、金利タイプの違いによる変化など、住宅ローンのコスト面について考察をしてきた。
しかし、家計全体でみると、資産と負債がある中で、負債サイドであるコストの検討だけをするのは不自然である。資産サイドには、自己資金として利用しなかった余剰資金がある。
今回は上級編として、資産倍増プランを推奨する近年の社会・政治動向を踏まえ、何もしなければほぼゼロ金利のままの自己資金を資産運用することを検討してみたい。
【前提条件】
・物件価格6,000万円、諸費用300万円
・住宅用の自己資金として予算3,300万円
・借入期間35年、13年後に繰り上げ返済を検討
繰上返済をするまでの13年間という時間は運用期間としては十分な長さがあると考えられるため、長期分散投資を行うことで一定以上のリターンを期待することができる。
また、余剰資金をすべて繰上返済しないことも想定し、その資金をすべて年利1%(単利)で35年間運用した場合の試算を次のようにしてみた(表1)。
これに対して、借入金額5,000万円、13年目に余剰資金の2,000万円全額を繰上返済した場合の住宅ローン実質負担額は以下の通りとなる(表2、詳細は(2)中級編を参照)。
余剰資金2,000万円を全額繰上返済すると、リターンは260万円しかないため、どのローンを選んでもそれを賄うことができない。しかし、余剰資金全額を繰上返済に回さずに資産運用に回すと、実質負担額も表2より増えるが、運用リターンも700万円に増えることとなる。
極端に言えば、6,000万円全額、全期間固定金利2にし、繰上返済しない場合、住宅ローン負担額は967万円(詳細は(2)中級編を参照)に対し、リターンは1,050万円と、住宅ローン負担額を全額賄えてしまう。ここから、資産運用の有効性を感じていただければ、余剰資金は繰上返済ではなく資産運用に使うよう検討してみてはどうだろうか。
現在、円安、日本債安、米国債高になっていて、海外投資家が積極的に行っている「円キャリートレード」という手法を参考に資産運用を考えてみよう。円キャリートレードとは、安い円金利で調達して、高金利の運用商品に投資するというものだ。
例えば、2022年7月時点、アバウトには米ドル136円、米国債10年物で金利3%となっていて、現在の日本の10年国債の金利0.25%に比べて、はるかに高い金利となっている。今回の場合は、できるだけ多く住宅ローンを借りて、その分、手元に残った自己資金を米国債の投資に回すことを想定している。
余剰資金2,000万円を13年間の内、10年間を同債券で運用すると、1ドル136円の場合、元本14万7,059ドルに対し、元利合計で19万1,177ドルとなる。為替が変わらなければ、日本円で2,600万円と大きく資産は増えることになるわけだ。
ただし、為替が20%円高(108円前後)になれば2,080万円相当、為替が20%円安(163円前後)になれば3,120万円と変化幅が大きい。とはいえ、日本の銀行預金として預けているよりは有利となる可能性が高い。
米国10年国債は、元本保証がある債券であり、信用リスクが低いため、米ドルベースでの元本リスクはないと考えられる。リスクとして考えられるのは為替変動リスクと、10年経過後の運用商品が同じような収益性を期待できるものがないかもしれないということくらいだ。
この運用ができれば、借入金額5,000万円、借入期間35年、自己資金1,300万円にして、住宅ローンは全期間固定金利2を選択し、余剰資金2,000万円として13年経過後に一部繰り上げ返済をするのが、無難な方法だといえる。
というのも、住宅ローン負担額は、為替がある程度変動したとしても、一部繰上返済を経た 実質負担額351万円分は、ほぼ賄うことができるからだ。また、11年以降の運用商品次第では、繰上返済をすることなく、適切な運用商品を選択することができれば、35年間という期間の長さからそれまでの2~3倍の収益を確保できる可能性がある。
リスクを理解している前提だが、とにかく全額を借りて、自己資金を諸費用以外には使用せず、余剰資金3,000万円とし、すべて資産運用に回すという方法もある。リスクに十分配慮し、適切な投資手法を用いれば、100%とはいえないが最終的なメリットは大きくなる可能性は高い。
35年間という超長期間であることを考えれば、多少のリスクをとれる前提で、余剰資金3,000万円を年利平均6~8%の期待リターンのある商品に運用してもよいだろう。そうすると、35年間の運用益によって3,360万円~5,040万円という莫大な資産の獲得が見込まれることとなる。物件価格の大部分が回収できてしまう、というような夢のようなことだって起こりうるのだ。
これらは、あくまでも計算上の話なので、具体的に商品内容を検討して十分に吟味した上で、検討してほしい。もちろん、資金の全額ではなく、一部だけを投資に回すのでも問題ない。これは、検討に値する内容であると断言できる。
3回に渡り、マンション購入時の「自己資金をいくらにすればいいか」問題について考察してきた。借入金額を5,000万円に設定すると、住宅ローン減税の恩恵が最大限に得られるため、それを意識して自己資金を設定するのがよいと考えられる。また、余剰資金を繰上返済に回すことで、よりコストをおさえることができる。
ただ、これまでは言及してこなかったが、借入金額を5,000万円にすることで、ローン返済が家計を圧迫するようであれば、本末転倒なので、その場合には、家計に配慮した金額まで引き下げる必要がある。
できれば、余剰資金があれば、それを繰上返済ではなく、資産運用に回すのも一考すべきである。勇気と計画があるならば、可能な限り借入をし、資産運用に回せば、数十年に渡る住宅ローン返済の期間中にある程度の資産を築くことも不可能ではないだろう。
ホームローンドクター株式会社代表取締役。
住宅ローンアドバイザー。銀行、外資系証券会社を経て、1997年に住宅ローン専業のコンサルティング会社の同社を設立。家を購入するための資金計画づくりと住宅ローンの選択について、金融知識と実務経験を活かし、将来の生活にゆとりを築くための設計をするサポートしている。住宅ローンの著書5冊、日経電子版コラムの執筆など。
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