不動産研究所発表の「全国新築分譲マンション市場動向2022年」によれば、新築マンションの平均価格は10年連続で上昇したとのことだ。東京23区では平均価格が8,236万円と、前年比では下がったが、依然、高額ゾーンにあるといってよいだろう。新築だけでなく、千代田区や港区などでは、中古マンションでも1億円超の取引が行われているようで、バブル経済の時代よりも高額になったかのようだ。
そんな高額物件の取引においては、現金で一括購入する人は1割程度とみられ、住宅ローンを利用している人が多数派だという。おそらく1億円超の住宅ローンが普通に利用されているようだが、その借入先や利用方法について解説してみたい。
過去において、住宅ローンといえば1億円以下が一般的だった。しかし、ここ数年で1億円超でも貸してくれる銀行が増えてきた。金あまりの時代においては、デフォルト率(ローン返済ができなくなった比率)が低い住宅ローンは、銀行にとっても優良な投資先として見出したのだろう。
ホームページ上で1億円超の取扱いを公表している銀行について以下の表にまとめた。これらは2023年3月時点の情報であり、予告なく変更されていることがあるので、利用を希望する人は、事前に確認してほしい。
また、ホームページ上では公表していないが、個別に相談すれば対応ができるところは、以下の通りだ。
以前は一部の銀行だけが個別交渉でのみ対応した1億円超の住宅ローンだったが、今ではネット銀行だけでなく、地方銀行までもが取り組んでいる。
上記の金額上限は、あくまでも1人に貸し出す場合の上限だ。銀行によっては2人で借りるペアローンであれば、最大2億円まで貸してくれることもあるので、事前に取引を希望する銀行に確認するとよいだろう。今後、マンション価格の暴落が起こらなければ、ますます1億円超の住宅ローンを取り扱う銀行は増えるものと予想される。
1億円超の住宅ローンは月の返済金額がかなり大きくなるため、それなりの年収が必要となる。年収が多いといっても、実質的な返済金額が多いことと、それが安定的であることが重要となる。
例えば、自営業で「収入」は多いが、「収入」から経費を差し引いた「所得」を低く抑えている人がいる。銀行は、事業収入を得ている人についてローンを返済する原資を「所得」でみるため、融資額も低くおさえようとする。
銀行により計算の仕方が異なるため一概にはいえないが、1億円を借りるには、35年間借入する前提で、年収(事業収入がある場合は、所得)1,103~1,330万円くらいは必要となってくる。また、この収入が安定的であることが必要だ。
住宅ローンを2億円、借入期間15年で希望する場合、3,813万円~4,439万円が必要となる。これを1人で借りる場合、年収が2,000万円を超えているので、住宅ローン控除が利用できないことに注意してほしい。1人で借入希望額に届かなければ、前述の通り、収入がある人と一緒に借りるのがよいだろう。
団体信用生命保険(以下、「団信」)も、最大1億円というのが一般的であった。例えば、1億円超の住宅ローンを借りても、団信は1億円までしかかけられなかった。それが、団信を複数かけられるようになっていたり、1億円超の借入額でも加入できる団信が用意されたりしているので、住宅ローンを安心して借りられるようになってきている。
もしペアローンで別々に住宅ローンを借りる場合は、万が一、債務者の1人が亡くなったら、その人の分の借金しか完済されず、もう1人の借入金は残ってしまうため、別途対策を検討しておくとよい。
1億円超を借り入れる場合、審査によっては金利がホームページなどで表示されている最低金利よりも安くなることもあれば、高くなってしまうこともある。金利が安くなるのは、借入希望者の個人属性や物件属性などにより更なる優遇を得られるからだ。
逆に金利が高くなるのは、返済計画に懸念がある場合などが考えられる。銀行が提示してきた結果を変えることは簡単ではない。たまに交渉に応じてくれることはあるが、複数の銀行に申込んで最も自分に有利な条件を出すところに決める方が簡単だろう。
ただ、重要なことは、金利だけで商品を決めるべきではない、ということだ。1億円超と借入金額が大きくなれば、総支払利息額と融資手数料をみると、融資手数料のウェイトが相対的に高くなり、無視できないからだ。2023年3月時点では特に、SMBC信託銀行プレスティア、ソニー銀行、新生銀行など、融資手数料で定額制を採用しているところを検討の候補にいれるとよいだろう。
例として、SMBCプレスティア銀行と三菱UFJ銀行を比較してみよう。
表4のように金利が安くても融資手数料の違いで総支払額がわずかながら逆転することがある。このようなパターンであれば、繰上返済を予定する場合、繰上返済をすればするほど、SMBC信託銀行プレスティアの方が割安になっていく傾向にある。そのため、個別の商品ごとにコストを試算して確認するべきだ。
当たり前だが、1億円超の住宅ローンは負担すべき総支払額も大きくなる。表4をみれば、変動金利という超低金利を採用しているにもかかわらず、SMBC信託銀行プレスティアで金利と手数料の合計で約1,607万円、三菱UFJ銀行で約1,614万円を支払うことになり、SMBC信託銀行プレスティアの方がやや安くなっている。
しかし、金利が上昇したらどうなるだろうか。2年後に金利が1%上昇する前提で計算すると、前者が約4,307万円、後者が約3,947万円となり、コスト負担が倍以上に増え、三菱UFJ銀行の方が安くなる。
金利上昇リスクが徐々に顕在化してきた現在では、全額変動金利を採用し、そのまま何もしないのは、利払いが1,300万円~2,700万円ものコスト増となるリスクがあるので、おすすめしない。
そこで、金利上昇時のリスクを回避することを考えてみよう。その方法は、借入期間を短くする、固定金利にするなどが考えられる。以下、三菱UFJ銀行の住宅ローンをベース(2023年3月時点)に、どのような効果があるのか、試算してみたい。
今回は、(1)借入期間を35年から15年に短期化した場合、固定金利は(2)10年固定金利にした場合と(3)全期間固定にした場合の2つを採用してみたい。ミックスプランも検討対象となりうるが、同銀行の金利設定ではあまり効果がなかったので、表示しない。
表5をみれば、コスト削減効果があるのは、(2)借入期間を15年に短期化することだとわかる。しかし、毎月返済額が2倍くらいとなり、この負担が耐えられない家計も少なくないだろう。これを選ばないとすれば、金利が1%の上昇であれば変動金利が最も安く、金利が2%上昇であれば(4)全期間固定金利が最も安くなる。
金利が1%超の上昇があると考えれば、(3)10年固定金利か(4)全期間固定金利を選ぶべきだが、(4)全期間固定金利は毎月の返済額負担が8万円以上も高くなるので、心理的な抵抗感から(3)10年固定を選びたい人もいるかもしれない。
ただ、上記の対策だけではコスト負担が大きいので、繰上返済を行うことで、更なるコスト削減を図った場合のシミュレーションを見てみよう。
毎月返済額については、繰上返済(期間短縮型)を行っても変化がないので、表6では総支払額のみ表示した。
借入期間を15年にするのではなく、(2)当初は35年で借りて、15年後に9,000万円前後の残高をすべて返済し、実質15年借入に変えることでも、(1)変動金利で35年返済し続けた場合より金利上昇時のコスト増を約760万円~2860万円ほど抑える効果があることがわかる。
金利1%程度の上昇を見込む場合は、(2)変動金利または(3)10年固定金利で繰上返済をすること、金利2%上昇と見込む場合は、(3)10年固定金利で繰上返済をするのが、金利上昇を最もおさえることに成功している。おそらく金利が2%超の場合で試算すれば、全期間固定がよい、となるだろう。
従って、金利上昇の幅の予想に応じて、ベストとなる金利タイプが異なってくることがわかる。今後、いつ、どのくらい金利が上昇するのかは誰にもわからないが、万が一上昇した場合のリスクを考え、対策をたてておくのは必須であろう。
1億円超の住宅ローンを借りた人にとって、最も懸念すべきは、収入変動リスクである。これは、住宅ローンを借りる人は誰にとっても重要な問題なのだが、収入が高い人ほどこのリスクをケアする必要がある。
収入が高い人の中には、成果報酬制、収入が業績に連動するなど、収入が変動しやすい傾向がある人が少なくない。また、離職率、転職率が高い、雇用がやや不安定である人も少なからずいる。これら人は高額な返済の負担を安定的に続けられないリスクがあるのだ。
最近は、パワーカップルも高額マンションを購入しているとの報道も散見されるが、収入が十分にあっても万が一離婚をすると、返済が難しくなる可能性が高くなるだろう。住宅を購入しようと考える人に離婚をリスクとして考えるように提案するのは、あまり気持ちのよい話ではないが、検討だけはしておいた方がよい。
対策としては、収入減少になった場合でも問題なく返済できるよう、「借入金額を一人で返済できる金額まで抑える」「予めまとまった金額を貯める計画を立てる」などが考えられる。事前の対策を検討し、準備をしておけば、万が一の時でも混乱なく対応できるようになる。
返済計画をたてるのは将来の資金不足の可能性をあぶりだすことができるため、事前の対策を検討できる。面倒に感じるかもしれないが、メリットしかないため強くおすすめしたい。
ホームローンドクター株式会社代表取締役。
住宅ローンアドバイザー。銀行、外資系証券会社を経て、1997年に住宅ローン専業のコンサルティング会社の同社を設立。家を購入するための資金計画づくりと住宅ローンの選択について、金融知識と実務経験を活かし、将来の生活にゆとりを築くための設計をするサポートしている。住宅ローンの著書5冊、日経電子版コラムの執筆など。
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