マンションを買うなら新築か、中古か。
検討者の多くが一度は迷うポイントだ。一般に、同じエリアで比較すれば中古は新築より安く買えるため、「中古は新築よりおトク」と考える人は多いはずだ。ただ、長い年月を暮らすマイホームだけに、価格の安さも大事だけれど、できるだけ新しい家を選んでおいたほうがいいのだろうかと、迷う人も多いだろう。そこで今回は、新築と中古の価格差の関係性に加えて、納得のいく選択をするために大切なポイントについて解説してみたい。
まずは、新築マンション価格と中古マンション価格の関係性について押さえておこう。というのも、昨今は「10年前に新築で買ったマンションが新築時より高く売れる」ことが珍しくない時代であり、これを当たり前と思ってしまうと、大きな誤算をしてしまう危険性があるからだ。
図1は、2000年以降の首都圏の新築マンション平均価格と中古マンション平均成約価格の推移をグラフ化したものだ。これを見ると、新築価格と中古価格は、ほぼ同じ曲線を描いて推移していることがわかる。特にこの10年ほどは、新築、中古とも価格上昇トレンドにあることが明確に読み取れる。つまり、いつの時代も新築が中古より高く、新築が上がれば中古も上がるのが、新築価格と中古価格の関係性である。
一般に、新築価格は事業主の意思や思惑で決定される。このため、物件のスペックによっては地域の価格相場を大きく上回る高値に設定されるケースもある。特に近年は、そうしたケースが頻発していることが新築価格の高騰につながっている側面がある。
他方、中古は個人の売主がエリアの中古相場や取引事例を見ながら売り出し価格を決定することが一般的だ。その際、同エリアの新築価格水準も当然意識される。立地条件やグレードなどの主要条件に大差がなければ、中古は新築より安くて当然と考える人の心理をふまえて、中古の売り出し価格は新築より割安感がある水準に設定されることになる。そうした事情が新築価格と中古価格の関係性に表れているといえよう。
ちなみに、上記データから「中古価格/新築価格」の比率と、「新築価格-中古価格」の差額を求めたのが図2である。比率を見ると2000年代初頭の50%弱から近年は55%前後に上昇しており、中古価格が下がりにくくなっている傾向が見て取れる。
その一方で、新築と中古の差額は拡大しており、金額でいえば中古の割安感が大きくなっていると見ることもできる。要は「比率」と「差額」では全く逆の見え方になってしまうのだ。
ただ、実際に購入を検討する人とっては「比率」より「差額」のほうが直感的にわかりやいので、その観点では、近年は相対的に中古価格の割安感が高まっていると解釈したほうがしたほうがよさそうである。
さて、話を本題に戻すと、ここで言いたいことは、マンション価格は新築価格が先にあって、中古相場はそれを追随するように形成されるということだ。つまり冒頭で述べた、「10年前に新築で買ったマンションが新築時より高く売れる」という現象は、この10年間が、新築価格相場が大幅に上昇する局面だったから起きたことなのだ。
図3)の「新築価格と中古価格の関係性」をご覧いただきたい。左の「新築価格が大幅上昇した10年間」が、近年現実に起きたことを表している。しかし、右の「新築価格の上昇が横ばい~緩やか」だった場合は、中古が新築時より高く売れることは難しくなる。この関係性を理解しておかないと、将来、大いなる誤算に悩まされかねない。なぜなら、今後の新築価格が過去10年間と同様に大幅上昇を続ける保証はないからだ。
10年前に新築で買ったマンションが10年たって新築時より高く売れたという人は、平たく言えば「時代に恵まれた」というのが正しい理解だ。逆にその中古を買った人は、築10年物を新築時より高い値段で買っているわけで、心情的には「中古は新築よりおトク」とは限らないと感じてしまうのは筆者だけではあるまい。
マンションは数千万円単位の買い物だけに、新築と中古の比較を損得勘定第一で考えてしまうのは仕方のないことだ。しかし、高額な買い物というなら、買う物件への「納得感」も無視できない要素である。そして「納得のいく買い物」をするために、新築と中古には、実は見落とされがちだが購入プロセスに大きな違いがあることを認識しておく必要がある。
新築マンションを購入する場合、モデルルームを見て、パンフレット、図面集、エリア情報など、事業主が用意した豊富な資料をもとに検討できることが一般的だ。また、一つの物件のなかで、異なる間取りや階数、専有面積、方角等の選択肢があり、先着順になっている住戸以外は販売スケジュールも決まっているので販売開始までじっくり検討できる。
ただ、モデルルームは希望住戸と間取りが同じとは限らないし、オプション仕様やプロのインテリアコーディネートが入るため、実際に購入する「素の住戸」をしっかり想像しておかないと、完成後に「イメージと違う」という事態もあり得る。
他方、中古マンションの場合は、モデルルームではなく「現物の住戸」を見られる。建物だけでなく日当たりや眺望、風通しなどまで、「現実」をチェックできるので、見込み違いは起こりにくい。物件情報は「住戸」単位であり、資料は新築と比べると簡易なものにとどまる。比較検討する住戸が一つひとつ異なるマンションである場合が多く、築年数や管理状態など、比較するポイントが新築よりやや複雑といえる。
また、新築と大きく異なるのが、売買契約は基本的に早い者勝ちという点だ。いい物件に出会っても、迷っているうちに誰かに先を越されてしまうこともありうるし、条件のよい物件ほど競争が激しくなるので、即断即決に近い決断力が求められる場合もあるのだ。
上述した新築、中古の購入プロセスの違いを総括すれば、新築は資料が潤沢であることと、販売スケジュールの範囲内でじっくり時間を使える点で、初心者でも比較的検討しやすい。一方で、中古は新築より比較検討ポイントが増えることや、物件の良しあしを素早く判断する眼力や決断力がある程度求められる点で、やや難易度が高い買い物といえるかもしれない。
こうした違いがあるなかで、中古検討で大きな意味をもつのが仲介会社の営業担当者の存在である。新築に比べて難易度が高い分、中古の検討はプロのサポートをうまく活用することが欠かせない。管理や修繕の状況など、自分では調べるのが難しい情報や、広告には載らない地域の深い情報なども、不動産のプロに頼めば入手できる可能性がある。
また新築と違い、営業担当者が提案する物件は一つではなく顧客の要望次第で変わる。その意味でも、中古で納得のいく選択をするには、仲介会社や担当者のサポート力や提案力を見極めることが重要になるといえるだろう。
住宅ライター
1990年、京都大学工学部卒業、株式会社リクルート入社。2005年より住宅情報誌「スーモ新築マンション」「都心に住むbySUUMO」等の編集長を10年以上にわたり務め、2016年に独立。現在は住宅関連テーマの企画・執筆、セミナー講師などを中心に活動。財団法人住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー」運営委員も務めた(2005年~2014年)。株式会社コトバリュー代表
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