不動産投資コラム

個人と法人、どちらが得か?
法人化のタイミングとメリットを押さえる!

前回のコラムでは、青色申告のメリットや個人で物件を持っている時に不動産所得でマイナスが出た場合の確定申告の処理方法についてお話しました。第5回目となる今回は、法人化のタイミングやメリットについてお伝えします。不動産投資の規模が大きくなってくると検討したい法人化。節税できる幅も個人よりかなり広がりますので、所得税との違いやメリットをしっかり押さえてくださいね。

法人化はいつしたらいいのか?

私がもっともよく聞かれる質問の一つが「法人化はいつしたらいいのでしょうか?」という質問です。皆さんも不動産投資の規模が大きくなってくると、法人を設立したほうが節税になるのではないかと思っているのでしょうね。

では、いったい法人化はいつしたらいいのでしょうか?巷では「家賃年収1,000万円を超えたら」など、法人化について色んな噂が飛び交っているようですが、これはまったくのデマです。なぜなら、家賃収入が大きくなっても、経費がたくさん掛かって利益の出ないような物件であれば、法人化をする意味はありませんし、そもそも人によって法人化のタイミングは変わります。

その理由を今から説明しますね。法人化を考える一つの判断基準は、個人と法人の税率の違いです。個人は所得税が掛かりますし、法人はもちろん法人税が掛かります。
個人の所得税の税率は次の表の通りです。

■所得税と住民税を合算した税率表

課税所得金額 税率 控除額
~195万円以下 15% -
195万円超~330万円以下 20% 97,500円
330万円超~695万円以下 30% 427,500円
695万円超~900万円以下 33% 636,000円
900万円超~1,800万円以下 43% 1,536,000円
1,800万円超 50% 2,796,000円

一方、法人は次のように税率が上がっていきます。

課税所得金額 税率
~400万円以下 約22%
400万円超~800万円以下 約25%
800万円超 約38%

法人はこの税率で計算した税金の他に、約7万円の均等割りという住民税も掛かってきます。

では、個人と法人の税率が逆転する課税所得はいくらなのでしょう?それは、ズバリ課税所得900万円です!課税所得が900万円を超えると所得税・住民税の税率の方が33%を超えて法人税率より高くなります。ですから、個人の不動産所得だけで課税所得が900万円を超えているようなら、次に購入する物件は法人で購入した方が税金は低くなります。

ただし、これは専業大家さんの場合の考え方。サラリーマンをしながら不動産を購入しようと思っている兼業大家さんは、すでに給与所得がありますので、現在の年収だと何%の税率なのかを確認しておく必要があります。家族構成などに基づいた所得控除の金額によっても課税所得は変わりますが、年収1,000万円程度の人は、すでに給与だけで税率が30%に達していますので、その上、物件を購入して不動産所得が上乗せされることを考えると、初めての物件でも法人で購入したほうが、節税できることがわかります。

もちろん、法人化のタイミングは購入する物件の規模にもよります。所得が少ししか発生しない規模の小さな物件であれば、個人で購入してもまだ税率は低いままかもしれません。逆に年収が低くても、所得がたくさん発生する規模の大きな物件を購入するのであれば、はじめから法人で購入したほうがよいですよね。

このように考えると、法人化のタイミングが人によって変わることが理解できるのではないでしょうか?

個人と法人、どんな違いがあるのか?

では、法人化をすると、個人の場合とどんな違いがあるのでしょう?まず、大きな違いは先ほど説明した税率。基本的に節税というものは、税率の差を使うことで実現するものなのです。次に違う点は、損失が発生した場合に、その損失を繰越できる期間です。個人の場合は、不動産所得がマイナスになって、他の所得と合算してもさらにマイナスの場合は、そのマイナスを3年間しか繰り越せません。しかし、法人はマイナスを9年間も繰り越すことができます。個人と比べるとなんと3倍も長いですね。

あと、期間によってメリット、デメリットが違ってくるのが、物件を売却した際に発生した売却益に対する税金です。個人の場合は、5年以内に売却した場合の売却益は短期譲渡所得となり、税率は所得税30%、住民税9%の合計39%。5年超で売却した場合の売却益は長期譲渡所得となり、税率は所得税15%、住民税5%の合計20%で、他の所得とは別で計算します。一方、法人は売却益が発生しても、個人のように別計算にはならず、所得に対して、先ほどの表の税率が掛かります。ですから、短期で売却した場合の売却益に対する税金は法人税率の方が低いですが、長期で売却した場合の売却益に対する税金は、所得税率の方が低くなります。

さらに、融資対策上で違いが出るものが、減価償却費の扱いです。個人の場合、強制償却といって、決められた計算式によって計算した年間の減価償却費は、全額を経費にしなければいけません。一方、法人は任意償却といって、決められた計算式によって計算した年間の減価償却費の範囲内で、経費にする金額を自由に決めることができます。

では、なぜこれが融資対策に影響するのかというと、個人の場合は、不動産所得がマイナスになっていても、強制償却なので利益を減価償却費で調整することができません。しかし、法人なら任意償却なので、利益を減価償却で調整することができます。もちろん銀行には利益が出ている損益計算書を見せる方が、イメージがよくなりますから、融資対策上、有効といえるんですね。ただ、これは銀行の考え方によっても変わります。

あと、個人と法人で違う代表的なものが、保険料の扱いです。個人はいくら高い保険料を払っていても、生命保険料控除の上限金額しか所得から控除できません。しかし法人は、要件に当てはまれば、保険料全額を控除することができますので、保険料については法人の方が有利なんですね。

法人だからできる最大の節税とは?

個人と法人の違いについてご説明しましたが、法人化の最大のメリットとは何でしょう?
それは、人件費の活用です。個人の場合でも、青色事業専従者給与として、配偶者にお給料を払うことができますが、他でお勤めしていると払えないなど、色々と制約が厳しいのが実情です。しかし、法人で物件を所有すれば、家賃収入を得て利益が発生するのは法人です。そして、家族にその法人の役員になってもらって、仕事をしてもらえば、法人で発生した利益を、役員報酬として支払うことができます。

例えば法人で300万円の利益が出ていると、法人税は約73万円発生します。しかし、この300万円を、他に所得のない役員3人にそれぞれ100万円ずつ役員報酬として支払えば、全体の税金は約10万円になります。なぜこれほど節税できるのかというと、所得が分散されることによって、それぞれの税率が低くなるからなんですね。

最初にもお伝えした通り、節税の基本は税率の差を使うことです。役員になれる家族が何人いるのかでも、法人化した方がよいかどうかの判断が変わりますが、家族一丸となって協力すれば、法人化することで最大の節税効果が得られることを覚えておいてくださいね。

次回は、不動産投資の税金戦略が物件を購入する前から始まっている理由についてお伝えします。不動産投資でお金を残していく上で、一番大切なことをお伝えする予定ですのでお楽しみに!

叶 温
叶 温

叶 温

叶税理士事務所代表。広告代理店の営業として3年間勤務後、税理士を目指し会計事務所に転職。勤務時代に年収400万円で、1億円のマンションを購入。現在は自社ビルを含む2物件のオーナーでもある。著書『大家さん税理士が教える 不動産投資で効率的にお金を残す方法』(ぱる出版)他。
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