1.土壌汚染が認められた土地の評価の取扱い
土地の土壌汚染は、当然に取引価額にも影響を及ぼすことが見込まれ、相続税の財産評価においても無視することができないものになっています。
国税庁では、土壌汚染が認められる土地の相続税評価について、土壌汚染がないとした場合の土地の評価額から、土壌汚染の浄化・改善費用に相当する金額等を控除する取扱いを明らかにしました(国税庁「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」平成16年7月5日)。
その場合、控除する金額は、土壌汚染の浄化・改善費用に相当する金額は、相続税評価額のレベルに合わせて見積額の80%相当額とすることとされています。
また、浄化等の方法などの措置は、法令に基づく措置命令、浄化・改善費用とその措置により生ずる使用収益制限に伴う土地の減価とのバランスを考慮し、その上でその土地について最有効使用ができる最も合理的な措置を専門家の意見をも踏まえて決めることになる旨の考え方を示していました。
ここでは、汚染物質が見つかった土地でもそもそも浄化・改善費用が必要かどうかをめぐり争われた最新の裁決事例(審判所、令和3年12月1日裁決)を紹介します。
2.事案の概要
裁決書によると、問題の相続土地は4筆で、いずれも都市計画法上の商業地域(建蔽率80%、容積率600%又は800%)・防火地域、高度地区に所在し、現況は立体駐車場か平置き駐車場となっていました。
当該土地は、土壌汚染が懸念される土砂によって埋め立てられたことが想定されたため、土壌汚染の状況等を把握する目的で、指定調査機関に対して調査を依頼したことで途上汚染が発覚しました。
いずれの土地からも深度0.5m~5m程度で土壌汚染対策法所定の基準を超える特定有害物質が検出されましたが、被相続人や相続人は、都道府県知事に対する土壌汚染対策法上の汚染除去等の措置を講ずることが必要な要措置区域又は形質変更時要届出区域の指定の申請を行っていませんでした。
相続人は、4筆の土地につき、土壌汚染がないものとした場合の価額を合計約11億9,500万円とし、汚染物質の掘削除去を前提とした浄化・改善費用を合計約4億9,800万円として相続税を申告しました。
しかし税務署は、この土地に土壌汚染対策法に規定する汚染の除去等の措置を講ずることが必要な区域に指定等がされていないため、浄化・改善費用の負担が確実に発生するとはいえないとして更正処分等を行ったことから、争いとなったものです。
3.審判所の判断
審判所はまず、財産評価基本通達1(3)で「相続財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する旨定めている」ことを受けて、前記の国税庁の情報について合理的としました。
事例へのあてはめでは、次のように認定しました。
①相続開始日までに、以前検出された特定有害物質の除去等の措置が行われた事実は認められないこと
②4筆の土地は土壌汚染のある土地と認めるのが相当であることから、各土地の評価に当たり、浄化・改善費用相当額を考慮すべきこと
③汚染の除去等の措置としては、汚染土壌を掘り出す掘削除去措置のほか、汚染の封じ込め措置等も存するところ、どのような措置を採ることが相当であるかについては、当該措置後の使用収益の制限に伴う土地の減価や汚染の状況の程度などの諸事情を総合勘案して、その措置後に当該土地について最有効使用ができる最も合理的な措置によるべきこと
④4筆の土地は商業施設や中高層オフィス・ビル等が建ち並ぶ建蔽率80%、容積率600%又は800%の高度地区に所在し、最有効使用は、中高層の建築物の敷地であると認められ、汚染物質を含む土壌の掘削除去が、最有効使用できる最も合理的な措置であること
審判所はこうしたことから、「控除すべき浄化・改善費用相当額は、本件各見積額(立体駐車場のある土地に係る見積額については、相続開始日に時点修正した金額)の80%相当額によるのが相当」としました。
税務署側の「法令上、汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じているかについては、各土地が、要措置区域に存するか否か」で判断すべきとの主張に対して、審判所は「土壌汚染が土地の価格形成に影響を及ぼす場合を、法令により汚染の除去等の措置を講ずる義務が生じ、その除去等の費用が発生することが確実である場合に限定する理由はない」として、税務署の処分の取消しを認めました。