1.はじめに
賃貸共同住宅は相続税の財産評価では有利だという話はよく聞くところです。実際、賃貸共同住宅の敷地と建物の相続税評価は、国税庁の財産評価基本通達によると、次のような計算式で求めることとされています。
●貸家の敷地の相続税評価額=自用地の評価額-自用地の評価額×その地域の借地権割合×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達26)。
●貸家の評価額=その貸家の固定資産税評価額-同家屋の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達93)。
ただし、賃貸共同住宅の敷地・建物を複数の相続人で相続した後、その相続人に相続が開始した場合には、以前の相続の仕方や相続人が相続した後の借家人の入れ替わりなどの状況変化によっては、同じ賃貸共同住宅の敷地・家屋であっても、相続税評価の上で不利になる場合があります。敷地の相続税評価において、賃貸集合住宅の敷地となっているのに、貸家建付地としての減額が認められないケースもあるからです。
2.事例の概要
貸家建付地としての減額が認められなかった最近の事例(国税不服審判所裁決、令和4年9月20日)を紹介します。この事例は他にも争点がありますが、ここではおよそ260m2の土地に建つ、戸数6戸の賃貸共同住宅の敷地の評価について争われたところをクローズアップします。
裁決書によると、相続税評価が問題となった土地は、被相続人(以下「亡母」という)の配偶者である父が昭和59年2月5日に建築した共同住宅の敷地として利用されていたものです。
亡母の死亡に係る相続の前に発生した父の死亡による相続で、亡母はこの土地の100分の25の持分を取得し、長女がこの土地の100分の75の持分と共同住宅の所有権を取得していました。推測ですが、父からの相続では、賃貸共同住宅が満室だったら、亡母と長女が取得した敷地はその全体が貸家建付地と評価されていたのではないでしょうか?
今回の亡母の相続開始時点では、総戸数6戸のうち3戸が実際に貸し付けられていました。また、借家人と契約していたのは長女となっていました。なお、亡母は長女との間で母の土地の持ち分の賃貸借契約を締結しないまま、相続を迎えたということです。
亡母の長女を含む相続人らは、問題の敷地の相続税評価に関し、貸家建付地として評価し申告していましたが、税務署は、亡母と長女の間に地代の授受が認められないから、土地の利用は使用貸借であるとして減価せずに更正処分等をしました。こうして審査請求に及んだものです。
3.審判所の判断
国税不服審判所(以下「審判所」という)は、上記の財産評価基本通達の貸家建付地等の評価方法について「適正な時価を算定する方法として合理的なもの」と認めました。
そのうえで、審判所は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の所有者は長女であり、(父からの相続後)共同住宅の賃貸人も長女であったことから、亡母は、共同住宅の借家人に対してその賃貸人としての義務を負う立場にはなく、この土地が共同住宅の數地として利用されていることの結果としく受ける亡母の利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることからくるもの(中略)したがって、亡母と長女との間にこの土地に係る使用貸借の合意があったか否かにかかわらず、この土地の亡母の共有持分を評価するに当たり、この土地を貸家建付地として評価することはできない。」と判断しました。
そして審判所は「亡母のこの土地の共有持分について、長女との間において賃貸借契約があったと認められないからこの土地は自用地として評価することとなる」としています。
なお、相続人は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の一部が賃貸に供され、その借家人が共同住宅を通じて、その敷地利用権を有しているところ、貸家の所有者が相続により変更になっても借家人の借家権及びその敷地利用権は侵害されないから、(中略)この土地は、貸家建付地として評価すべき」と主張していました。
これに対し審判所は「借家人は長女との間で賃貸借契約を締結しているのであるから、借家人が有するこの土地の利用権は、(中略)長女がこの土地に対して有する権限を前提にしたものにすぎない。そして、(中略)亡母が受ける利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることによるものといえるから、請求人らが主張する事情をもって、この土地を貸家建付地として評価すべきとはいえない」と相続人の主張を退けています。