【問】
AさんとBさんの兄弟は、土地1~土地7の7か所の土地(以下「本件各土地」)を共有していました。このたび、兄弟それぞれが本件各土地を単独所有とするために、次の内容を盛り込んだ一の交換契約により、本件各土地の共有持分の一部を交換しました。
・Aは、Bに対し本件各土地のうち土地1~4の4か所の土地(以下「本件各譲渡土地」)に係る共有持分を、交換の譲渡資産として譲渡する。
・Aは、Bから本件各土地のうち本件各譲渡土地を除く土地5~7の3か所の土地(以下「本件各取得土地」)に係る共有持分を、交換の取得資産として取得する。
・本件各取得土地の価額の合計額と本件各譲渡土地の価額(時価)の合計額は等価であり、交換による差額は生じない。
この交換の場合、本件各譲渡土地及び取得土地の価額(時価)について個々の資産ごとに判定すると、組み合わせによっては交換による差額が20%を超える場合があります。
このような場合でも、本件各譲渡土地の価額の合計額と本件各取得土地の価額の合計額が等価で、交換による差額が生じないときは、Aさんは固定資産の交換に係る所得税の特例(以下「交換特例」)の適用を受けることができるのでしょうか。
【回答】
1.結論
交換特例の適用を受けることができると考えます。
2.解説
(1)特例の概要
個人が固定資産の交換をした場合、交換も譲渡の一種であり、交換により譲渡する資産の含み益には原則、譲渡所得の金額として所得税が課税されます。
ただし、従前から所有している不動産等の固定資産を同種の固定資産と交換し、交換取得資産を交換譲渡資産と同様の用途に供しているような場合には、実質的には同一の資産を継続して保有し、譲渡がなかったものとみなして、譲渡益に対する課税を繰り延べ、その時点では課税を行わないこととしています。
具体的には、個人が①1年以上有していた固定資産を、②他の者が1年以上有していた同種の固定資産と交換し、③その交換により取得した固定資産(「交換取得資産」)をその交換により譲渡した固定資産(「交換譲渡資産」)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供する場合において、④特例の適用を受ける旨等の一定事項を記載した確定申告書を提出したときは、交換譲渡資産の譲渡がなかったものとされます。これが「交換特例」です(所得税法58条1項)。
(2)交換取得資産と交換譲渡資産の時価の差額の要件
交換特例の適用を受けるためには、上記(1)①~④の他、⑤交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価の差額が、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です(所得税法58条2項。以下この要件を「交換差額要件」という)。
(3)複数の土地を交換する場合の交換差額要件の判定
譲渡所得の金額は、その年中の譲渡所得に係る総収入金額から譲渡資産の取得費と譲渡費用等を控除して計算します(所得税法33条3項)。
その譲渡所得の総収入金額について、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入される場合は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とされます(同36条1項)。
土地の交換による収入金額は、交換により取得した土地の価額となり、一の交換契約により取得した土地が複数である場合には、それらの土地の価額の合計額となります。
複数の土地を一の交換契約で交換した場合、交換特例を適用しなければ交換取得資産の価額の合計額を収入金額として譲渡所得の課税関係が生じますが、交換特例は交換差額が一定の範囲内の場合に譲渡所得課税の繰延べを行うものですから、交換差額要件の判定は、一の交換契約により譲渡所得の課税関係が生じるとした場合の収入金額により判定すべきと考えられます。
ご質問の交換については、本件各土地の共有状態を解消し、本件各土地をそれぞれが単独所有とするために、一の交換契約により本件各譲渡土地と本件各取得土地とを交換するものであることから、その交換に係る交換差額要件の判定は、本件各取得土地の価額の合計額と本件各譲渡土地の価額の合計額との差額に基づき判定すべきと考えられます。
以上により、Aさんは交換特例の適用を受けることができると考えます。(参考:東京国税局文書回答事例「複数の固定資産を交換した場合の所得税法第58条に規定する交換の特例の適用について」)