不動産投資コラム

非課税狙いの住宅資金贈与、直後に相続開始で資産売却したら相続税トラブル

1.はじめに

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度(以下、住宅資金非課税制度と略称する)を利用して住宅取得資金をもらうと、相続税の節税になることは、よく知られたことです。資金を贈与した父母等の財産が減り、もらった資金は将来起こる相続における相続財産には加算されないからです。

しかし、そのためには住宅資金非課税制度の要件を充たすこと、同制度を受けるために確定申告することが必要となります。ただ、きちんと確定申告したとしても、無計画に相続直後に不動産などの財産を処分してしまうと、トラブルになることもあるようです。

2.売り急いだばかりに節税が台無し

住宅資金非課税制度は、父母・祖父母など直系尊属から満18歳以上で贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下の直系卑属である子や孫等が、所定の住宅を取得するための住宅取得等資金をもらう場合に、一定の限度額まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法70条の2第1項)。同制度は、住宅取得等資金を贈与された同じ年に、資金を提供した直系尊属が死亡し相続が開始した場合でも、贈与税の期限内申告を行えば適用が可能です。

このため直系尊属が近い将来の相続開始を予見し、住宅資金非課税制度を利用して住宅取得等資金を贈与した直後に、その親が死去、相続が開始するといった流れになることが、実はありがちです。一方で、資金をもらった子らは、遺産分割や相続税の支払いのため相続した不動産等をすぐに売却して資金化したい、そう考えるのも自然です。

ただ、すぐに売却に踏み切るのは考えものです。というのも、住宅資金非課税制度を適用する場合の要件には、資金をもらった人の「その年分の合計所得金額2,000万円以下であること」という「所得金額要件」を充たさなくなることがあるからです(租税特別措置法70条の2第2項第1号)。 

その場合には、住宅資金非課税制度の適用がなくなる可能性があります。そればかりか、住宅資金非課税制度の適用がない生前贈与資金は、あとで相続財産に加算されて相続税の課税対象になってしまいます(租税特別措置法通達70の2-14、相続税法19条)。

3.合計所得金額要件を充たすかどうかを検討

したがって、住宅資金非課税制度の適用を受けるべく資金をもらった年に、資金をあげた親が亡くなったため不動産を相続した場合、その年にその不動産等を売ってもよいかどうかは、住宅資金非課税制度の合計所得金額2,000万円以下要件を充たすかどうかと、セットで検討する必要があるということになります。

なお「合計所得金額」とは何かについては、所得税法で規定されています(同法2条第1項第30号、同法22条第2項)。内容を簡単に確認するには、国税庁のHPの専門用語集の「合計所得金額」を見るのが良いでしょう。それによると、次のとおりです。
(筆者注:合計所得金額とは)

次の(1)と(2)の合計額に、退職所得金額(※1)、山林所得金額を加算した金額(※2)です。

  • (※1)退職所得金額は、確定申告が不要な場合でも計算に当たって加算する必要があります。
  • (※2)申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。
  • (1)事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得の合計額(損益通算後の金額)
  • (2)総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額(以下略)
    引用:専門用語集|国税庁

上記に従えば、「合計所得金額」には分離課税となる不動産の譲渡所得が含まれることがわかります。不動産を譲渡した場合の譲渡所得の計算は、次の計算式で求めることができます。

課税譲渡所得金額=譲渡収入金額(売却代金等)—(取得費+譲渡費用)―特別控除額

合計所得金額に加算される金額は特別控除をする前の金額となります。

4.まとめ

住宅資金非課税制度の適用を受ける前提で資金贈与を受けた年に、不幸にも贈与者に相続が開始した場合には、亡くなった贈与者の節税の意図を踏みにじらないよう、相続した不動産等の売却は慎重に検討する必要があります。

時間やほかの諸条件が許せば、資産売却は次の年に繰り越してもよいのですから。

税理士法人タクトコンサルティング

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