CRE戦略
【Special Interview】コロナ後~将来 今後は「駅近の自社ビル」よりも「仕事をしたい」「また行きたい」場所
株式会社 丹下都市建築設計
会長 丹下 憲孝 氏
野村不動産ソリューションズ株式会社
常務執行役員 原田 真治
丹下都市建築設計の功績や都市・建築に与えた影響について語る対談の第3回です。「世界のタンゲ」のDNAを受け継ぎ、都市計画、建築設計に独自のエッセンスを加えてきた丹下都市建築設計ですが、社会や環境の変化を受けて、企業不動産の在り方は今後どう変わっていくと考えているのでしょうか。
丹下都市建築設計の会長 丹下憲孝氏の考える「これからのオフィス」について、野村不動産ソリューションズ 常務執行役員の原田真治が迫ります。
これからのオフィスは、「仕事をしたい」「通いたい」場所であること
原田 人口減少とともに人材不足が叫ばれているなか、コロナ禍によって働き方が変化し、オフィスの在り方も変わってきていると思います。これからのオフィスについてお考えを聞かせてください。
丹下 以前は「駅から徒歩〇分」など、立地が重要視されていました。働く場所は駅から近い方がいい、駅から近いオフィスが良いオフィス、と考えられてきたのです。
丹下都市建築設計 会長 丹下憲孝氏(右)と、野村不動産ソリューションズ 常務執行役員 原田真治(左)
しかし、コロナ禍を経て、今はオフィスに通わなくてもオンラインで仕事ができる世の中に変わりました。そのため、今のオフィスは「行きたい場所であること」が重要です。「心地いいからまた来たい、ここで仕事がしたい」と思える空間づくりが最も重要なので、今までとは価値観が全く異なります。企業や社会のニーズに応じて、私たちも気持ちのいい空間づくりを目指しています。
クアラルンプールのオフィスビルを例に挙げましょう。そこは、高層ビルなのですが、各コーナーを半戸外(建物の外に面した部分を屋根で覆った空間)にしています。そうすることで、働く人は仕事に行き詰まったら、少しでも外気に触れ、気分転換できるようになっているのです。
日本でも、フリーアドレスで気分転換を促している企業がありますが、自分のスペースが欲しいという人もいて、フリーアドレスが必ずしもが正解とは言えません。何が正しいのかは個人や組織によっても、また時代によっても変わっていくでしょう。
原田 最適な形は人や組織によってそれぞれですし、仕事との関わり方によっても何が心地いいかは違うので、一つに押し付けてはいけないという感覚はあります。
丹下 個で集中するスペース」と「コミュニケーションをとるスペース」の両方が必要なのでしょう。例えば、公式な会議の場と、タバコ部屋のように気軽な本音トークができる場というように、いくつかのスペースがあり、その日の気分や業務にマッチしたスペースを選べるようにするのが好ましいと思います。
今はオフィスに「来い」とも「来るな」とも言いづらい世の中です。私たちとしては、オフィスに来たくなるような空間づくり、オフィスに来た方が仕事がはかどる空間づくりをしなければなりません。
オフィスの空間づくりについて語る丹下憲孝氏
新築時の考え方に寄り添いながら、ニーズの変化に応じてリノベーション
原田 建物の老朽化という課題に対して、貴社はリノベーションにも注力されていますね。リノベーションにおいて大切にされていることを教えてください。
丹下 父である丹下健三の時代に建てた建築物は、築50年以上のものが多くなってきました。リノベーションは常に行っていますが、日本はスクラップ&ビルドの文化が浸透しており、再生意識が低いのが現状です。
ヨーロッパでは「うちのビルは100年しか経っていない」と語る人がいるなど、建物を長く使い続ける意識が根付いています。私たちも同じ意識で、自分たちで造ったものをリノベーションして新しくすることを心掛けています。
その際に、建築物が持っているエッセンスを崩さないことが大事です。鳩が留まる部分をこっそり取り除いたり、コンクリートだった部分を石造りに変えたり、一般の人が見てすぐに気づかないようにリノベーションしています。建てたときの考え方に寄り添いながら、ニーズの変化に応じて建物の価値を維持・向上できるようにリノベーションするのです。
お客様が購入した中古物件に付加価値を付けてリノベーションすることも行っています。
購入手続きが済んだら、付加価値を高めたいと考える方が多いので、そういった要望への対応です。
原田 これからの時代、スクラップ&ビルドからリノベーションやコンバージョン(用途変更を伴う改修)への重要性が増してきますね。ご紹介いただける事例はありますか?
丹下 ナポリのコンバージョン事例をご紹介します。
昔オフィスビルとして使われていた建物を構造は残してホテルにコンバージョンするプロジェクトを手がけました。
クルーズ船を持っている会社のヘッドクォーター(本社ビル)だったのですが、石造りの建築物が多いヨーロッパにしては珍しくガラス張りで、「ガラスビル」と呼ばれていたのです。
そこで、ガラスビルのニックネームは変わらないようにして、クルーズ船が大海原を航海するときに立つ波の様子をファサードの形状に反映した上で、付加価値を高めるためにユニット性を持たせました。「アダプタブル(時代や環境に応じて順応可能)」な形にしているのです。
ユニット化した部材を組み合わせるモジュラーシステムは、簡単に思われるかも知れませんが、モジュラーシステムに見えない外装を考えると難しく、建築設計事務所の力量が問われます。
最近は、当社でもモジュラーシステムで別荘の新築や改修を手掛け、シリーズ化しようという構想があるくらい、世界の各地で注目されています。例えばサウジアラビアでは、国の政策として全国民に家を安価に与えることを考えており、それにはモジュラーシステムが最適です。まだスタートしたばかりで、形になるには時間がかかりますが、積極的に取り組んでいこうと思っています。
オフィスの自前主義からの脱却と、様々な不動産価値の創出
原田 当社では今後の企業不動産評価において「自社使用価値」「市場価値」に加えて、「SDGsへの貢献」「時間」の計4軸を意識した戦略が必要であると考えています。
社会・環境の変化に対応・貢献するために、今後の建築・設計や不動産ができることはありますか。
丹下 「昔は、企業が成長してある程度の規模になったら、自社ビルを持つことが多くありました。今は、自社ビルを持つにしても、「不動産としての価値をどのように創出できるか」と考えている人が多いようです。
オフィスビルを建てるときに、他社に貸し出す賃貸ビルを基本として考え、そこに自社も入れるなら入る、と考えるのです。昔は、「ここは俺の城だ!」という意識が強かったのでしょうが、最近の若い事業者は持つよりもその時々による変化ができることを重視しているようですね。
原田 環境という意味では、社会から求められる環境性能は常に変化しており、日々厳しくなっています。その上、業容拡大や働き方の変化もあるので、「自前主義」で対応し続けていくのはハードルが高いでしょう。ヘッドクォーターは借りて、そこで本社業務を担い、自社ビルは収益源として貸し出すことも今後は増えるのだと思います。
丹下 「ポータブルアセット」つまり持ち運べる資産が人気で、腕時計や宝石のマーケットが好調です。不動産は持ち運べませんが、商品として扱う時代になるでしょう。これも時代の流れと言えます。
原田 今は少子高齢化、コスト増、円安など、様々な事業環境の変化が起きています。働き方改革や在宅勤務の普及など、企業にとってオフィスの意味合いも変化して、今後は、人的資本を重視するオフィス戦略が不可欠でしょう。
当社はCRE戦略構築のプロとして、顧客の課題とSDGs上の課題を見据えながら、収益性とSDGs上の効果を両立できるCRE戦略の策定と実行に励んでいます。
今後の建築・設計や不動産について意見を交わす
丹下憲孝氏(右)と原田真治(左)
丹下 価値ある不動産としていくには都市との調和や建築物としてのバリューアップが必要です。これらを本質的な視点で考える企業とのコラボレーションも積極的に行っていくことを考えていますので、ぜひこれからも一緒に取り組んでいきましょう。
原田 こちらこそ、ぜひよろしくお願いします。
本日はありがとうございました。
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全3回に渡って、丹下都市建築設計の都市計画や建築への向き合い方とその具体例を紹介してきました。今後の企業不動産はどう変わっていくのか、何を指針にすれば良いのか、貴社の不動産戦略構築の一助となれば幸いです。
提供:法人営業本部 営業企画部
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