新型コロナの感染拡大によって、不動産市場にもさまざまな影響が出るだろうと言われてきました。実際、多くの企業で在宅勤務・テレワークが導入され、人々のワークスタイルはもちろん、生活様式も変化を余儀なくされています。
このような状況の中、住宅の需要にはどのような影響があったのでしょうか。新型コロナ前後の市場動向について、不動産コンサルタント、さくら事務所創業者・会長の長嶋修さんに聞きました。
ワークスタイルの変化にともない、会社員の多くは社内で過ごす時間が減り、家の中で過ごす時間が増えました。そして、生活様式の変化は、住宅に対するニーズの変化につながるだろう、とメディアなどでも話題になりました。
中でも「出社する頻度が減り、家に居る時間が長くなるので、多少駅から遠くても広い住まいを求めるようになる」「都心部から地方・郊外への流出が進む」という予想は、一見筋が通っているように思えました。しかし、長嶋さんによると、実態は大きく異なると言います。
「新型コロナ以前から郊外志向のあった人の背中を押すような影響はあったかもしれませんが、それが主流にはなっていません。むしろ在宅勤務を通じて通勤時間の無駄を痛感した人たちは、『もっと会社の近くに』という志向が高まったと思われます」(長嶋さん、以下同)
この長嶋さんの見解は、家の中で過ごす時間が増えるために多くの人が「住み心地」を重視するだろうという予想に反して、「移動のストレス」を軽減したいというニーズが根強い、という理解ができます。
「駅近や都心部志向は、なにも通勤時間を短縮したいというニーズだけではありません。住まいの広さより、会社、商業施設、公共機関などへのアクセスの良さ、つまり生活利便性を重視する人が多いのです」
さらに首都圏においては、住宅の価格や取引件数を見ても、新型コロナ以前と比べて落ちていないどころか、逆に伸びていると言います。
「マンションも戸建ても、1回目の緊急事態宣言の際には取引件数、単価とも一時的に下落しましたが、宣言解除とともに急激に持ち直しています(図1)。このような動きから、都心部への需要は引き続き旺盛だと言えるでしょう」
一方で、都市郊外では都心部とはまた異なった動きが見られると言います。
「都心から30~40km圏内、ドアツードアで1時間~1時間30分前後のエリアでは、賃貸から戸建て購入へとシフトする動きが見られました。在宅勤務で家の中で過ごす時間が増え、2DK~3DKの賃貸住宅に住んでいた世帯が、もう少し広いところに住みかえたいと思ったとき、家賃と同程度のローン返済額で、3LDK~4LDKの戸建てが買えるからです」
しかも、都市郊外の3LDK~4LDKであれば、頭金不要のフルローンも可能になるケースが多いということですから、賃貸からマイホーム購入への動きが活発になるのも頷けます。
長嶋さんは、新型コロナ以前から「不動産市場は三極化が進む」という持論を展開してきました。三極化とは、全体を上位15%、下位15%、中間70%に分け、それぞれの層の隔たりが大きくなるというものです(図2)。
「上位の15%は価格を維持、または上昇する可能性もある層で、都心、駅近、または駅から遠くても若年層が定期的に流入するような構造の場所にある不動産です。中間の70%は、駅から遠いか、都心部・都市部から遠い立地の不動産で、ほとんどの不動産がこの層に当たります。この層の不動産は、資産価値の下落を回避するのが難しい上、駅や都市部から遠くなるほど下落率が高くなります。なお、下位15%は取引もできず廃墟化していく不動産です」
都心部・都市部、駅近への根強い需要を鑑みると、新型コロナ以前からあった三極化の動きは「益々加速する」と長嶋さんは言います。
また、2012年11月を起点に、アベノミクス後の首都圏中古マンションの価格推移を見てみると、東京では約1.6倍、神奈川、千葉、埼玉も約1.3倍に伸びています(図3)。東京の価格上昇は都心3区をはじめとする上位15%の層がけん引したと理解できますが、神奈川、千葉、埼玉の伸びはどう解釈すればいいのでしょうか。
「神奈川、千葉、埼玉の伸びは『超低金利』が理由です。『超低金利』は、昨今の不動産市場を語るとき、避けて通れません。2000年代前期~中期の頃、住宅ローンの変動金利は2.4%~2.6%でした。しかし、現在の変動金利は0.5%を切ることも珍しくありません。毎月のローン返済額で考えると、現在の5,000万円~6,000万円の物件は、かつての3,000万円~4,000万円の物件と変わらないのです」
新型コロナにおける住宅市場の動向、そして「超低金利」「三極化」といったキーワードを踏まえて、今後実際に住まいを購入する際には、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
「購入に関して言えば、超低金利に加えて住宅ローン控除などの税制優遇もあり、タイミング的に今がマイホーム購入に悪い環境とは思えません。
もし中古マンションを買うのであれば、管理の状態をしっかりとチェックしておくことをお勧めします。実は、中古マンションの管理状況は価格に反映されていないのが現状です。そのため、同じ価格のマンションでも管理組合がきちんと機能しており、修繕積立金が長期的・継続的に積み立てられているマンションの方が持続可能性も高く、将来にわたって資産価値が落ちにくいのです」
近年、「マンションは管理を買え」という言葉も聞かれますが、今のところ長嶋さんの言うように修繕積立金の額が多いマンションは価格も高い、という構造にはなっていません。マンション選びのチェックポイントとして、押さえておく必要がありそうです。
それでは、土地や戸建ての場合はどのような点を確認すべきでしょうか。
「土地・戸建ての場合は、特に立地に注意してほしいと思います。10~20年後という長期で考えれば、郊外は人口が減ることが確実です。広いエリアに住宅が点在しているような地域では、インフラの維持などにコストがかかり過ぎるため、自治体の運営が困難になるでしょう。そこで駅周辺などの限られたエリアに住宅を集約するコンパクトシティ化が進むと考えられます(図4)。自治体の都市計画や立地適正化計画などをチェックしておくと良いでしょう」
購入の際にポイントとなる点は、そのまま売却するときにも必要な視点と言えそうです。長嶋さんによれば、「都心の場合、売り出し価格と成約価格の差は縮まってきている」と言います。
たしかに図5を見ると、供給側の意向を表す「売り出し価格」と需要と供給の整合点を表す「成約価格」の折れ線はかなり沿っているように見えます。
「この2つの価格が2020年の緊急事態宣言時には一時的にワニの口のように差が広がりかけた時期がありました。ところが、その後またすぐに戻っています(図5)。
現在、都心の不動産価格は株価と連動しており、今は株価が上昇基調なので、不動産の売却価格も上昇する可能性があります(図6)。タイミングとしては、急ぐ必要も待つ必要もありませんが、今売却したいと考えているなら、相場より少し高めの売り出し価格でまずは反応を見る、というスタンスでいいのではないでしょうか」
このように新型コロナによって生じた住宅需要の変化について見てきましたが、その上で長嶋さんは「これまでの話はあくまでも市場としての話で、住宅の売買は合理性では割り切れないところも多々ある」と言います。
「『不動産はご縁もの』と言われるように、最終的には物件の個性や個別の売買理由による、ということを忘れないでほしいと思います」
日々、不動産業界でさまざまな会社やメディア、顧客と接している長嶋さんの分析とアドバイス、いかがでしたか。これからの日本の将来の姿も見据えた視点、ぜひ今後の購入・売却に活かしたいですね。
野村の仲介+(PLUS)では、新型コロナの影響含めた市場の動向をふまえながら、各エリア・物件の特性に応じた提案を行っています。買主様・売主様のご状況やご事情にあわせた購入・売却をサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
不動産コンサルタント。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。2008年、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会設立、理事長に就任。2018年、一般社団法人地域微動探査協会 理事に就任。様々な活動を通して『中立な不動産コンサルタント』としての地位を確立。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。新著に『災害に強い住宅選び』(日経BP社)他、著書・メディア出演多数。
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