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#マンション市場動向

2021.01.19

2021年マンション市場はどうなる?

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2020年は、世界中が新型コロナに翻弄され、日本経済も大きなダメージを被った。しかし、そのような状況にあって、首都圏のマンション市場は4~5月の緊急事態宣言下を除けば、新築、中古とも堅調に推移したと言えるだろう。

ただ、年が明けて1都3県では再び緊急事態宣言が発出されたこともあり、経済へのダメージが長期化すればこの先はわからない。世界的な流行り病という大きな不確定要素があるだけに、2021年のマンション市場動向を予測するのは極めて困難なわけだが、今わかっている情報からできる限りの市場予測を試みたい。

新築マンション供給戸数は2019年並みに回復、との市場予測も

まず図1をご覧いただきたい。昨年12月に不動産経済研究所が発表した「首都圏・近畿圏マンション市場予測」によれば、2021年の新築マンション供給は、首都圏3.2万戸・近畿圏1.9万戸と、いずれも2019年並みに回復すると予測されている。

図1)2019~2021年・新築マンション供給戸数の実績と予測値

ただ、新型コロナ禍以降、いわゆる「8割経済」という言葉が生まれたように、経済活動が新型コロナ以前の水準(つまり2019年並み)に戻るのは、かなりハードルが高いと思われる。だとすれば、2019年並みという供給予測は、ちょっとしたネガティブ要因でも、容易に下振れする可能性があるのではないだろうか。

ちなみに、同研究所が発表している供給予測と供給実績を過去10年分見比べみると、9回が下振れしていて、上振れしたのは2013年のみだった。2013年といえば、アベノミクスの大規模金融緩和によって大幅な円安が進み、外国人による東京のマンション購入が活発化した年である。国内にはもともとなかった外国人のマンション需要が一気に流れ込んできて、売れ行きが急回復したことが供給戸数上振れの要因のひとつと言えるだろう。

新型コロナ禍が長引けば、供給戸数は下振れする可能性も

しかし、マンション市場にポジティブサプライズがあった2013年以外は、供給実績が予測から千戸から数千戸の幅で下振れしているのが現実だ。このことは、新築マンションの供給戸数が販売の進捗次第で当初の計画からブレやすいことを示している。

特にこの10年を振り返れば、リーマンショックや東日本大震災といった経済の低迷が長引く事態が発生したことや、その後マンション価格が大幅上昇したことなど、売れ行き鈍化につながる要因が多かった。その必然として、デベロッパー各社は当初の販売計画を期中に縮小せざるを得ない場面が少なくなかったはずだ。その結果、供給実績が期初の予測から下振れする年が多くなったと推測される。

翻って2021年のマンション市場は、新型コロナ禍が収束していない年初の時点では、やはりネガティブな状況と言わざるを得ない。したがって2021年首都圏では、不動産経済研究所の供給予測である3.2万戸を上限として、新型コロナ禍がさらに長期化すれば、2020年同様、3万戸割れもありうると筆者は見ている。

マンション価格は下がる要因が見当たらない

一方で、マンション価格は高値を維持する可能性が高いと考える。というのは、現在はリーマンショック当時と比べて、マンション価格が下落しにくい市場構造になっているからだ(詳しくは「マンション市場の大転換を紐解く【前編】~マンションの高値が続く本当の理由」「【後編】~マンション買うなら『中古が普通』の時代がくる!?」を参照)。

実際に、リーマン級あるいはそれ以上の経済ショックと言われる新型コロナ禍にあっても、マンション価格は高値安定で推移したことで、現在の市場構造が経済ショックに強い耐性をもっていることが図らずも証明されたといえる。

もちろん、昨年の新型コロナ禍をさらに上回るような経済ショックが発生して、マンション購入検討者の大多数が検討を取りやめるような事態にでもなれば、何らかの影響が出る可能性は否定できない。しかし、いまだに人口が増え続けている首都圏で、そこまでマンション需要が急減する事態は考えにくい。

たとえ何らかの経済ショックが発生してマンションを購入する人が多少減ったとしても、その分供給戸数を減らすことで、現在の価格水準で売り切れる程度のマイナス影響であれば、おそらく新築価格は下がらないだろう。実際に2020年は首都圏で前年の約3.1万戸から約2.4万戸まで7,000戸近く供給戸数を減らしたことで、高値が維持されたまま新型コロナショックを凌いだのだから。

新築戸数の減少で中古市場に需要が向かい、中古価格が底堅く

また、ここ数年の新築の高値安定&戸数減から、首都圏ではすでに2019年時点で、中古市場のシェアが新築市場を明確に逆転し(新築発売戸数31,239戸、中古成約件数38,109戸)、2020年は1~11月の実績からその差がさらに広がるのは確実だ(図2)。

図2)首都圏新築マンション発売(供給)戸数と中古マンション成約戸数の推移
※新築:不動産経済研究所調べ、中古:(公財)東日本不動産流通機構調べ

数年前と比べれば新築戸数が大幅に減っており、その分、マンション購入需要の多くが中古に向かえば、中古価格が下支えされるため、これもマンション価格の底堅さにつながる要因となる。

ここまでをまとめると、過去からのトレンドや新型コロナ禍を経てのマーケット状況などを踏まえた、筆者の2021年のマンション市場予測は以下のようになる。

マンション価格については、新型コロナ禍を上回るほどの「想定外の何か」が起こらない限り、価格水準が下がる要因が今のところ見当たらず、高値水準が継続するのではないだろうか。また、戸数については、新築供給戸数の低位安定(最大でも2019年並み)と中古市場の拡大が同時並行で進むと見ている。

首都圏では中古6割、新築4割の市場シェアに

図3は、首都圏の新築発売(供給)戸数と中古成約件数の比率をグラフ化したものだ。2020年(仮:1-11月の実績+12月の予測)の首都圏マンション市場は、新築が4割、中古が6割というシェアで、前年から差が広がっている。これは新型コロナ禍にあって、新築が大幅に供給戸数を減らしたのに対し、中古成約件数は、新築ほど減らなかったことを示している。

2021年は、新型コロナ禍の経済影響が長引けば、この差がさらに広がることもありうるし、日本経済が比較的平穏に進んで新築供給戸数が予測通り3.2万戸水準に急回復したとしても、中古成約件数を再逆転することはないだろう。つまり2021年は、首都圏マンション市場では中古検討が多数派という状態が2019年から3年続くことになるわけだ。

3年も経てばマンション購入検討層の大部分が入れ替わっているだろうから、初めて購入検討する人の多くが「中古で買うのが普通」という認識になっても何ら不思議ではない。あくまで私見にすぎないが、2021年は、首都圏においては人々のいわゆる「新築信仰」からの転換が色濃くなる1年になるかもしれない。

図3)首都圏・新築発売(供給)戸数と中古成約件数の比率
※新築発売戸数(不動産経済研究所調べ)と中古成約件数((公財)東日本不動産流通機構調べ)から筆者がグラフを作成。「2020年仮」:新築は1-11月実績に12月予測値を加えた戸数(不動産経済研究所発表値)、中古は1-11月の実績に4-5月を除く1-11月の月平均戸数を加えた戸数をもとに筆者が試算

令和3年度税制に注目すべき改正が

最後に、2021年のマンション市場に変化をもたらすかもしれないという意味で、筆者が注目しているポイントをふたつ紹介したい。ひとつは、住宅ローン控除や住宅取得資金贈与の特例における対象住宅の拡充だ。

各制度とも令和3年度の税制改正でそれぞれ適用期限が延長される予定だが、今回の改正では制度の対象となる住宅の床面積が、従来の「50m2以上」から「40m2以上」に拡充されるのだ。この面積要件緩和は、消費税10%が適用される住宅が対象のため、新築(未使用)住宅と売主が事業者の中古住宅(消費税がかからない個人売主の場合は対象外)等、に適用される。

この改正によって、従来は減税の恩恵を受けられなかった40 m2台のコンパクトな住戸でも減税を受けられるようになり、親や祖父母からの資金援助も得やすくなる。40 m2台といえば、1~2人暮らしの需要がメインであり、これまでそうした世帯層では、ファミリー世帯と比べて賃貸住宅を選択する人の割合が高かったと推測される。したがって、今回の改正で新たに減税を受けられるようになる住宅未取得層が相当数増えると考えられる。

となれば必然、40 m2台のマンションの人気が相対的に高まることが予測される。マンション価格の高止まりが続くなかで、コンパクトな住戸は購入検討者にとっては相対的に手が届きやすい価格帯の商品となることも、人気に拍車をかける要因となりうる。面積要件緩和の主な対象となる新築マンションにおいては、制度の期限に間に合うよう工事期間が短くすむ小規模物件で40m2台の供給が増える可能性がある。

図4)令和3年度住宅取得関連税制の主な改正点

現行住宅ローン控除が使えるのは今年中?令和4年以降は制度縮小か

もうひとつは、令和3年度与党税制改正大綱のなかで、令和4年度に住宅ローン控除制度の仕組みそのものの見直しへの言及があったことだ。具体的には、現在は年末ローン残高の1%が所得税から控除される仕組みだが、近年は住宅ローン金利が控除率の1%より低いケースが多く、支払利息以上に税還付されていることを問題視している内容だ。

大綱に具体案は明記されていないが、令和4年度税制改正で見直すとされており、住宅ローン控除による税還付を縮小する伏線が張られたと見ることができる。まだ確定していないが、現行制度を確実に使える令和3年中に入居できる住宅と、入居可能時期が令和4年以降になる住宅とでは、住宅ローン控除の恩恵に格差が生じる可能性がある。このことも、物件の人気に影響を及ぼす要素となるだろう。

山下伸介(やました・しんすけ)

山下伸介(やました・しんすけ)

住宅ライター
1990年、京都大学工学部卒業、株式会社リクルート入社。2005年より住宅情報誌「スーモ新築マンション」「都心に住むbySUUMO」等の編集長を10年以上にわたり務め、2016年に独立。現在は住宅関連テーマの企画・執筆、セミナー講師などを中心に活動。財団法人住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー」運営委員も務めた(2005年~2014年)。株式会社コトバリュー代表

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