洗濯物を畳んだり、アイロンがけをしたり、ある時は裁縫など、家事は日々の円滑な暮らしのために必要な作業ですが、残念ながらそのためのスペースがない間取りが多いのが現状です。毎日の作業だからこそ、効率よく、気持ちよく行いたいものです。
そのためには、例えば水回りの片隅にカウンターがあるだけで家事が進んだり、また多目的に使える部屋がひとつあれば家事スペースとして活用することもでるでしょう。専有面積にゆとりがある住戸では最初からユーティリティスペースを設けている間取りもあります。
【図1】は、専有面積70m2台、3LDKの間取りです。住戸の中心にキッチン、洗面所、浴室などの水回りが集まっているため家事動線が短く、効率的に家事ができそうです。このような水回りの配置はコンパクトなマンションでよくみられますが、キッチンの一部に家事を行うためのカウンターがあるため、さらに家事をしやすく、時短に繋がる点が特徴となっています。
キッチンは調理や食器の片付けなどで長い時間を過ごす場所です。その空間に作業カウンターがあれば、調理と同時並行でさまざまな家事をすることができます。例えば、グツグツと煮物をしながらカウンターに置いたパソコンでサイドメニューを検索したり、ちょっとした繕いものなどを済ませたり。洗面所にあるリネン庫にタオルやハンカチ、家族のパジャマ、下着などを収納する場合は、近くにあるこのカウンターで洗濯物の仕分けをしても良いでしょう。
【図2】は専有面積80m2台、3LDK+ウォークインクロゼットの間取りです。こちらもマンション住戸ではポピュラーな間取りで、バルコニーに面して横長のリビング・ダイニングが設けられ、その奥に約5.5帖の和室があります。
最近の都市部の新築マンションでは和室のある間取りは珍しくなりましたが、中古マンションではよく見られます。この位置にある和室はオープンな空間になっているため予備室的な役割に向きますが、「家事スペースとして活用する」という視点でみるととてもよい位置にあります。
この和室はキッチンや洗面所に近く、家事動線に無駄がありません。バルコニーに干した洗濯物を取り込んだら和室へ運び、畳に座りながらゆったりと洗濯物を畳む・仕分けなどの作業をすることができます。もし小さな子どもがいる家庭なら、子どもを畳に寝かせながら、または遊ばせながら横でそれらの作業をすることができます。約5.5帖と十分な広さがあるため、大きなもののアイロンがけや、道具や布を広げてミシン掛けなどの作業もしやすいでしょう。
また、家事をしながらリビングダイニングの様子を見渡せるため、家族とコミュニケーションを取りながら作業をすることができます。一方で引き戸を閉めると独立した個室になり、リビング・ダイニングから見えなくなるため、家事が途中で終わってしまったり急な来客があっても片づけることなくそのまま置いておける、という点も大変便利です。
【図3】は専有面積90m2台、1LDK+DEN+ウォークインクロゼットがある間取りです。リビングの一角、バルコニー近くの明るく快適な位置に家事ができるカウンターを設けています。
日当たりや通風がよいリビング・ダイニングの一角にある「多目的カウンター」は、「仕事も家事もここでできる」ように設けられたものです。キッチンと隣り合っていること、またバルコニーからの出入りもしやすく、調理や洗濯など、さまざまな家事がしやすいスペースです。
近年では夫婦共働きも増え「家事はやれるほうがやる」という家庭も多いと思います。家族が顔を合わせるリビングに家事スペースを設けることで作業の進捗状況がわかりやすく、シェアもしやすくなるでしょう。
アイランドキッチンがある開放的なリビング・ダイニングとなっており、お客様を招くのが好きな家庭に向く間取りで多目的カウンターはパーティを開催する際にはサイドテーブルとしても活躍してくれそうです。
【図4】は専有面積100m2代、3LDK+ユーティリティの間取りです。「ユーティリティ」とは、洗濯機や乾燥機があり、アイロンがけなどの作業ができる設備をまとめて設置したスペースのことです。
北側のサービスバルコニーに面して家事室(ユーティリティ)が設けられ、洗濯機と乾燥機置き場(上下二段)、アイロンがけができるカウンターがあること、天井にはハンガーパイプがあり洗濯物を干すことも可能となっています。また、物入もあるため、洗濯→乾燥→畳む→しまう、という一連の作業をこのスペースで済ませることができます。
東京都が実施した平成28年度(2016年度)「花粉症患者実態調査報告書」によると、都内のスギ花粉症推定有病率は都全体で48.8%となっており、年々増加するとともに低年齢化が進んでいるそうです(※)。花粉症でメジャーな杉やヒノキは2~4月に最も飛散量が増えますが、イネ科やブタクサなども含めるとほぼ通年にわたり花粉が飛びます。また、地域によっては梅雨の時期が長かったり冬に洗濯物が乾きにくく、近年では大陸からやってくるPM2.5や黄砂もアレルギーを引きおこしたり洗濯物を汚すなどの懸念が話題になっています。
ひとり暮らしのため防犯上、外干しはしない、また夫婦共働きで洗濯機は夜にかけて部屋干しをする、というライフスタイルの人もいるでしょう。以上のように、1年を通して部屋干しをしたいというニーズが増えていることも近年の特徴です。部屋干しは天候や時間に左右されず、干す・取り込むという作業ができる点もメリットです。
※出典:東京都健康安全研究センター平成28年度(2016年度)「花粉症患者実態調査報告書」
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_kankyo/kafun/jittai/
・マンションでは一戸建てより専有面積がコンパクトな傾向があり、専用の家事スペースを設けた間取りはポピュラーではありません。しかし、水回りの近くにカウンターと椅子があるだけでもさまざまな家事がしやすくなるでしょう。
・和室は多用途に使えるとても便利な空間です。お客様が泊まる予備室としてだけでなく日常的に家事を行うスペースとして有効活用しましょう。
・リビングの一角など、家族から見えやすくアクセスしやすい位置に家事スペースを兼ねる多目的カウンターを設けることで、家族みんなで家事をシェアしやすくなるでしょう。
・近年はさまざまな理由で洗濯物の部屋干しのニーズが高まっています。洗濯機、乾燥機、室内干しのスペース、アイロンがけができるカウンターなどを確保したユーティリティを設けると洗濯関連の作業をまとめて済ませることがでるでしょう。
家庭にあった家事の進め方を確認し、毎日の家事を楽しく少しでもラクにできるような間取りになっているかどうか、または家事カウンターを後付けできるようなスペースがあるかどうかなどをぜひチェックしてみてください。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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