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#マンション市場動向

2019.08.06

実は高くない、東京のマンションの値上がり率

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ここ数年、東京都心部のマンション価格が高額化していることは周知の事実だ。しかし、東京のマンション価格や賃料を世界の諸都市と比べると、実は値上がり率は決して高くないという興味深い調査結果が出ている。

不動産価格に海外投資家が与える影響を無視できない時代だけに、世界を俯瞰したなかで東京の不動産がどのようなポジションにあるかを知ることは、これから東京でマンション購入を検討する人にとってプラスになるはずだ。

世界諸都市と比べて、価格も賃料も上昇率が低い東京

図1は、一般財団法人日本不動産研究所が半年に一度調査している国際不動産価格賃料指数の最新データである。世界の主要都市のマンション価格と賃料を、それぞれ2010年10月時点を100として指数化したものだ。

図1)各都市のマンション価格指数・賃料指数(2010年10月=100とした時の2014年4月~2019年4月の推移)
出典:一般財団法人 日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数

グラフを見ると、直近2019年4月の東京のマンション価格指数は115.5であり、先進国の都市ではニューヨーク(143.2)やロンドン(153.9)と比べると、価格上昇率がかなり低水準だとわかる。グラフを一部割愛するが、新興国の都市では、北京(219.0)、上海(177.2)、香港(168.0)、バンコク(132.3)、ジャカルタ(176.4)、クアラルンプール(136.9)など、やはり東京以上の価格上昇率を示している都市が目立つ。調査対象の都市で東京と上昇率が近いのは、ソウル(113.0)、台北(114.8)、シンガポール(109.9)、ホーチミン(92.1)などだ。

今年4月時点の東京のマンション価格指数が115.5ということは、指数が100の2010年10月時点から15.5%程度上昇していることになる。都内で個別のエリアを見るとそれ以上に上昇しているケースも少なくないので、15.5%という数字は実感値より低く感じる人もいるだろう。

だが、このデータは同研究所が世界の各都市のマンションを類似条件でサンプリングして鑑定評価した、都市間を比較することに主眼をおいた指数である。東京のマンションの値上がり率はもっと高いのでは、という見方もあるだろうが、それを言うなら他の都市も同じであり、あくまで国際都市間比較の指数ととらえていただきたい。

近年の価格上昇は、2000年代のミニバブルとは要因が違う

相対的に見れば、東京のマンション価格上昇率が、世界の諸都市と比べて低い方に分類されるのは紛れもない事実だ。その大きな理由として、各都市の不動産市場がグローバルに移動する投資マネーから受けている影響の差異が考えられる。

先進国の都市であるニューヨークやロンドンはもちろんのこと、多くの新興国でも巨額の投資マネーが不動産市場に投資されてきたことが大幅な価格上昇の背景にある。東京にももちろん海外からの投資マネーは入ってきているが、東京のマンション市場は国内実需の割合が高く、現状は投資マネーの影響が相対的に小さいことが、価格上昇率が低くくなっている一因と考えられる。

グローバルに投資されるマネーは、当然、世界の経済状況の影響を受ける。実際に2006年~2008年頃に発生した東京の不動産ミニバブルでは、当時アメリカの住宅バブルを背景とした外資マネーの影響が多分にあり、リーマンショックの発生によって外資が一斉に投資資金を引き上げたことが、ミニバブルがはじける一因となった。

だが、ここ数年の東京のマンション価格上昇の要因は、外資マネーよりも国内の実需を背景とした地価や建築費の上昇にある。したがって、今後、仮に世界経済が変調をきたしたとしても、国内経済が極度に落ち込まない限り、ミニバブル崩壊時ほどの急激な価格下落は起こりにくいはずだ。

海外投資家にとって投資先は世界のどの都市でもよい

とはいえ、東京のマンション市場も外資の影響が皆無というわけではない。近年の価格上昇は2013年ごろから始まっているが、その背景には東京五輪の開催が決定して国内の不動産、建設需要が上向いたことに加えて、アベノミクス初期の大規模金融緩和で1ドル=90円台から120円台に一気に円安が進んだことがある。五輪開催による不動産価格の上昇期待と円安による割安感が出たことで、主に中国、台湾などの外国人投資家が一斉に東京のマンションを買いに走ったのだ。

彼らの旺盛な需要が国内需要に上乗せされる形で価格上昇を後押しする一因にもなった。当時、話題のタワーマンションなどでは、総戸数の1~2割が外国人による購入と関係者から聞いた物件もあったほどだ。

そして彼らが、東京五輪を目前に値上がり益を確定すべく東京に購入したマンションを一斉に売り出すことで、価格相場が下落することが巷(ちまた)で危惧されているわけだ。

しかし、少し冷静になって考えてみよう。そもそも海外投資家にとって投資先は世界のどの都市でもよいはずだ。2013年当時の状況を踏まえると、五輪開催が決まったとはいえ、図1の通り東京の不動産価格の上昇トレンドは緩やかで、東京より値上がり期待値が高い都市は他にいくらでもあったわけだ。円安による割安感は初期投資額を小さくできる点で投資のきっかけになっただろうが、一般に為替変動は海外投資ではリスク要素であり、為替差益を主眼に東京のマンションを買った投資家はほとんどいないだろう。

では当時、こぞって東京のマンションを買った外国人の投資目的は何なのか。

賃料収益(インカムゲイン)に優位性がある東京

図2をご覧いただきたい。これは前述と同じ調査のなかで、各都市のハイエンドクラスのマンションの価格水準と賃料水準を、それぞれ東京=100として比較したデータである。調査対象都市のなかで東京は価格水準では上から8番目、賃料水準では5番目に位置することがわかる。ここから言えるのは、東京のマンションは世界諸都市と比べると、どちらかといえば値上がり益(キャピタルゲイン)よりも賃料収益(インカムゲイン)を安定的に得やすい特徴があるということだ。

図2)マンション/高級住宅(ハイエンドクラス)の価格水準(上)・賃料水準(下)
出典:一般財団法人 日本不動産研究所 国際不動産価格賃料指数

ここから推測すると、東京のマンションに投資している海外投資家には、五輪開催までの短期保有によるキャピタルゲイン目的派がいる一方で、継続保有によるインカムゲイン目的派も一定割合存在して不思議ではない。

一斉に売りが出て相場が崩れれば損をするのは投資家自身でもある。したがって、ある程度、外国人投資家による売りは出るだろうが、東京のマンション相場が暴落するほどの一斉売りまでは発生しにくいはずだ。ただ、外国人投資家による売りによって、価格相場が一定程度、変動する可能性はあり、とりわけ中古マンションの購入を検討するならば、当面は物件情報をこまめにチェックしたほうがいいだろう。

「円高」になると海外投資家の売りが加速する可能性

また注意したいのは、為替レートの変動である。というのは、今後、何らかの理由で大幅に円高が進むような局面がくると、円安期に東京のマンションを購入した海外投資家にとっては為替差益が拡大するため、継続保有の海外投資家にとっても投資の手じまいタイミングとなりうるからだ。したがって、海外投資家の動向によるマンション市場の変化をいち早く察知するために、為替動向をウォッチし続けることが、マンション購入を検討する人にとって重要になる。

では、円高になる局面としてどのような事態を想定すればよいだろうか。日本は国内では財政危機が叫ばれているが、先にIMFがレポートした通り、政府の負債と資産のバランスで言えば日本の財政は実は極めて健全であり、現実に円は世界的に安全な通貨と認識されている。このため、世界経済にネガティブなニュースがあると円が買われ、円高になりやすい。また、アベノミクス以前がそうだったように、デフレ傾向が強まると円高要因となる。さらに、アメリカが利下げに転じて円との金利差が縮小するとドルが売られて円高が進む可能性もある。

これらの観点から言えば、アメリカ経済だけでなく世界経済に多大な影響を与えかねない米中対立の行方が、目下の最大の関心事に違いない。また、直近では10月に予定される消費税増税によるデフレ圧力がどの程度なのか、金利や為替に影響を与える日銀の金融緩和政策が変化しないか、といった点も注視すべきポイントとなるだろう。

山下伸介(やました・しんすけ)

山下伸介(やました・しんすけ)

住宅ライター
1990年、京都大学工学部卒業、株式会社リクルート入社。2005年より住宅情報誌「スーモ新築マンション」「都心に住むbySUUMO」等の編集長を10年以上にわたり務め、2016年に独立。現在は住宅関連テーマの企画・執筆、セミナー講師などを中心に活動。財団法人住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー」運営委員も務めた(2005年~2014年)。株式会社コトバリュー代表

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