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#マンション市場動向

2020.05.14

新型コロナショックでマンション市場はどうなる?<後編>

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新型コロナ禍によるマンション市場への影響を探るため、前編では、経済ショックの規模の大きさからよく比較される「リーマンショック」がマンション市場に与えた影響を振り返った。

今回は2つの経済ショックの共通点や相違点に着目しながら、新型コロナショックがマンション市場に与える影響についてさらに考察していく。

全ての産業、人に影響が及ぶ新型コロナショック

新型コロナ禍はいまだ収束の目途が立っておらず、最終的な経済ショックの規模を推定することは現段階では不可能だ。したがって、リーマンショックと新型コロナショックを主に定性的な視点から比較してくことにする。

リーマンショックと新型コロナショックとでは、いずれも株価が世界的に暴落したことが共通点として挙げられるが、それ以外には事象の中身も影響範囲もまったく異なる。まず、影響を受ける産業、人の範囲がまるで違う。リーマンショックは、あくまでアメリカ発の金融危機であり、日本国内では金融業や不動産業、製造業(主に輸出産業)などで影響受けた企業は多かったが、サービス業など影響が軽微だった産業もあった。そうした産業がリーマンショック後の日本経済を下支えした側面があるわけだ。

しかし、新型コロナ禍では、業種を問わずほぼ全ての産業、人が感染危機にさらされ、政府や自治体による外出・出勤の自粛や休業の要請により、あらゆる経済活動が停滞または休止してしまっている。まさに国内の実体経済を直撃しているのだ。現時点では、中小・小規模事業者やフリーランス、時間給労働者などが休業や仕事を失うことによって、所得が大幅に減少することを懸念する声が大きいが、おそらく事態はそれに留まらないだろう。

このまま経済活動の停滞が続けば、今後、あらゆる産業で企業業績の大幅な悪化が顕在化してくる。となれば、比較的安定した収入が得られる大企業の従業員でも、賞与カットや賃上げ凍結等によって所得が減少する人やリストラされる人が大勢出てくることが予想される。

安定した収入を見込める大企業に勤める人は、相対的に都市部のマンション購入者に多い層であり、それゆえ、彼らの所得が減るとマンション需要の急減につながりやすいのだ。これはリーマンショック時にも起きた現象だが、新型コロナ禍では、それがより広範囲な業界で発生するリスクが大きいわけだ。

消費増税による経済失速とのダブルパンチ

次に筆者が懸念しているのは、今回の新型コロナショックが、昨年10月の消費税増税によって、すでに景気失速していたところに追い討ちをかけるように発生したことだ。

前編でも紹介した表1をご覧いただきたい。リーマンショック当時、それ以前からアメリカではすでにサブプライムローン危機が叫ばれていた影響で、実は日本でも景気悪化が始まっていた。実質GDP前期比はリーマンショック直前の2008年4-6月期に、すでに-1.5%(年率換算)とマイナス成長だったのだ。そして、ショックが発生した後、約半年にわたりマイナス幅は最大で-17.8%(同)まで拡大していった。

翻って、新型コロナ禍発生直前の2019年10-12月期を見ると、消費税増税の影響ですでに日本経済は-7.1%(年率換算)という大幅なマイナス成長に陥っていたことがわかる。そこに新型コロナ禍が重なって、日本経済はダブルパンチを見舞われた状況なのだ。リーマンショック時より平時の経済が弱っていたことを踏まえると、この先GDPはリーマンショック後以上に落ち込む危険性が高いわけだ。

1-3月期以降のGDP速報値は本稿執筆時点(2020年4月)でまだ発表されていないが、外出や休業の自粛などが本格化した3月以降の消費や生産の落ち込みを考えると、引き続き大幅なマイナス成長となる可能性は高い。さらに、4-6月期以降は緊急事態宣言が出されて経済活動がより縮小していることから、マイナス成長が一段と深刻化することになるだろう。

前回から繰り返しになるが、GDPは国内の所得の合計でもあるため、GDPがマイナス成長することは、国内企業や国民の所得が減ることを意味する。このままGDPが大幅に減少すれば、マンションを買いたくても購入に必要な所得を失ってしまう人が多発し、マンション需要に大きな影を落とすことになりかねない。

株価暴落が高額不動産の売れ行き鈍化につながる

新型コロナ禍がマンション市場に影響を与える可能性について、着目すべき点はまだある。それは、訪日外国人の大幅減少によるホテル需要減と、今回の危機をきっかけにリモートワークが浸透するとオフィス需要が減る可能性があることだ。

ホテルもオフィスも、都市部の利便性の高い立地に建設されやすく、マンション用地と競合する場合も多い。今後、オフィスやホテルの用地需要が減って、入札によるマンションデベロッパーの用地取得コストが下がれば、価格下落につながるかもしれない。ただし、これらは中期的な話ではある。

また、現在はいわゆる「億ション」比率が高いマーケット構造になっていることも大きな特徴だ。2019年の「億ション」比率は約6.0%と、2010年以降で最大。億ションは、主に高額所得者や資産家層などが購入検討する対象となるが、株価が暴落して彼らの資産が目減りしたことで、不動産に資金が向かいにくくなる面がある。今後、株価の回復に時間がかかると、高額不動産の売れ行き鈍化が続き、それが価格下落のきっかけとなる可能性もある。

新築マンションはリーマン当時より値下がりしにくい構造に

ここまで新型コロナ禍によって価格下落につながりそうな要因を考察してきたが、実は現在の新築マンション市場は、リーマンショック当時より価格が下落しにくい構造になっていることに留意しておきたい。

リーマンショック当時は2008年の約4.4万戸から翌2009年に約3.6万戸まで8000戸も減少した。これは見方を変えれば、本来4万戸以上計画されていた供給が需要急減によって売れなくなり、一部値下げをしても結果的に約3.6万戸しか販売できなかった、と言うこともできる。

その点、直近の2019年は約3.1万戸と、供給戸数が大幅に減った2009年よりさらに5000戸以上も少ない。マンション需要は、例年一定数が自然発生するものであり、もともとの供給戸数が少なければ多少の需要減があっても、需給バランスが崩れにくいと考えられるのだ。

価格上昇期に溜まった「隠れ需要」の戻りが発生?

また、昨今の供給戸数の減少は、価格上昇の裏返しであり、本来であれば新築マンションを買いたいが、予算的に購入を見送った人が大勢いた結果とも言える。したがって、新型コロナ禍によって、需給バランスが崩れていったん価格が下落すると、購入を見送っていた人の需要が復活する可能性がある。

実はリーマンショック当時も直前までのミニバブルによって価格が上昇していて、購入を見送った人の需要が溜まっていた側面があった(図表4の(1))。リーマンショックで需要が急減し、価格が下落すると(図表4の(2))溜まっていた需要が市場に戻り(図表4の(3))、平均価格は2010年にはリーマンショック前の水準に急回復したのだ。ちなみに日経平均株価がリーマンショック前の水準に回復したのは2013年3月であり、マンション価格の回復は思いのほか早かったのだ。

近年は、価格上昇が数年間という長期に続いてきことから、購入を見送っていた隠れ需要が溜まりに溜まっていると考えられる。したがって、新型コロナ禍で価格が下落する局面があると、大きな需要戻りが発生する可能性がある。そうなると、価格は下げ止まり、案外早く元の水準に戻ることもありうるのだ。もちろんそれは、購入を見送っていた人々の所得が大きくは棄損されていないことが前提となるわけだが。

新型コロナ禍がマンション市場に及ぼす影響を、前後編2回にわたって考察してきたが、実際の影響の程度は、新型コロナ禍がいつ収束するか次第で大きく違ってくるだろう。経済活動の停滞が長引くほど影響は拡大し、それこそリーマンショック後との比較が意味をなさないほど甚大な経済危機となる可能性もあるのだ。

新型コロナ禍はリーマンショックと異なり、民間に経済を支える「元気な産業が存在しない」事態だけに、政府による公的施策の重要度がきわめて高いのは間違いない。一度、経済が落ち込むと回復に時間がかかるのは歴史を見れば明らかであり、当面の緊急経済対策だけでなく、引き続き切れ目ない政府の施策に期待したいところだ。とにもかくにも、新型コロナ禍の一刻も早い収束を願うばかりである。

山下伸介(やました・しんすけ)

山下伸介(やました・しんすけ)

住宅ライター
1990年、京都大学工学部卒業、株式会社リクルート入社。2005年より住宅情報誌「スーモ新築マンション」「都心に住むbySUUMO」等の編集長を10年以上にわたり務め、2016年に独立。現在は住宅関連テーマの企画・執筆、セミナー講師などを中心に活動。財団法人住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー」運営委員も務めた(2005年~2014年)。株式会社コトバリュー代表

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