不動産投資コラム

代表取締役を退任したものの、取締役として残る場合の役員退職金の取扱い

1. はじめに

代表取締役の退任は事業承継の象徴的イベントです。その際に退職金を支給する場合、法人税法は、不相当に高額な部分を除き損金の額に算入すると定めています(同法34条1項2項)。しかし、それ以前に、その役員の'退職の事実'がなければ、役員退職金と称する金銭が支給されても、いわゆる賞与(非・定期同額給与)とされ、損金算入はできません。

'退職の事実'に関しては、代表取締役を退任した者が、その後に取締役や監査役に留まらずに完全に会社から去る場合は問題ありませんが、例えば、取締役のまま分掌変更がされ、非常勤の取締役になるなどして大きく職務内容が変わった際に、代表取締役であった間を対象とした退職金を支給した場合、'退職の事実'があったとみてよいか?という問題が生じます。

そのような場合につき、その役員の地位や職務の内容が激変して実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは、その退職金は税務上も(いわゆる賞与ではなく)退職給与として扱うことが相当だと考えられるので、同法基本通達9-2-32は、そう認められる場合の例を示し、そう扱うことを認めています。

2. 同通達9-2-32の概要

表題の通達の要旨は次の通りです。

「法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与(未払のものはダメです) については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。

(1)常勤役員が非常勤役員になったこと。ただし、常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者は除く。

(2)取締役が監査役になったこと。ただし、監査役でも、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及び使用人兼務役員とされない者(同法施行令第71条第1項第5号に該当する者)は除く。

(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと」

3. 前代表者が新代表者の育成のため取締役として残る場合の注意点

代表取締役を退任した者(前代表者)が、その後継の代表取締役(新代表者)による対内的・対外的な業務に支障が生じないよう、当分の間、(平)取締役として会社に残り、その新代表者に指導や助言を行い、新代表者の経営全般に対する知識や経験の不足を補っていこうという例は珍しいことではないと思います。


実際の類似のケースで、前代表者の退任(代表権のない取締役相談役に就任)時に退職金を支払ったことにつき、前代表者が「実質的に退職したと同様の事情にある」といえるかが争われた事件(訴訟)があります。その事件の判決から、表題の注意点が見いだせます。


この事件では、前代表者は、その退任した後も、常勤の取締役相談役として毎日出社し、退任前と同じ席で執務しており、新代表者(営業部長から昇任)の席はその隣に設けられ、両者が共同して法人の経営に当たる環境が整えられていました。


新代表者は、法人の営業以外の事柄について前代表者から指導を受けつつ、様々な事柄を前代表者に相談し、人事や設備投資の当否についても助言を求め、その助言に従って業務を実施していました。


裁判所は、このような事情を認定し、新代表者が、営業以外の業務や組織管理等の経営全般につていて知識・経験を十分に積んで、代表取締役として独り立ちできるようになるまで、引き続き前代表者は取締役相談役としてその法人の経営判断に大きく関与していたと認められると判断しました。


前代表者の月額報酬が退任前の205万円から70万円に激減していて、法人は、これは前代表者の地位や職務権限・責任に激変があったことを示し、上記通達の(3)の50%以上の減少の基準を満たすと主張しました。


しかし、新代表者の月額報酬85万円とさほど差がなく、前代表者は、経営上主要な地位を有していたという認定には影響しない旨判示し、「実質的に退職したと同様の事情にある」とは認められないとしました。


代表取締役を退任し平取締役になればいいとか、給与を半額(以下)にすればいい、といった形式的なことだけで、退職金を支給してもその損金算入は認められません。

税理士法人タクトコンサルティング

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