【問】 Bさんは、平成29年5月に亡父より乙社(非上場)株式3,000株を相続し、その際に相続税の納税が見込まれることから、納税資金の捻出のため平成30年1月に同株式3,000株を発行会社である乙社に譲渡しました。 Bさんは、この乙社株式の譲渡に係る所得税等の負担を抑えるため、譲渡所得の金額の計算上、租税特別措置法(措法)9条の7の「みなし配当課税の不適用の特例」(以下「本特例」)の適用を受けるつもりです。ただ、Bさんは平成24年12月に亡母からすでに乙社株式3,000株の贈与を受けており、今回の譲渡が亡母から贈与を受けた株式の譲渡とされて、本特例の適用が受けられないのではないかと心配しています。 Bさんのように相続等により非上場株式を取得した個人が、相続前よりその株式と同一銘柄の株式を有している場合、その株式の一部を譲渡したときであっても本特例の適用を受けることができますか。 |
【回答】
1. 結論
本特例が適用できる場合に同時に適用することができる「譲渡所得に係る相続税の取得費加算の特例」(措法39条。以下「取得費加算特例」)の取扱いと同様に、Bさんが譲渡した乙社株式3,000株は全て亡父からの相続により取得したものとして、その譲渡対価の全額につき本特例が適用されると思われます。
2. 解説
(1)みなし配当課税
個人所有の株式をその発行会社が買い取る場合、その会社はその時の株式の価額を対価として株主に支払います。
この場合に、個人株主が発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等の額のうち、[その譲渡株式に対応する発行会社の資本金等の額]を超える額は〝発行会社からの配当"とみなされ(みなし配当)、配当所得の金額の収入金額とされます(所得税法25条1項5号)。
この配当所得の金額は総合課税の対象となり、他の所得と合算され最高55.945%の税率(所得税+復興特別所得税+住民税)で課税されます(所得税法89条等)。
(2)株式譲渡所得
個人株主が非上場株式を譲渡した場合、通常はその譲渡対価が譲渡所得の金額の総収入金額となりますが、発行会社による自己株式の取得の場合、(1)のとおり、譲渡対価の形で受領した金銭の一部は配当とみなされるので、その配当とみなされる部分を譲渡対価から控除した残額が譲渡所得の金額の総収入金額となります。その総収入金額から取得費と譲渡費用の合計額を差し引いて、譲渡所得の金額が計算されます。
この譲渡所得については、他の所得と分離されて20.315%の税率で課税されます(措法37条の10第1項等)。したがって課税所得が多い場合には、配当所得として課税されるよりも、譲渡所得として課税される方が有利となります。
(3)相続により取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合のみなし配当課税の不適用の特例
相続又は遺贈(以下「相続等」)により非上場株式を取得した個人のうち、その相続等につき納付すべき相続税額のあるものが、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合は、一定の手続の下で、その譲渡対価の全額が株式に係る譲渡所得として課税されます(措法9条の7第1項、第2項)。
(4)相続等により株式を取得した個人が、相続前に同一銘柄の株式を有している場合において、相続後にその株式の一部を譲渡したときの本特例の適用
表題のケースでは、相続等により取得した株式と相続前より保有する株式が混ざるので、その一部の株式を譲渡すると、どちらの株式を譲渡したのかはっきりしないことから、その株式の譲渡について本特例をどのように適用するのかが問題となります。
この点について、本特例と合わせて適用を受けることができる「取得費加算特例」は、相続人が相続等により取得した株式とこれ以外の同一銘柄の株式を有する場合に、これらの株式の一部を譲渡したときは、相続により取得した株式から優先的に譲渡したものとすることが認められています。(措通39-20、本紙№718・2(2)参照)。
本特例と取得費加算特例は、ともに相続税納付のための相続財産の譲渡に係る課税の負担軽減を目的とし、本特例の適用がある場合には取得費加算特例も同時に適用があることから、本特例の適用に当たっても取得費加算特例と同様に、相続等により取得した非上場会社の発行した株式から優先的に譲渡したものとして取扱うことがふさわしいといえます。
以上により、Bさんが譲渡した乙社株式3,000株は、その全てが亡父から相続により取得したものとして本特例が適用され、乙さんがB社からその譲渡の対価として交付を受けた金銭の額についてはみなし配当とされず、その全てが申告分離課税の株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額となるものと考えます。(参考:平成24年4月17日東京国税局文書回答事例)。