1.はじめに
ある会社の発行済株式の99%を有している人が保有する株式でも、その1%しか有していない人が保有する株式でも、株式1株の権利内容は原則として同じです。ただ、会社法は、権利内容の異なる複数の株式=種類株式を発行することもできる旨を定めています(会社法108条1項)。
「権利内容」に差をつけることができる代表的な項目を挙げると、①剰余金の配当、②残余財産の分配、③株主総会で議決権を行使することができる事項、④その株式の発行会社が一定の事由が生じたことを条件に買い取ることができるか否か等々です。
2.種類株式を発行のための手続き
株式会社が種類株式を発行するには、定款に種類株式を発行する会社であると定める必要があり、また、種類株式の内容(たとえば、剰余金の配当に係る種類株式であれば、種類の異なるごとに、配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容、株主総会で議決権を行使することができる事項に差をつける種類株式であれば、株主総会において議決権を行使することができる事項)を定款で定めることが必要です。
また、種類株式ごとに発行可能な総数を定款で定める必要もあります。定款に種類株式に係る定めがない場合、定款変更が必要となりますが、定款変更のためには株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項)。
また、種類株式を発行する場合は、各種類株式の発行可能な総数及び発行する各種類株式の内容の登記が必要です(会社法915条1項、911条3項7号)。商業登記簿謄本に記載されるため、その会社が種類株式を発行していることなどを外部から容易に知ることができる状態になります。
3.遺産分割や事業(経営権)の承継における種類株式の活用事例とその評価
(1)たとえば、会社のオーナー経営者の相続人に、会社経営の後継者となる長男と非後継者で会社経営に関与しない長女がいて、オーナー経営者に自社株式以外の財産が少なく、長男に代償分割を行う資力がないとき、遺産分割バランス上、長女にも、後継者である長男よりは少ないものの相当数の自社株式を相続等させなければならない場合があります。
その場合、長女に相続等させる株式を一定の項目の議決権を制限した種類株式とし、長男の会社経営(支配)に影響を及ぼしえないようにすることが考えられます。ただ、長女としては、その取得した株式が単に議決権が制限されただけの株式ならば、長男が取得する株式に比べ権利内容が劣ることは明らかで、不満が残る可能性が少なくありません。
そこで、例えば、長女には議決権をすべてなしとする代わりに、配当を多く又は優先的に受け取ることができる種類株式(配当優先・無議決権株式)を取得させるなどの措置をとることが多いと思われます。
会社経営に興味がない長女にとっては、株式の権利内容として、経営支配に必要な議決権よりも配当収入が優先的・安定的に得られることに価値を感じるでしょうから、そのような措置により長女の不満を抑えられることが期待できます。
なお、その場合でも、長女(長男の妹とします)は、兄とともに財産評価基本通達188(1)の「同族株主」グループの一員で、会社の後継者として議決権のある株式を取得するのが兄であることにより、同(2)の「中心的な同族株主」に当たることになると思われ、長女が取得する配当優先・無議決権株式は(議決権はゼロであるものの、)同(2)の要件を満たさないため、配当還元方式による評価は不可で原則的評価方式による評価となります。
(2)種類株式も、その相続税法上の評価は、他の財産と同様に相続等の時点の「時価」によります。同通達は、種類株式一般の、又は、内容の異なる種類株式ごとの時価の算定方法を定めていません。
その点につき、同通達188-5の「解説」(国税庁の職員が執筆)の中で要旨「・・・種類株式については、社会一般における評価方法も確立されていないうえ、権利内容の組み合わせによって相当数の種類株式の発行が可能であるから、その一般的な評価方法をあらかじめ定めておくことは困難である。
したがって、評価通達に定める評価方法がなじまないような種類株式については、個別に権利内容等を判断して評価する」とされています。
一方で、中小企業の事業承継で活用頻度が高いと想定される配当優先・無議決権株式については、国税庁の「その他法令解釈に関する情報 種類株式の評価」(平成19年3月9日付、国税庁のホームページで確認できます。) の中で、具体的な評価方法が示されていますので、それに従って評価することが実務上安全だと思われます。