不動産投資コラム

取引価格より高い評価額で課税された不動産取得税の裁判

1.750万円で買った土地に評価額約2000万円

ある不動産業者Aが平成27年2月に公道から通路状の土地を介してたどり着く都内の土地約100m2を750万円で取得しました。この通路状の土地は、幅1.8mで長さ13メートルの土地で、以前に通路として使用されていたことがあるとみられる土地でしたが、別の所有者のものでした。したがってAは買った土地について建築基準法上の接道要件をみたさない「無道路地」だと考えていました。

しかし都税事務所側は、この通路状の土地に固定資産税の路線価を付けて不動産業者A社が買った土地の価格をおよそ2,040万円と評価し、課税標準を1,315万円、税額39万4500円とする賦課処分を行いました。このためAは、買った価格よりも高い課税標準で不動産取得税が課税されるのはおかしいとして、裁判所に訴えることにしました(東京地裁平成30年2月2日判決)。

2.不動産取得税の課税標準

不動産取得税は、不動産の取得に対し、不動産が所在する都道府県において、不動産の取得者に課税される税金です(地方税法73条の2 第1項)。その課税標準となるのは、不動産を取得した時における不動産の価格(同法73条の13第1項)で、その「価格」とは適正な時価、客観的な交換価値です(同法73条5号)。


なお、現在は宅地評価土地(宅地及び宅地比準土地のこと。)を取得した場合における土地の取得に対して課する不動産取得税の課税標準は、その取得が平成18年1月1日から平成33年3月31日までの間に行われた場合に限り、その土地の価格の2分の1の額となります(同法附則11条の5 )。


課税標準の決め方は、②固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、その価格(固定資産課税台帳に登録された価格を「登録価格」。)を利用するのが原則です。②固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産か、その不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他特別の事情がある場合で登録価格により難いときは、固定資産評価基準によって、その不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決めることになっています(同法73条の21第2項)。


今回のケースでは、Aが土地を取得して登記したことがちょうど、固定資産の評価替えの年である平成27年の3月に都税事務所まで通知されていたことから、都税側は通路状の土地を私道として路線価を付設し、問題の土地を間口2mの土地として無道路地扱いせずに評価していました(後で間口を1.8mとして評価額を減額し課税標準を約1024万円としています)。


争いは、課税標準となる固定資産税評価により難い特別の事情があるかどうかということになります。

3.評価額が上回っても直ちに違法にはならない

Aは、大まかに①通路状の土地の使用権原もなく、買った土地は建築基準法上、接道義務をみたさない土地で事実上無道路地であるのに無道路地と扱われなかったこと、②取引価格や不動産鑑定評価による評価額に比べ、評価基準に従って決定された評価額は、「客観的な交換価値」を上回ることは明らかとして、賦課処分の取消しを求めました。

これに対し裁判所は、①については評価基準や東京都の取扱要領では「「無道路地」としてではなく、通路の使用権原の有無を問わず、通路にそれが沿接する宅地の利用上の便等を考慮し路線価を付した上で、この路線価により評価することが予定されており(中略)、一般的な合理性を欠くともいえない」としました。

これに関連して裁判所は、通路状の土地に路線価を付設することについては、実際にこれまで通路として使用されてきたことや、沿接する複数の土地の評価の均衡の図る機能を果たすことを重く見て、路線価を付設して評価することに合理性があると判断しました。

また争点の②について裁判所は、評価基準によって算定することができない特別の事情がある場合には、評価基準で算定された評価額も違法となりうることを指摘した上で、次のように述べました。

「実際の取引価格は、現実の不動産市場における売買当事者の相対的な需給関係により左右され得るものであって、特に、不動産業者等が転売目的で不動産を取得・譲渡するような場合には、種々の思惑から取引価格の変動が生じやすいこと(中略)にも鑑みると、実際の取引価格よりも、評価基準の定める評価方法に従って算定されて土地の価格が上回るからといって、直ちに「特別の事情」にあたるものとして、土地の価格の決定が「適正な時価」を超えるものとして違法になるとはいえない」。このように裁判所は結局、Aの言い分を認めませんでした。

税理士法人タクトコンサルティング

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