前回は「海外不動産投資のメリット・デメリット」として日本と海外の違いや不動産投資を行うときに注意しておきたい点について紹介しました。今回は、その中でも大きなメリットである「課税の繰り延べによる節税効果」について詳しくお話ししながら、海外不動産投資を経験する中で私が得てきたことについてもお話したいと思います。
課税の繰り延べによる節税効果
前回、日本とアメリカを比較しながら減価償却の方法、実際の建物価値に対する考え方の差などについて説明しました。
同価格の物件で土地と建物の比率が異なる物件があった場合、建物の金額が大きいほうが多額の税金の繰り延べができます。「減価償却」により建物の取得価額を耐用年数に応じて損金計上する方法のため、減価しない土地よりも、減価償却の対象となる建物の割合を高くとることが、大きな節税のメリットを得ることに繋がるのです。そのため、コンドミニアムでも建物:土地の比率が9:1など、建物比率が日本に比べて高いアメリカの不動産は課税の繰り延べには最適です。
また、日本では木造(モルタル造事務所用)住宅の法定耐用年数は22年となっており、それを超えた中古資産は4年で償却することができます。そのため、利益の出ている個人・法人が課税の繰り延べを目的にするには中古資産の購入が最適です。具体的な方法を個人事業主と法人の場合をそれぞれ例にとって、詳しく説明します。
A)個人事業主の場合
個人事業主の場合は所得税の税率と譲渡所得(分離課税)に適用される税率の違いを利用します。所得税は総所得金額に対しての累進課税となっており、税率は図1の通りとなります。
図1:所得税等の税率
一方、所得税のうち不動産の売却等によって生じた所得は「譲渡所得」と呼ばれ、他の所得とは分離して所得税と住民税が課税されます。この譲渡所得は、対象となる不動産の所有期間によって税率が異なります。所有期間が5年以下の場合、税率は合計で39.63%となりますが、5年を超える長期譲渡になると20.315%になります(図2)。
図2:譲渡所得の税率の違い
そのため、所得税率が高い人、つまり図1から所得税率が20%を超える課税所得695万円超の人が投資用不動産を購入して減価償却をしながら課税の繰り延べを行うと、節税効果を見込める場合があります。5年を超える期間で所有した後、購入した時の金額とほぼ同等かそれ以上の金額で売却しても分離課税として、その譲渡所得の約20%しか課税されないからです。毎年の所得税の税率がそれ以上の場合は、減価償却による効果が高いといえます。
具体例として、毎年、課税所得2000万円を得ている人が、ハワイなどの築22年超の木造住宅を購入して課税の繰り延べを行なった場合を考えてみましょう。
課税所得が2,000万円の場合、図1を見ると所得税は40%が課税されますので520.4万円(課税所得2,000万円x 40% ―所得税の控除279.6万円=520.4万円)、住民税が200万円(課税所得2,000万円×10%=200万円)、復興税が10.9万円(所得税額520.4万円 x 2.1%=10.9万円)の合計731.3万円となります(千円未満切り捨て、以下同)。
詳しい計算方法は割愛しますが、築22年超の木造住宅は、日本では4年で償却できますので、この木造住宅を2000万円で購入した後、4年間で減価償却を行ったとします。
2,000万円÷4年=500万円が減価償却費として毎年経費計上されますので、課税所得が1,500万円となり、4年間は所得税が341.4万円、住民税は150万円、復興税は7.1万円の合計498.5万円になります。そして、この物件を6年目に同じ2000万円で売却すると、譲渡所得の約20%、つまり400万円が課税されます。
図3:課税の繰り延べによる効果(個人の例)
この保有期間4年の税金の差額は731.3万円-498.5万円=232.8万円となり、それだけでも、
毎年の節税額232.8万円×4年=931.2万円-分離課税による所得税400万円=531.2万円
531.2万円の節税となりますが、さらに長期譲渡所得が適用されるまでの5年間、232.8万円の課税の繰り延べの複利効果を計算すると、5年間、年利5%で運用した場合、
232.8x1.055 +232.8x1.054 +232.8x1.053+232.8x1.052=1,106.2万円
トータルの節税額は、
運用益1,106.2万円-分離課税による所得税400万円=706.2万円
5年の間で706.2万円の収入増になります。
ただし最近、この方法は多くの富裕層が取り入れてしまい、2019年12月に発表された「令和2年度税制改正大綱」に基づく今年の税制改正で2021年分の申告から活用することが難しくなる可能性もありますので、今後の税制改正にご注意ください。
B)法人の場合
法人の場合は、基本的に譲渡益でも通常の利益でも税率は変わりません。そのため、基本的には第11回「投資効率を上げるための課税繰り延べについて」でお話ししたような課税の繰り延べ期間の複利運用分が利益となります。ただし、売却時期を他の損失と合算したり、経費がかさんだ年にすることにより、計画的に税率を抑えることができます。私の法人は毎年、1,000万円以上の純利益がでていますので、ハワイの物件の所有はこの課税の繰り延べのために所有しています。
例えば、課税所得1,300万円の法人が2,000万円の築22年超の木造住宅を購入した場合、500万円の減価償却を4年間取ることができ、その間、毎年約188万円の課税繰り延べができます。
図4:課税の繰り延べによる効果(法人の例)
法人にかかる税金には、23区内事業所、従業員数50人以下、資本金1000万円以下、2020年4月1日以降に開始する事業年度の場合、
・法人税(800万円以下15%、800万円超23.2%)
・地方法人税(法人税×10.3%)
・法人都民税(法人税の7%+均等割7万円)
・法人事業税(400万円以下3.5% 、400万円以上800万円以下5.3%、 800万円超7.0%)
・特別法人事業税(法人事業税x37%)
があります。
図5:法人税等の税率
減価償却がなく、1,300万円の所得があった場合は、
法人税 800万円×15%+500万円×23.2%=236万円
地方法人税 236万円×10.3%=24.3万円
法人都民税 236万円×7%+7万円=23.5万円
法人事業税 400万円×3.5%+400万円×5.3%+500万円×7%=70.2万円
特別法人事業税 70.2万円×37%=26.0万円
合計 380.0万円
それが減価償却によって所得が500万円減り800万円になった場合は、
・法人税 800万円×15%=120万円
・地方法人税 120万円×10.3%=12.4万円
・法人都民税 120万円×7%+7万円=15.4万円
・法人事業税 400万円×3.5%+400万円×5.3%=35.2万円
・特別法人事業税 35.2万円×37%=13.0万円
合計 196.0万円
になります。
その結果 減価償却のある4年間 法人税全体では380万円-196万円=184万円削減できます。
それを4年間、年利5%で複利運用すれば、
184x1.054+184x1.053 +184x1.052+184x1.051=832.7万円
本来納税していたら手元に残ることのなかった毎年184万円の資金を複利運用して832.7万円の資金を生み出すことができます。もちろん、生み出した資金にも課税されますが、何もしない場合よりは多くの再投資資金を生むことができます。
新興国での新築投資について
ハワイの不動産に対して、新興国の投資は新築のコンドミニアムがほとんどです。そのため、償却を狙っての投資ができません。将来の値上がり益もしくは賃貸でのインカムゲイン(運用益)を狙う投資になります。
どちらの地域にせよ、さまざまな打合せや物件の状態管理のために投資先に出かけることができますので、その地域に出かけて過ごすことが自分にとって楽しいことであれば、不動産事業のために海外の好きな場所で過ごすことができるというのが最大のメリットかもしれません。
海外投資のリスク
とてもうまくいきそうな話ですが、もちろんリスクもあります。税制改正で2022年の3月に申告期限がやってくる2021年分の申告から個人事業主としての節税方法は使えなくなるようです。法人は影響なさそうですので、私はこのまま続けていきます。正確な情報は財務省のホームページ等を確認してください。
また、新興国においても物件がなかなか売れない状況になっています。今まではアジアにおいては中国マネーで様々な新興国の建物が買われていましたが、中国の資金流出を懸念する海外投資規制により物件が売れなくなってきています。そのため、転売目的の不動産に一部投げ売りも出てきています。ある日突然、さまざまな規制により大きな影響を受ける可能性があるので、余剰資金で運用し、同時に渡航も楽しむくらいの運用にしていかないと「こんなはずではなかった」ということになるかもしれません。
いかがでしょうか。
日本の不動産も日本だけのものではありません。世界中の投資家が目をつけて価格が動いてきています。随分と高くなった感のある日本の不動産ですが、例えば東京を見てみると、世界の大都市のニューヨーク・パリ・ロンドンなどに比べて、まだまだ不動産価格も安いし利回りも高いです。さらに街はきれいで治安もいい。私もいままで世界各地の都市を見てきましたが、私が回ってきた中では世界No.1の都市だと思います。いろいろ難しいことも多い海外不動産投資ですが、海外の不動産を体験しておくことが、今後の世界の中の日本の不動産を扱う上での最大のメリットかもしれません。
【税額の試算・監修】税理士法人みかさパーク共同事務所 堀川敏毅氏(税理士)
https://www.mikasapark.or.jp/