不動産投資コラム

税制を考えた不動産の購入方法

不動産投資を行っていくと、必ず待っているのが最大の出費となる「税金」の問題です。しかし、納税は日本国民の義務。払わないわけにはいきません。収益不動産の購入後、しばらくは減価償却によって利益が圧縮され、多くの税金は発生しませんが、時間が経つにつれ減価償却も少なくなり、課税所得が増え、納税額が多くなっていきます。税制の仕組みを理解してから不動産を購入していかないと、あとになってこんなはずじゃなかったなどと思うことになります。

税制を考慮した場合、物件を買うには個人で買うべきなのか、法人で買うべきなのかなど、物件の購入の仕方で手元に残る収益は全然違います。今回は税金を考慮した場合に、最大限有利に不動産の購入を進めていくためのノウハウをお話ししたいと思います。

税金の基本を知る

日本の所得税は累進課税です。そのため、同じ金額の収入を得るにしても、一人だけに収入を集中させるのではなく、なるだけ多くの人に収入を分散して得るようにした方が手残りは大きくなります。

図1は所得税の税率ですが、所得が増えるにしたがって、税率が上がっていきます。サラリーマンの場合、不動産投資を行っていくと給与以外に不動産所得が増えます。
例えば、サラリーマンの給与の所得が1800万円を超え4000万円以下の人の場合、所得税率は40%、また住民税は10%かかるので、せっかく不動産の所得をさらに得てもその50%は税金として支払うことになってしまいます。

図1:所得税の速算表
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

国税庁ホームページより一部抜粋して作成

図2:個人住民税率
市町村民税率(特別区民税) 道府県民税率(都民税) 個人住民税率(合計)
6% 4% 10%

総務省「市町村税課における所管事項について」を元に作成

そこで、節税について考えることになります。
不動産所得については、個人の場合は青色申告の適用を受けることで10万円の控除が認められます。この青色申告は給与所得には適用されないものです。
さらに一定条件を満たすとその控除額が65万円に増え、節税になります。一定の基準とは、いわゆる「5棟10室基準」です。戸建ての場合だと5棟以上、マンションの場合だと10室以上を所有していると不動産投資が「事業的規模である」と認められ、控除を受けることができるのです。

物件の買い方による税率の違いの実例

それでは、実際に例をあげて、物件の買い方と税金について説明したいと思います。

前提として
・サラリーマンの夫と妻との二人暮らし、夫の給与収入は600万円、妻は専業主婦で所得は0円
・購入したアパートからの不動産収入は900万円

とします。

税金は諸条件で変化します。ここでは、所得にかかる税金について、買い方でどの程度変化するのかということを示したいと思います。
※計算をシンプルにするために、所得税の復興特別所得税、住民税の均等割等、法人住民税の均等割等は考慮しない前提です。

a)夫名義で購入した場合
夫の給与収入の600万円に不動産収入900万円が加わりますので、夫の総収入は1,500万円です。

図1を見てみると給与収入が600万円ですので、695万円までは所得税20%と住民税が10%課税されることになります。 不動産の分はそれに上乗せした収入になりますので、所得税33%と住民税10%が課税されるのです。

細かい計算は省略しますが、収入にかかる税金を計算してみると、
・ 給与収入のみ600万円の場合 63.25万円
・給与に不動産収入を加えた総収入が1,500万円の場合 372.79万円

となります。不動産収入を得ることで税金が309.54万円増えますので、アパートの収入は 
900万円−309.54万円(=372.79万円−63.25万円)= 590.46万円
ということになります。

b)妻名義で購入した場合
次に妻名義で不動産を購入した場合を見てみましょう。
妻の収入はもともと0円でしたので、アパートの収入を加えると妻の総収入は900万円になります。妻は、個人事業主として青色申告(65万円控除)をした場合を計算してみます。
妻の収入に対する税金を計算すると約199.91万円になります。また、妻が扶養から外れることにより、夫の所得税と住民税がそれぞれ7.6万円、3.3万円増額します。

そのため、アパートの実質収入は
900万円−199.91万円−7.6万円−3.3万円 =689.19万円
となり、夫のみで不動産を所有したa)の場合に比べて98.73万円、収入が多くなります。

c)夫婦の共有名義で購入した場合
次に夫婦の共有名義で50%ずつ購入した場合を考えてみましょう。夫婦で不動産投資を協力して行う以上、名義も共有にしたいという人も多いと思います。
この場合の夫の収入は、600万円に不動産収入450万円を加えて1,050万円になります。
妻の収入は不動産収入の450万円になります。
こちらも不動産収入分は、それぞれ個人事業主として青色申告(65万円控除)をした場合を計算してみます。

それぞれの収入に対する税金を計算してみると、夫は191.99万円、妻の税金61.85万円になります。

そのため、アパートの実質収入は 
900万円−(191.99万円−63.25万円) −61.85万円 = 709.41万円
ということになります。

二人で青色申告控除を使えるというのが共有名義にするメリットですね。

d)法人名義で購入した場合
法人名義の場合は収入の分散を考えなくてはなりません。
法人税は法人税・法人住民税・法人事業税に分けられます。
単純に法人だけの所得にした場合は、課税所得800万円以下は法人税が15%、法人事業税は東京都で5.3%となり、あわせて約20%程度ですから、非常に低税率となります。(別途、法人住民税がかかります)

ただ、法人にいくらお金を貯めていても、個人である本人はそのお金を勝手に使うわけにはいきません。あくまでも法人のお金であって、個人の自由にできるお金ではないからです。個人でお金を使えるようにするためには法人から給与をもらわなくてはなりません。ただ、この場合も少ない金額を広く渡すことができれば、いっそうの節税になります。

例えば、この夫婦が両親の世話をしており、これまでは個人の収入から親に生活補助として渡していたお金を、掃除などの不動産の仕事を一部手伝ってもらった報酬として渡すようにした場合を考えてみましょう。

法人として不動産収入が900万円あり、そのうち法人の収入を200万円として、社長(妻)の収入を500万円、役員(夫)の収入は0円、役員(父)の収入は100万円、役員(母)の収入は100万円とした場合を計算してみます。

妻の収入に対する税金の合計は52.35万円、父・母の税金は0円、法人の所得200万円に対する税金は40.67万円、夫の税金はb)同様に所得税と住民税がそれぞれ7.6万円、3.3万円増額になります。

その結果、アパートの実質収入は
アパートの実質収入は900万円-52.35万円-40.67万円-7.6万円-3.3万円=796.08万円
となります。

これまでの話を、表にまとめてみました。

図3:購入時の名義によって増加した税額・利回りの試算
購入名義 増加した税額 実収入 税引後利回り
a)夫のみ 309.54万円 590.46万円 約5.90%
b)妻のみ 210.81万円 689.19万円 約6.89%
c)夫婦 190.59万円 709.41万円 約7.09%
d)法人 117.45万円 796.08万円 約7.96%

このように同じ収入900万円の不動産でも、法人をうまく活用することで、実質利回りを2%近く上げることができます。

購入する物件の利回りは1%でも高い方がいいと必死に物件を探したり、指値をしたりして購入価格にはこだわる投資家はとても多いですが、その買い方(所有の仕方)に関しては、あまり気にしない方が非常に多いです。
不動産の所有の仕方によっては、最終的に実質的な利回りが大幅に違うということを理解して欲しいと思います。

税務知識をつけてキャッシュを大きく残す

これまで説明したように、同じ物件からの収入でもそれをどのような形でどのように分けるかによって、手元に残るキャッシュは大きく変わっていきます。
物件購入時に2%もの利回りを上げるように指値を通すのはなかなかできるものではありません。しかし、その購入の仕方によっては同様の利益を手元に残すことができます。

もちろん、給与を分配するためには実態を伴わなくてはなりません。しかし、不動産賃貸業のような同族会社では、その所有の仕方や収益の分配の仕方によっては、家族全体に残る利益が大きく変わることはご理解できたのではないかと思います。

税率などは定期的に変わりますし、妻を扶養家族から外すことによって、会社でもらえていた手当てがなくなるなど、収入が増えることによってさまざまな補助が受けられなくなることもあります。

今回はあくまでも一例であり、実際の運用にあたっては、社会保障労務士や税理士に相談するなどして、適切な方法を確認してください。適切な税務の知識を持つことで、より効率的な運営を行い、安定的に不動産経営を行っていけると思います。

【税額の試算・監修】税理士法人みかさパーク共同事務所 堀川敏毅氏(税理士)
https://www.mikasapark.or.jp/

赤井 誠
赤井 誠

赤井 誠

1985年、北海道大学大学院工学研究科卒、大手電機メーカーに27年勤務、2004年より不動産投資を開始し、その後、サラリーマンを退社、専業大家となる。16棟117室所有。家賃収入は年間1.2億円。不動産会社を経営しながら、そこで得た知識や情報をブログやコラムで全国に発信し、またセミナー講師としても活動中。著書は「ゼロからの不動産投資」「本気で始める不動産投資」(すばる舎)。
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