不動産投資コラム

個人が所有する宅地に前払地代方式により一般定期借地権を設定した場合の税務

1.前払地代方式による一般定期借地権が設定された場合の借地権者・地主に係る所得税・法人税の取扱い

(1)定期借地権の設定時に受ける一時金の種類
一般定期借地権は借地借家法第22条で定められ、存続期間を50年以上とした借地権であれば、更新がないなどの一定の特約を付けることができ、その特約付の借地権を定期借地権として認めるとしています。

定期借地権の設定時には、借地権者が個人地主に対し一時金として、借地期間終了後に地主に返還義務がある「保証金」や、返還義務のない「権利金」、「前払地代」のいずれかを支払う場合が多いようです。

このうち前払地代の方式による場合は、定期借地権の設定時に、借地権者が地主に対して、借地に係る契約期間の地代の一部又は全部を一括して支払います。

(2)前払地代方式に係る税務上の取扱い
借地権者と個人地主が一定の定期借地権設定契約を締結した場合における所得税や法人税については、国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」で次の通りとされています。

①借地権者
前払地代を「前払費用」として資産に計上し、当該事業年度又は当該年分の賃料に相当する金額を損金の額又は必要経費の額に算入します。

②個人地主
前払地代を「前受収益」として負債に計上し、当該年分の賃料に相当する金額を収入金額に算入します。

(3)前払地代方式の適用を受けるための要件
前払地代方式を適用するには、借地権者と地主が次の内容を明示した定期借地権設定契約書により契約し、これを契約期間にわたって保管したうえで、取引の実態がその契約に沿うものである必要があります。

① 授受する一時金が前払賃料であること

② ①の一時金が契約期間にわたって、又は契約期間のうち最初の一定の期間について、賃料の一部又は全部に均等に充当されていること

③ 中途解約時に未経過分の前払賃料を借地権者に返還しなければならないこと
  なお、中途解約時の違約金等の設定をする場合は、③の内容を逸脱することがないようする必要があります(国税庁文書回答事例「前払賃料について定めた定期借地権設定契約書の書式例」)。

2.前払地代方式により一般定期借地権が設定された場合の地主に係る相続税の取扱い

(1)一般定期借地権の目的となっている宅地の評価
一般定期借地権の目的となっている宅地(底地)の相続税評価額は、その宅地の自用地評価額から一般定期借地権の評価額を控除して計算します。

この場合、借地権者と地主が親族関係であったり、会社とその同族株主の関係等であるときは、課税上弊害があるとされ、原則として一般定期借地権の評価額は次に算式により計算します(財産評価基本通達27-2ただし書、平10課評2-8、国税庁「タックスアンサー」No.4612)。

<算式>一般定期借地権の目的となっている宅地の自用地評価額×(① ÷ ②)×(③ ÷ ④)

①定期借地権等の設定時に受ける経済的利益の総額
②定期借地権等の設定時の宅地の通常の取引価額
③課税時期における定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
④定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

上記の計算において、前払地代の額は借地契約終了時にその未経過分が返還不要であることから、①の経済的利益の総額に含めます(国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて1(1)」。

(2)前払地代の未経過分相当額の取扱い
地主が前払地代を受領後に死亡した場合、その死亡時に前受収益として計上している地代の未経過相当額については、上記2(1)の通り前払地代の額が定期借地権の評価額に反映されることによって、定期借地権の目的となっている宅地の評価額が減額されることから、相続税の計算上、別の債務として控除することはできません(同文書回答事例1(2))。

3.個人地主における前払地代方式の留意点

個人地主が前払地代方式による一般定期借地権を設定した場合、所得税の計算上、1(3)の要件を満たす限り、受領した前払地代は期間(各年)に応じた収益計上ができますが、各年の地代の額が高額となるときは最高55%の税率により所得税や住民税等が課税されます。

また、地主の死亡時における前払地代の未経過分相当額は、2(2)の通り相続税の債務控除の対象にならない点に注意が必要です。

税理士法人タクトコンサルティング

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