不動産投資コラム

相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除:契約効力発生日基準により申告する場合

【問】
Aさんは、令和6年1月に父から相続したX家屋とその敷地を譲渡(以下「本件譲渡」)するため、令和6年12月10日に買主と譲渡契約を締結しました。X家屋はAさんの父が生前居住していた住宅で、父の死亡後は空き家となっています。その譲渡契約では、契約締結後、令和7年3月末までにAさんがX家屋を取壊し、更地にして引渡す特約が設けられています。Aさんは令和7年2月28日にX家屋の全部を取壊し、7年3月31日に買主へその敷地を引渡しています。X家屋は築50年の古家で、地震に対する安全基準等に適合している家屋ではありません。

Aさんは本件譲渡にあたり、租税特別措置法35条3項の「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「本特例」)の適用を受けるつもりです。この場合において、Aさんが所得税の譲渡所得の申告を、X家屋とその敷地の譲渡契約を締結した日の属する令和6年分で行うときは、本特例の適用を受けることができますか。

【回答】
1.結論
Aさんが本件譲渡の時期を譲渡契約締結日の令和6年12月10日とし、譲渡所得に係る所得税の申告を令和6年分で行う場合には、その年の翌年2月15日までにX家屋の全部の取壊しが完了していないので、本特例の適用を受けることはできません。

2.解説
(1)本特例の概要

相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたもの(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈により取得した個人が、①その被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡したこと、又は、②その被相続人居住用家屋とともにその敷地等を譲渡し、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に被相続人居住用家屋の全部の取壊し等を行ったこと等の一定の要件を満たすときには、所得税の計算上、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できる特例が設けられています(租税特別措置法35条3項2号、3号、同条4項等)。

(2)譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期の判定
個人が土地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額の計算上、その譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)からその土地の取得費や譲渡費用を控除します。

各年の譲渡所得の金額の計算においては、「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定させる必要があり、これは所得税法36条により、「その年において収入すべき金額」とされています。この場合の「総収入金額の収入すべき時期」については、所得税基本通達36-12でその判断基準が示されています。この通達では、総収入金額の収入すべき時期、つまり資産の譲渡の時期について、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によること(「引渡日基準」)を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡契約の効力発生の日(一般に契約締結日)によること(「契約効力発生日基準」)も認めています。

(3)本特例の適用要件の判定時期
本特例の適用に当たっては、(2)の「引渡日基準」又は「契約効力発生日基準」のうち、納税者が選択した資産の譲渡の時期により、その特例の適用要件を満たしているかどうかを判定します。

(4)本問へのあてはめ
Aさんは、「契約効力発生日基準」を選択して譲渡契約締結日(令和6年12月10日)を資産の譲渡の時期とし、令和6年分で所得税の申告をすることから、本特例の適用要件((1)①又は②)を満たすかどうかの判定は、その譲渡契約の締結日により行います。

Aさんの場合、資産の譲渡の時である譲渡契約の締結日後に被相続人居住用家屋のX家屋の全部の取壊しを行っているので、(1)①の要件を満たしません。また、X家屋の全部の取壊しが完了したのが令和7年(譲渡の日の属する年の翌年)2月28日であることから、(1)②の要件も満たしません。以上によりAさんは、本特例の適用を受けることはできません。
なお、Aさんが「引渡基準」を選択してX家屋の敷地を引渡した令和7年3月31日を譲渡の時期とし、所得税の申告を令和7年分で行う場合には、被相続人居住用家屋であるX家屋の全部の取壊しをした後にその敷地を譲渡していることから、(1)①の要件を満たし、本特例の適用を受けることができます。
(参考:国税庁「質疑応答事例」)。

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