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老後の暮らしとお金のコラム60歳からの教科書『豊かな住まい方』

2018/01/09
息子は国際結婚だった

60代の読者であれば、親の介護の問題があるかもしれない一方で、お子さんのある方はその結婚もあるだろう。すでに孫が誕生している方も少なくないはずだ。

私のところも、長男が結婚した。お相手は、日本の大学を出て日本の会社に勤める韓国の女性だ。初めて東京で先方のご両親と食事した際に、すっかり意気投合し、銀座のカラオケ店に繰り出した。店には卓球台が置いてあったので日韓親善テーブルテニス大会となったのだが、全く歯が立たない。なんと彼女のお父さんは地域のチャンピオンだった(笑)。
カラオケも韓国の曲が入っているかどうか心配したのだが、今時のカラオケには韓国や中国の曲が日本の楽曲より多く入っている勢いだ。双方が心を込めて相手の国の歌を歌う・・・握手をし、拍手をしあって最後には抱き合う。日韓関係については、こうした草の根の民間外交を積み重ねるしか手はないだろう。

なぜ、今の若者は派手な結婚パーティーをしたがるのか?

息子は彼女と入籍をして一緒に暮らし始めたのだが、それから1年して改めて結婚披露パーティーをやるのだという。最初は意外だったのだが、入籍をして同居すること、披露パーティーを大掛かりにやること、さらにその後、また改めて新婚旅行をすることは別物なのだという。私たちの頃のように何もかも一気にやるのではないらしい。少子化にもかかわらず、「ゼクシィ(リクルート発行の結婚情報誌)」が儲かるはずだと思った。

なぜ、今の若者が派手な演出で結婚パーティーをしたがるのか?
・・・出席してみてわかったことがある。

ああ、承認願望の表現なのだな、と理解した。もっともこれは今に始まったことではなく、私たちの世代、日本が経済的に豊かになり結婚が自由になった世代からそうだったかもしれない。人生の目標を探したり、決意表明をしてみたいという思いが強いのだ。
フェイスブックの「いいね」に一喜一憂する世代への憂いもあるが、他人の結婚式に滅多に出ない私が息子の結婚式に改めて出てみて、こういうことにお金をかけたがる気持ちもわかった。人生を賭けているんだな、と。
たしかに、車を買うよりいいのかもしれない。

子どもたちに渡したい「思い出」のプレゼント

ところで、うちの場合は息子たちに、結婚すると決まったら渡そうと準備していたプレゼントがある。お金でもモノでもない。
思い出の詰まった一本のビデオ(DVD)だ。
多分、読者の世代が私と同じくらいであれば、その昔、生まれたばかりの息子や娘の成長を赤ちゃんの時からビデオに撮りためていた方も多いんじゃあないかと思う。しかも、テープ状の記録媒体でだ(苦笑)。写真アルバム同様に、何十本とビデオカセットが積み上がっている家もあるだろう。

私のオススメは、子どもが結婚して家を離れる前に一度プロに任せて一本のDVDに編集してもらうこと。もちろん、お金はかかる。でも、カセットのままでは若い人は視聴できないし、何本もあると結局滅多に見ないことが多いはずだ。

長男の場合には、日赤産院の分娩室で生まれた直後に撮影した母子のシーンもあり、万感の思いとともに二人にプレゼントすることになった。
長女はパリで生まれたのだが、パリの友人たちは娘が生まれるとその年に仕込まれたワインを何ダースも買っておいてカーブに仕舞い込み、20年後、30年後の彼女の結婚式で、そのワインを開けて来賓に振る舞うそうだ。「さすがラテン系、洒落てるな」と思った。

最近は、娘や息子が母親と組んで父親の還暦の祝いを仕掛け、サプライズでレストランに連れて行かれると、おっとそこにはたくさんの友人が!というケースも多く見聞きするようになった。
私自身はリクルート時代から会社のイベントにおいてプロデューサー兼演出家のような役割だったこともあり、還暦の祝いを他の人にサプライズで仕掛けられてしまったら、自身の沽券にかかわると思っていた。だから、予め銀座の「俺のフレンチ」と「俺のイタリアン」の両方を借り切っておき、パーティーを仕掛け、150人のお客様に楽しんでもらった。うち、40組80人は夫婦のカップルだった。

日本人はあまり夫婦で招き会うことをやらないが、ヨーロッパでは当たり前のマナーである。ここからの30年、スポーツや文化的なことを楽しむには一人より二人主義の方が何かと楽しめる。パーティーなどでは一人だと孤立してしまうことがあるからだ。夫婦でなくともパートナーがいればいい。LGBT(性的マイノリティ)のカップルでもOKだ。

「面倒なこと」に、あえて時間をかけよう

最後に「礼服」の話をしておこう。
結婚式でも葬式でも、その他の式典やパーティーでも、60代からは「礼服」を着ていく機会が増えるかもしれない。
私は、和田中学校の校長として5年間10回に及ぶ入学式と卒業式を、ロンドン駐在中に仕立てたスーツに金色のネクタイを締めて出席していた。ところが一条高校の校長に就任した際、入学式には正装してほしいと奈良市教育委員会が言ってきた。燕尾服か和服かの選択を迫られたのだ。
なんでだろう?とは思ったが、郷に入れば郷に従えというわけで、初年度の入学式だけは「奈良だから」と和服をレンタルして臨んだ。着付けを含めて5万円かかった。2年間で4回使えば20万円だ。そうでなければ、校長になると皆、燕尾服を仕立てるのが慣例なのだという。
おかしい!と思った。日本の古都奈良には1300年の歴史の重みがあるのに、なぜ西洋のジェントルマンの真似をして式に出なければならないのか?

そこで、聖武天皇の頃の正装や興福寺国宝館にある八部衆が来ている衣装なども参考に、偶然縁のあった制服メーカーの開発部長と新しいネオジャパネスクな「礼服」を開発することにした。下の図が最初のデザイン画だ。

まず、私自身がモデルとなって一着仕立てたのだが、やがて「ichijo」のブランドで世に問えるよう、胸にはタグも付けてある。就任した年度の卒業式に間に合ったから、写真のような姿になった。

ボタンと胸元の飾りは後からオプションで付けたものだが、聖武天皇が愛用した碁石と同じように撥鏤(ばちる:象牙に褐色と赤で染色し模様を彫り込む)細工を施した。浄瑠璃寺のはす向かいにある「吉祥庵」という蕎麦屋のご主人が正倉院の撥鏤細工の復刻工芸師で、奈良発の新しい「礼服」のために一肌脱いでくれたからだ。

第8話(https://www.nomu.com/60/column/fujihara/8.html)では「人生90年」の話をしたし、第4話(https://www.nomu.com/60/column/fujihara/4.html)では、これからはたっぷり時間があるのだから、ビジネスパーソン時代の手垢のついた生産性や効率を無視して「さあ、面倒臭いことに、あえて時間をかけよう!」とも説いた。

ここに例を挙げた礼服に限らず、デパートやネット売り場に並んだ完成品をどれにしようかと買い急ぐのではなく、たっぷり時間をかけて手作りした方が楽しいということを改めてお伝えしたい。その方が、あれこれ知恵を出さなければならないからボケないし、物語も生まれる。パートナーや友人を含むコミュニティの中で共有できる人間ドラマも生まれるだろう。これは当然、住まいについても言えることだ。

そうはいっても、「自分にはデザインのセンスがないからなあ」という人はデザインできる友人に頼むか、若手を雇えばいい。「作ると言っても、工場もないし、技術もないから」という人は、工場を持っている人にアウトソースすればいいし、特定分野でものづくりができる職人は唸るほどいる。大手メーカーを定年寸前の60代前後、または20代からの勤続に飽きた45歳くらいの技術者が狙い目だ。
探していく行為そのものが物語になるし、万が一出会えれば感動ものだろう。

執筆者:藤原和博

教育改革実践家/『人生の教科書[家づくり]』著者
1955年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008~2011年橋下大阪府知事特別顧問。14年武雄市特別顧問、2016年春から奈良市立一条高校校長に就任。
リクルート在職中に注文住宅・リフォーム情報誌の創刊に携わる。37歳から家族でヨーロッパに移住。自然豊かなロンドンの住宅やパリのペントハウスに住んだ経験を活かし、東京に家を建て、2016年4月より奈良市に91歳の父と85歳の母と同居。

「よのなかnet」藤原和博のデザインワーク
http://www.yononaka.net/

人生の教科書[家づくり]―筑摩書房
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480421623/
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