小規模宅地等の特例と具体例・その1~概要~

被相続人(亡くなった方)が事業を行っていた土地や自宅の土地については、相続が発生した際の税金計算において、相続税の課税価格の50~80%を減額する「小規模宅地等の特例」が設けられています。
相続人の生活基盤の維持のために不可欠なこれらの財産にそのまま通常の相続税の計算を適用して相続税が課されてしまうと相続税が高額になり、その結果、自宅や事業をする土地等を売却しなければ相続税の納税が出来ない事態が考えられます。
相続税の負担を減らし、相続人の生活を脅かすリスクを軽減するために設けられた特別な措置であり、被相続人が土地を保有していた場合には、必ず検討が必要となるほど、相続税を計算する上で非常に影響の大きい制度となっています。
本特例を利用すれば相続税評価額を大幅に減額できますが、適用を受けるための要件は複雑となっています。宅地等が複数ある場合や共有持分がある場合等、その状況によって計算方法は変わりますので、状況に応じた具体的な計算方法を把握しておくことが重要となります。

Ⅰ.小規模宅地等の特例とは

ⅰ.小規模宅地等の特例の概要

相続人が保有していた財産のうちに土地等があった場合には、その土地の相続開始直前の状況等に照らし条件を満たした宅地等一定のものについては、一定の面積までの部分について相続税の課税価格を50%~80%減額する事ができる制度となります。
なお、相続時精算課税制度によって贈与した宅地等については適用できませんので、相続時精算課税制度を使用した贈与を実施する際には、小規模宅地等の特例の対象外となる財産で検討すると節税効果が高くなります。
また、宅地等一定のものとは、建物または構築物の敷地のように供されている宅地等となるため、棚卸資産は適用できません。

ⅱ.特例の適用を受けるための手続き

相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載すると共に添付資料の提出が必要となります。
申告書を期間内に提出する事が要件となっているため、特例の適用を受けた結果、相続税の納税額が0円となる場合であっても期限内に相続税の申告書の提出は必要となります。

【添付書類一覧】
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ⅲ.申告期限までに分割できなかった場合

  1. 特例の対象となる宅地等やその他一定の特例の対象となる財産などを取得した相続人等が2人以上いる場合には、特例を適用する宅地等の選択について、その全員が同意しており、かつ、原則として相続税の申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内)までに分割されている事が必要です。
  2. 例外的に、申告期限までにこの特例の対象となる宅地等が未分割である場合には、小規模宅地等の特例の適用が出来ない申告書の提出を申告期限までに一度申告しておくことになります。この場合には、ⅱ表にある添付資料の他に「申告期限後3年以内の分割見込書」を合わせて添付しておく必要があります。
  3. 申告期限から3年以内に分割が行われた場合に限り、特例を適用して修正申告または更正の請求をすることが出来ます。
  4. 更に、分割できない事について、裁判などのやむを得ない事情がある場合には、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過するまでに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出した場合には、分割が出来ることとなった日の翌日から4カ月以内に分割された時は、この特例の適用を受けることが出来ます。

Ⅱ.適用対象となる宅地等

小規模宅地等の特例の対象となる宅地等は、それぞれ以下の種類があります。

(Ⅰ)特定事業用宅地等

相続開始の直前において、被相続人の事業(不動産貸付業など貸付業を除く)に使っていた宅地等に対して適用

(Ⅱ)特定同族会社事業用宅地等

相続開始の直前において、被相続人が同族会社の事業に使っていた宅地等に対して適用 特定同族会社の要件については、【種類ごとの要件】ⅱ.特定同族会社事業用宅地等(Ⅰ)法人についての要件をご参照ください。

(Ⅲ)特定居住用宅地等

相続開始の直前において、被相続人の居住に使っていた宅地等に対して適用

(Ⅳ)貸付事業用宅地

相続開始の直前において、被相続人の不動産貸付業など貸付業に使っていた宅地等に対して適用


また、種類ごとに適用要件が決まっています。

【種類ごとの要件】

ⅰ.特定事業用宅地等

(Ⅰ)被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く。)の用に供されていた宅地等

  1. 相続税の申告期限までにその宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引継ぎ、かつ、その申告期限までにその事業を営んでいること。
  2. 相続税の申告期限までその宅地等を保有していること。

(Ⅱ)被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等

  1. 被相続人と生計を一にする親族が相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること。
  2. 相続開始時から相続税の申告期限までその宅地等を保有していること。

(Ⅲ)要件の確認の際の注意点

相続開始前3年以内に新たに事業の様に供された宅地等は、特定事業用宅地等の範囲から除外される。ただし、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等であっても、一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地等については、3年以内事業用宅地等には該当しない。
特定事業用宅地等の特例の適用にあたっては、相続の直前に事業を開始した節税を目的とした駆け込みの様な適用を認めない趣旨で制限されることになりますが、形だけでなく、該当する宅地等で事業の用に供されている一定の資産がその宅地等の相続税評価額の15%以上の場合には、駆け込みでは無く、一定規模以上の事業の実態があるものとして、特例の適用対象となります。

「一定の規模以上の事業」とは、次の算式を満たす場合におけるその事業をいいます

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なお、被相続人が所有していた宅地等の中に相続開始前3年以内に発生した相続によって取得した事業用の宅地等があり、その取得の日以後継続して事業の用に供していた場合には、事業を営んでいた期間が3年未満の場合であっても、特定事業用宅地等に該当する。

ⅱ.特定同族会社事業用宅地等

(Ⅰ)法人についての要件

  1. 相続開始の直前において被相続人等が法人の発行済株式の総数又は出資金額の50%超を保有している場合におけるその法人であること(相続税の申告期限において、清算中の法人を除く)。
  2. 相続税の申告期限までその宅地等を事業の用に供していること。

(Ⅱ)取得者についての要件

  1. 被相続人の親族で、相続税の申告期限においてその法人の役員であること。
  2. 相続開始時から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を保有していること。

ⅲ.特定居住用宅地等

(Ⅰ)被相続人の居住の用に供されていた宅地等

  1. 被相続人の配偶者が取得したもの
    …条件は無し
  2. 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族が取得したもの
    …相続開始時から相続税の申告期限まで、引き続きその宅地等を保有し、かつ、その宅地等の上に存する建物に居住していること。
  3. ⅰ及びⅱ以外の親族が取得したもの(配偶者と同居親族以外の家なき子特例)
    …以下a)~d)の全ての要件を満たすこと。
  • a)被相続人の配偶者又は被相続人の同居親族がいないこと。
  • b)宅地を取得した親族が相続開始前3年以内に日本国内にあるその親族、その親族の配偶者、その親族の3親等内の親族又はその親族と特別の関係のある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前に被相続人が住んでいた家屋を除く)に居住したことがないこと。
  • c)相続開始時に、その親族が居住している家屋を相続開始前のいずれかの時においても所有していたことがないこと。
  • d)相続開始時から相続税の申告期限まで、引き続きその宅地等を保有していること。

(Ⅱ)被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等

  1. 被相続人の配偶者が取得したもの
    …条件は無し
  2. 被相続人と生計を一にしていた親族が取得したもの
    …相続開始時から相続税の申告期限まで、引き続きその宅地等を保有し、かつ、その宅地 等の上に存する建物に居住していること。

(Ⅲ)要件の確認の際の注意点

(1)被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が2以上ある場合

  • ① 被相続人の居住の用に供されていた宅地等が2以上ある場合
    …被相続人が主として居住の用に供していた1の宅地等が1つだけ対象となります。
  • ② 被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等が2以上ある場合
    …その親族が主として居住の用に供していた1の宅地等が1つだけ対象となります。
  • ③ 被相続人及びその被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等が2以上ある場合
    …被相続人が主として居住の用に供していた1の宅地等及びその親族が主として居住の用に供していた1の宅地等が2つ対象となります。この場合は、居住用宅地等は1つとはならず、それぞれが他の要件を満たしていれば、どちらも限度面積の範囲内で適用を受けることが出来ます。

「主として居住の用に供していた1の宅地等」とは、生活の拠点として使用していた家屋となり、社会通念に従い、相続開始の直前における現況において総合的に判断します。そのため、いわゆる別荘は該当しないものとなります。

(2)「被相続人の居住の用」には、被相続人の居住の用に供されていた宅地等が、養護老人ホームへの入所などの一定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合には、その事由により居住しなくなる直前の被相続人の居住用の宅地等を含みます。

ⅳ.貸付事業用宅地等

(Ⅰ)被相続人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限る。)の用に供されていた宅地等

  1. 相続税の申告期限までにその宅地等の上で営まれていた被相続人の貸付事業を引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を営んでいること。
  2. 相続税の申告期限までその宅地等を保有していること。

(Ⅱ)被相続人と生計を一にする親族の貸付事業の用に供されていた宅地等

  1. 被相続人と生計を一にする親族が相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で貸付事業を営んでいること。
  2. 相続開始時から相続税の申告期限までその宅地等を保有していること。

(Ⅲ)要件の確認の際の注意点

相続開始前3年以内に開始した新たな貸付事業の用に供されていた宅地等は、貸付事業用宅地等の範囲から除外される。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて貸付事業(準事業以外)を行っていた被相続人等のその貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内であっても貸付事業用宅地等該当に該当する。
貸付事業用宅地等の適用にあたっても、上記1.に記載の特定事業用宅地等と同様に相続の直前に貸付事業を開始した節税を目的とした駆け込みの様な適用を認めない趣旨で制限されることになりますが、そもそも、被相続人が相続開始の日までの間に3年を超えてずっと不動産投資をして生計を立てていたような場合には、新しい投資物件としたのがたまたま3年以内だっただけと考えて、特例の適用対象となります。

Ⅲ.特例の適用対象となる限度面積と減額される割合

相続人等が取得したこれらの宅地等のうち小規模宅地等の特例の適用を受けた宅地等については、相続税の課税価格に算入すべき評価額は、限度面積までの部分について、次に掲げる種類に応じた割合を乗じて金額を減額して計算した金額とされています。

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小規模宅地等の特例は、適用対象となる宅地等ごとに限度面積が定められており、該当の宅地等が複数ある場合には、以下のいずれに該当するかに応じて、限度面積が決まることになります。

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提供:税理士法人 令和会計社

TEL:03-3231-1858(代表)
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