不動産投資コラム

投資物件を売却するべきベストなタイミングは?

アベノミクスによる景気の回復や金融緩和により、不動産を所有することができる人が増え、ここ最近は特に物件価額が高騰しています。私の事務所でも最近相談として多いのが、売却に関する内容です。

「需要>供給」の現状から考えると、売主有利な状況にあることは間違いありません。しかし、本当に今不動産を売却した方がいいのか、しばらく持ってから売却した方がいいのか、それともずっと持ち続けた方がいいのか、悩まれたことはないでしょうか?
もちろん、そこに正解はありませんが、このコラムで考え方だけでもお伝えしたいと思います。

誤った物件売却の考え方 その1

不動産を数年前に購入された方は、「買ったときよりも高く売れるから売りたい」と思われる方が多いのではないでしょうか。確かに、購入時の価額と売却価額とを比較するのは一つの基準にはなりますが、決して合理的な判断基準とは言えません。この考え方ですと、「購入時の価額>売却価額」となったら、売却しない方がいいということになってしまいます。しかし、取得してから10年も経てば、ほぼすべての物件が「購入時の価額>売却価額」となります。それでも売却した方がいいケースは十分あります。

また、「購入時の価額<売却価額」であったとしても、仲介手数料や登録免許税、不動産取得税などを払っているので、購入してすぐの売却ですと結果的にあまりお金が残らない可能性もあります。

ですので、購入時の価額と比べるのはシンプルでわかりやすくはありますが、判断基準としてはあまり優れていません。

誤った物件売却の考え方 その2

事務所へ相談に来られた方の中にもいらっしゃいましたが、「今すぐ売るべき」か「しばらくしてから売るべき」か、を検討される際に「今売れば、○年分のキャッシュフローが手元に残る」という考え方を持たれている方がいます。その考え方自体に間違いはないのですが、それだけで判断してしまうと失敗してしまうかもしれません。

例えば、年間税引後のキャッシュフローが1,000万円の物件を今売却すれば、3億円(残債は現在2億4,000万円とします)、5年後に売れば2億5,000万円で売却できると仮定。売却にかかる経費は1,000万円とします。今売却した場合、3億円-2億4,000万円(残債)-経費1,000万円=5,000万円のお金が手元に残るということになります。

一方で、物件を売却せず、5年間持ち続けると毎年1,000万円ずつ手元に残ります。ですので、今売却すれば「5年分のキャッシュフローが一気に手元に入る」ということになります。

と、ここまではいいのですが、これだと「今売却する場合」と「5年間持ち続けて5年後に物件を売却する場合」とで手元に残るお金は同額であるかのような錯覚に陥ってしまいます。これは、「5年後の売却によるキャッシュフロー」が抜けているからです。

そこで、問題になるのが売却価額です。3億円から2億5,000万円へ下がるのであれば、売却価額が下がる分を毎年のキャッシュフローで回収しているだけであり、やはり今売却した方がいいのではないかと思われるかもしれません。

しかし、それとともに、残債も減っていきます。当たり前の話ですが、この「残債が減る」ということを考慮されていない方がとても多いのです。仮に、年間800万円の元本を返済しているとすると、5年後の残債は2億4,000万円-(800万円×5年)=2億円となります。5年後に売却した場合、2億5,000万円-2億円(残債)-1,000万円(経費)=4,000万円となります。

つまり、今売却した場合の5,000万円が手元に残りますが、5年間保有してから売却した場合、1,000万円×5年+4,000万円=9,000万円が手元に残るということになります。

今売却した場合 5年後売却した場合
売却価額 3億円 2億5,000万円
経費 1,000万円 1,000万円
残債 2億4,000万円 2億円
売却時キャッシュフロー 5,000万円 4,000万円
保有時キャッシュフロー 0円 5,000万円
トータルキャッシュフロー 5,000万円 9,000万円

「売却時のキャッシュフロー」と「保有時の年間税引後キャッシュフロー」だけで考えてしまうと誤った判断をしてしまいます。

考えてみると当たり前の話。この年間税引後キャッシュフローというのは借入の元本を返済した後の金額ですが、仮に借入の期間が短く、返済額が高く、税引後キャッシュフローが0円だとした場合、売却時のキャッシュフローが1円でも出たら売却すべきか?というと、そうではないですよね。難しい話ではないのですが、意外に盲点なので、売却をお考えの方は注意してください。

正しい物件売却の考え方

さて、ここからが本番です。ここまで誤った物件売却の考え方を説明してきましたが、実はある要素が抜け落ちています。それは「時間軸」です。

お金というのは、今の1,000円と10年後の1,000円では価値が異なります。もちろん、明治、大正、昭和と比べると、平成に入ってからは物価上昇という影響はほとんどないかもしれません。しかし、お金の時間価値というのは人によって異なります。

「物価が変わらなければ、お金の価値は変わらない」と思われるかもしれませんが、それはお金をそのまま置いていた場合のことです。家のタンスにそのままお金を置いていたら、お金の価値は変わりませんが、このコラムをお読みの方はおそらくこれからも投資をしていこうと考えられている方でしょう。

投資するということは、元の資金を投下して、増やすということです。つまり、1年目にお金が手に入れば、それが数年後には倍以上に増えているかもしれません。ということは、1年目に得た5,000万円を次の投資で運用し増やすことができれば、その利回りにもよりますが「今売却した場合の5,000万円>5年後に売却した場合の9,000万円」という現象が起こるかもしれません。

普段から事業や投資をしていなければこの考え方が抜け落ちる可能性があります。時間軸は、私の事務所に来られるほぼすべての方が考慮されていません。上限を決めて投資をする人であればそれでよいかもしれませんが、投資先を持っている方や投資先を見つけようとしている方であれば、この考え方は必ず持っておいてください。

結局、上記の具体例で考えると、物件の内容によりますがフルローンなどで1棟物を購入できれば、3年ほどで自己資金を倍にすることも可能ですので、不動産の投資先があるのであれば、今すぐ売却して自己資金を厚くし、次の投資へ備える方が、5年間保有するよりも賢いと言えるでしょう。

ただし、昨今の物件の価額高騰で、なかなか投資先が見つからない方にとっては今売却するのはベストではないかもしれません。その他検討すべき事項としては、売却価額の推移、大規模修繕が発生する可能性、賃料の推移などでしょうか。

もちろん、その中に含まれますが、金利の推移や融資条件の変更は外せません。売却を考える際は様々な角度から検討し、今売却すべきなのか、それともしばらく持っておくべきなのかじっくりと判断していただければと思います。

次回は、節税対策を念頭においた土地と建物の買価の決め方について紹介したいと思います。

塩田 雅人
塩田 雅人

塩田 雅人不動産投資 専門税理士

不動産投資に関する税務をさまざまな角度(所得税・法人税・消費税・相続税など)から検討し、トータルでサポートを行う。個人所有物件の法人化や消費税の還付に精通。銀行との良好な関係を築き、顧問先の借り換え提案や金利交渉に力を発揮する。
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