前回のコラムでは、物件購入者の税率によって、不動産投資で最終的に残るお金が変わることなどをお伝えしました。第2回目となる今回は、不動産運営の税金のキモの部分です。それは経費の中でも占める割合が大きくなる減価償却費について。
減価償却費は、お金の支出はないのに、毎年の損益計算で経費にできるという魔法のような経費です。この減価償却費をうまくコントロールできると、税金もコントロールすることができるので、しっかりと押さえてくださいね。
減価償却費の仕組みとは?
不動産運営の3大経費は、固定資産税、借入金利、減価償却費です。なかでも減価償却費は物件によってかなり大きくなることもあり、僕が持っているマンションでも、経費の3割を占めています。だからこそ、この減価償却費をコントロールすることができると、税金をコントロールすることができるようになります。
減価償却費とは簡単に言うと「モノの劣化代」です。だから劣化しない土地は減価償却費が計上できなくて、時とともに朽ちていくものだけ減価償却費を計上することができます。
では、この減価償却費の仕組みはどうなっているのでしょう?
モノには耐用年数があります。そして、税法にも減価償却費を計算するために、モノによって耐用年数が決められていて、建物も構造ごとに耐用年数が決められています。
構造別の耐用年数:鉄筋コンクリート(RC)47年、重量鉄骨34年、木造22年
税法ではこの耐用年数に応じて償却率というものが決められています。
例えば1億円の新築建物の減価償却費を構造別に計算してみます。
- RC:1億円×償却率0.022(耐用年数47年)=減価償却費220万円/年
- 重量鉄骨:1億円×償却率0.030(耐用年数34年)=減価償却費300万円/年
- 木造:1億円×償却率0.046(耐用年数22年)=減価償却費460万円/年
木造はRCの倍以上の減価償却費を年間に計上できますが、気を付けないといけないのは減価償却費を計上できる期間です。
RCだと220万円の減価償却費を47年間計上できますが、木造だと460万円の減価償却費を22年間しか計上できません。
つまり同じ1億円の建物を、RCは47年、重量鉄骨は34年、木造は22年間かけて経費化していくので、耐用年数が短い建物ほど、年間の減価償却費が多くなって利益が減ることになります。その分税金が減って最終的に税引き後キャッシュフローは多くなることになるんですね。>
でも反対にキャッシュフローに大きく影響を与える借入金の借入期間は、建物の耐用年数が短いものほど、それに比例して短くなり月々の返済額が大きくなってキャッシュフローが残らなくなっていくので、借入期間と減価償却費のバランスがとっても重要になります。
中古物件の減価償却費は工夫ができる!
耐用年数によって決まる減価償却費ですが、もし建物が新築ではなく中古だったらどうなるのでしょう?
建物が中古の場合は、原則としてその建物の使用可能期間を見積もることによって耐用年数を決めます。この方法を見積法といいます。
しかし、その建物があと何年使えるかを見積もることはとっても難しいので、税法では中古建物の耐用年数を簡単に算出するための簡便法という方法を決めています。この簡便法の計算方法は2つあります。
1.築年数が耐用年数を超えている場合
耐用年数=法定耐用年数×20%
【具体例】木造の建物(耐用年数22年)で耐用年数を超えている場合
木造の耐用年数22年×20%=4年
2.築年数が耐用年数の一部を経過している場合
耐用年数=(耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
【具体例】RCの建物(耐用年数47年)で10年経っている場合の耐用年数
37年(RCの耐用年数47年-築年数10年)+2年(築年数10年×20%)=39年
では、この耐用年数を使って中古建物の減価償却費を計算してみましょう。
例えば、1億円の土地付き築年数10年のRC物件を購入したとします。
まず、RCで築10年ですので、耐用年数は39年です。
この耐用年数をもとに減価償却費を計算します。耐用年数39年の償却率は0.026です。
しかし、購入した物件は、土地付きの物件なので、1億円を土地と建物に分ける必要があります。
実はここに知っている人だけの知識と知恵が活かされることになります。
減価償却をすることができるのは建物だけです。ということは、1億円のうち建物の割合が高ければ、減価償却費も多くなり、その効果は物件を持っている間、耐用年数が終わるまで続くことになります。
この土地と建物を分ける方法はいくつかあります。先ほどの1億円の物件を例にして分けてみましょう。
1.売買契約書に土地と建物の金額が記載されている場合
売買契約書に土地5千万円、建物5千万円と金額が記載されている場合は、その金額が土地と建物の金額になります。したがって建物の金額は5千万円となり、減価償却費は次のようになります。
建物5千万円×償却率0.026(耐用年数39年)=130万円/年
2.売買契約書に土地と建物の金額が記載されていない場合
売買契約書に土地と建物の金額が総額で1億円と記載されている場合は、合理的な方法で土地と建物の金額を算出しないといけません。
合理的な方法はいくつかありますが、もっとも代表的な方法が、固定資産税評価額を使って按分する方法です。
1億円で購入した物件の固定資産税評価額が土地建物7千万円で、その内訳が土地4割の2,800万円、建物6割の4,200万円だとすると、減価償却費は次のようになります。
土地建物1億円×60%(建物の固定資産税評価額4,200万円÷土地建物の固定資産税評価額7,000万円)=建物の金額6,000万円
この場合の減価償却費は、次のようになります。
建物6,000万円×償却率0.026(耐用年数39年)=156万円/年
さらに、建物の固定資産税評価額に消費税率(1.05)を加算して計算すると、建物割合を約1.1%大きくすることができます。今後、消費税率がアップされると、建物割合もその分高くなりますので、減価償却費を少しでも大きくしたい人には有利な技です。
このように中古物件の場合は、建物の金額をいくらにするかで減価償却費が変わることになります。
したがって、物件を購入する際に、建物の金額を売主さんと交渉して売買契約書に建物価格を記載することによって、購入した後の減価償却費を事前にコントロールすることができることになるのです。
もちろん建物の金額を極端に高くしてしまうと問題はありますが、身内や同族会社ではなく、まったくの他人との取引であれば、交渉でまとまった金額こそがその不動産の時価であり、適正価格ということになります。
このように考えると、不動産投資でお金を残すためには、不動産を購入する前から、もっというと物件を選ぶ段階から、プランを立てて、知識を付けておくことが重要なことがわかって頂けると思います。
減価償却費の逆襲
では、減価償却費は大きければ大きいほど良いのでしょうか?
やはり税法はうまくできていて、この減価償却費が逆襲してくることがあります。
まず先ほど例に出した1億円の物件の減価償却費は、建物価格が6千万円の場合は年間156万円でした。この金額がお金は出ていかないのに、経費として認められます。
それではお金が出ていかない代わりに、何がなくなっているのでしょうか?
実は、6千万円で購入した建物から、この156万円が差し引かれています。ですから購入1年後の建物の金額は、次のようになります。
建物6千万円‐減価償却費156万円=建物5,844万
しかし、建物から減価償却費が差し引かれたとしても、税引き後キャッシュフローには何の影響もありません。それではいつ、逆襲があるのでしょう?
それはこの物件を売ったときです。例えばこの物件を10年後に9千万円で売却したとします。
10年間の減価償却費:156万円×10年=1,560万円
10年後の物件の簿価:土地4千万円+建物6千万円‐減価償却費1,560万円=8,440万円
売価9千万円‐10年後の物件の簿価8,440万円=売却益560万円
「簿価」とは、この物件の帳簿上の金額で、その時の不動産の価値とはまた別のものです。
物件を売却した時には、この簿価を差し引くことで売却益を計算します。
したがって、減価償却費の金額が大きいほど、簿価が少なくなって、売却益が出やすくなるのです。
そして、個人で物件を所有している場合は、不動産所得とは別で譲渡所得税が掛かります。
- 短期譲渡所得(譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下):税率39%
- 長期譲渡所得(譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年超):税率20%
不動産所得に掛かる税率15%の人が、3年後に物件を売却して売却益が出たとします。
3年間の減価償却費累計額:所有時の年間減価償却費156万円×3年=468万円
3年間の節税効果:468万円×15%=70.2万円
3年間の減価償却費累計額456万円は、売却する時には売却益となり、その売却益に対して39%の税率が掛かります。
売却時の納税額456万円×39%=177.84万円
3年間の節税額70.2万円に対して、売却時の納税額が177.84万円なので、トータルすると107.64万円も多く納税しています。
70.2万円-177.84万円=▲107.64万円
このように、毎年の減価償却費を大きくできれば何でも良いという訳ではなく、その人の現在や将来の税率、またその物件の出口戦略によって、減価償却費の戦略も変わってくるんですね。
次回は、不動産運営で金額の大きくなりがちな修繕費について、経費にするための判断基準や、修繕費にした場合の融資審査に与える影響について解説する予定ですのでお楽しみに!