不動産投資コラム

一般的に不動産投資の場合、購入資金の主体は借入金となります。そのため、毎月の家賃収入で借入金が返済できるかどうか、できる場合は支払ったあとにどのくらいの金額が残るのか(プラスのキャッシュフロー)はとても気になるところでしょう。しかし、それだけで終わってはいけません。キャッシュフローが出ても、それは家賃収入から返済を行ったときに一時的に発生したお金というだけです。ローンを支払って残ったお金=収入ではありません。そのお金のうち、どのくらいが実際の収入になるのか、一時的に手元にお金が留まっているたけで実際には収入とはならないのか、その年の確定申告を経なければわからないのです。
 
そこで、今回はキャッシュフローと申告所得について考えてみましょう。

不動産投資のキャッシュフロー=申告所得ではない

大家さんになると家賃は入ってきますが、ローン返済、固定資産税、修繕費、管理費などの支払いも発生します。

「収入(家賃)が入り必要な支払いをしたから、残ったお金(キャッシュフロー)は利益になる」 「利益を上げれば税金を払わなければならないが、税率は高くても50%以上にはならないのだからキャッシュフローさえ残っていれば持ち出しはないのではないか」 と思われる方もいるかもしれません。

でも、そう考えてしまっていたとしたら、これは大きな勘違いなのです。

支払わなければならないお金がすべて必要経費とはならない

では、なぜキャッシュフロー=申告所得とならないのかをご説明します。

まず、収入の面ですが、家賃収入はすべて収入になります。滞納などの場合は未収家賃となり入金されていなくても申告所得では計上しなければならないケースもありますが、一般的には家賃収入=収入と考えれば良いでしょう。問題は必要経費です。

大家さんになって支払わなければならないお金として、たとえば固定資産税などの租税公課、火災保険などの保険料、建物や部屋の修繕費などがあるでしょう。
また管理会社に払う管理費や共用部の電気代などの光熱費もあります。

このような費用は申告時に必要経費として認められている項目ですから、支払った金額=必要経費として計上することができます。しかし、支払ったお金=必要経費とならないものがあります。
それは借入金返済です。

借入金返済で必要経費として認められるのは一部のみ

毎月支払わなければならないお金のうち、借入金返済は大きな割合を占めているはずです。でも支払ったからといって、その金額すべてが必要経費として認められるわけではありません。

青色申告の損益計算書に印字されている必要経費の項目を見ても借入金返済という欄はもちろんありません。関連する項目を捜すと「借入金利子」という項目はあります。

つまり、月々の借入金返済のうち、金利部分のみは必要経費として認めますが、金利以外の部分、つまり元本返済の部分は必要経費とはならないのです。

返済金の中で元本部分は必要経費とならない、つまり毎月返済のためにお金が出て行ってしまうけれども、その部分は収入として計算されてしまうということなのです。

税金返済でキャッシュアウトの可能性もある

では、具体的に理解しやすくするため、簡略化した例でお話します。

総投資額 5,000万円
借入金額 5,000万円
借入金利 2.8%(元利均等)
支払年数 20年
年間返済金額 330万円(一年目 金利140万円 元金返済190万円)
必要経費控除後の年間家賃収入 350万円

この場合、年間家賃収入350万円に対して借入金の年間返済額は330万円なので、表面上キャッシュフローは20万円のプラスとなります。

しかし、キャッシュフロー20万円に対して、申告所得は210万円(家賃350万円-金利140万円)となりますので、税率が20%の場合、42万円の税金を支払うことが必要になります。

キャッシュフローは20万円でしたので
 20万円-42万円=-22万円
となり、結果として22万円のキャッシュアウトという結果になるのです。

建物減価償却費がキャッシュフローを改善する

しかし、この計算には重要な必要経費の金額が考慮されていません。それは建物減価償却費です。

減価償却費については前回のコラムでもお話しました。お読みいただいている方は「また出てきた」と思われるかもしれませんね。
でも、不動産投資の収支を考える際にはこの建物減価償却費が重要なポイント、いわばツボの部分なのです。

たとえば、上記条件で
建物 築15年 鉄骨
評価額1,500万円

であれば、一年間の建物減価償却費として約70万円が計上できます。

そうすると申告所得は約140万円(家賃350万円-金利140万円-減価償却費68.3万円)となり税率が20%であれば税金は28万円に縮小します。キャッシュアウトも概算で22万円から8万円に改善します。

さらに上記条件で
建物 築15年 鉄骨
評価額3,000万円

だったらどうなるでしょう。

申告所得は約74万円(家賃350万円-金利140万円-減価償却費136.5万円)となりキャッシュフローも約5万円のプラスに転じるのです。

良好なキャッシュフローと申告所得の関係を作ろう

このように、借入金の元金返済という"出て行ってしまうけれども収入としては残ってしまうお金"の一部は建物減価償却費の計上によって緩和することができます。

しかし、減価償却費はすべて万能ではありません。
なぜなら、建物部分は減価償却の対象となっても土地部分は対象とはならないからです。
借入金主体の投資においては、土地の割合に対する元金返済部分は総返済期間を通して計算したとしても、必要経費には絶対にならないのです。

そのため、家賃に対して返済金も含めて支払う必要のあるお金を支払ったあとの残金(キャッシュフロー)が申告所得よりも少なくなってしまう場合には、まずは申告所得とキャッシュフロー金額を近づけることが必要になります。

投資総額に対して借入金の割合が大きい場合は、この現象が顕著に現れることがありますので、購入後の借入金返済はこのバランスに着目し、状況によって繰り上げ返済なども行い改善を図っていくことが大切です。

沢 孝史
沢 孝史

沢 孝史

1959年生まれ。サラリーマンとして勤めながら、不動産投資を開始。現在8棟のアパートとマンション2棟を所有、年間家賃収入は6,000万円となる。著書に、「不動産投資を始める前に読む本」(筑摩書房)他。
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