不動産投資コラム

第一種市街地再開発事業に係る権利変換が行われた場合の所得税の特例

1. 第一種市街地再開発事業とは

市街地再開発事業とは、都市再開発法に基づいて行われる都市計画事業であり、低層の木造建築物が密集していたり、土地の利用状況が不健全な市街地において、道路や公園などの公共施設の整備と共同建替えなどを総合的に行い、土地の高度利用や都市機能の向上を目的としています。(参考:国土交通省都市局HP)

市街地再開発事業のうち、「第一種市街地再開発事業」は、一般に「権利変換方式」と言われ、市街地再開発事業が行われる区域の土地建物等の所有者(下図ABC)などに、その土地建物等を手放す代わりにその資産価値に見合う再開発ビルの床に関する権利(権利床)を与える(=権利変換)と共に、土地の高度利用によって生み出される新たな床(保留床)を他(下図X)へ売却することにより、建築費などの事業費用を回収する手法です。

第一種市街地再開発事業では、権利床を取得しないで、再開発区域における個別利用区内の宅地等を取得する方法もあります。「個別利用区」とは、再開発ビルの敷地以外の区域で既存の建築物を存置又は移転して活用させる区域です。

一定の建築物の所有者が申出をすることにより、従前の土地が、再開発ビルの権利床ではなくこの個別利用区内の宅地等に権利変換され、所有している建築物をそのまま、又はそこに移転して使用します。

この場合、所得税の計算上、下記2において権利床を取得した場合と同様の取り扱いとなります(都市再開発法(都開法)7条の11、70条の2)。


出典:国土交通省都市局HP

2. 個人が第一種市街地再開発事業により権利床を取得した場合の所得税の特例(図ABC)

(1)基本的取り扱い
個人が第一種市街地再開発事業により、権利変換を受けた場合には、土地建物等の譲渡はなかったものとみなされ所得税の課税が繰延べられます。取得した権利床は、従前の土地建物等の取得時期及び取得価額を引き継ぐこととなります。


この特例は納税者の選択の有無に関わらず強制的に適用されることから、所得税の申告手続きは不要です(租税特別措置法(措法)33条の3第2項、33条の6)。


(2)清算金が支払われる場合
従前の土地建物等の価額が権利床の価額よりも多いため支払われる清算金(都開法104条第1項、118条の24)がある場合には、原則として従前の土地建物等の清算金に相当する部分の譲渡があったこととなり、所得税が課税されます。


しかし、その清算金が支払われた場合には、措法33条第1項に定める収用等による譲渡があったものとみなされ、譲渡所得の金額の計算上次の(1)と(2)のいずれかの特例の適用を受けることができます(措法33条の3第3項、33条の4)。


(1)は清算金により代替資産の取得をした場合に限りますが、(2)は代替資産の取得の有無は問いません。なお、いずれの場合も、原則として確定申告が必要です。


(1)収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の繰延べの特例(措法33条)
清算金により代替資産を取得し、清算金額よりも代替資産の取得価額の方が多い場合、所得税の課税が繰り延べられ、権利変換日の年の譲渡はなかったものとされます。清算金よりも代替資産の取得価額の方が少ない場合、その差額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。この特例の適用を受けるには次の全ての要件を満たす必要があります。


(イ)権利変換の対象資産が固定資産であること
(ロ)原則として同じ種類の資産を取得すること
(ハ) 原則として清算金を受け取ることとなった日から2年以内に代替資産を取得すること


(2)収用等の場合の特別控除(措法33条の4)
譲渡所得の金額から、最高5,000万円までの特別控除を差し引くことができ、次の全ての要件を満たす必要があります。


(イ)権利変換の対象資産が固定資産であること
(ロ)その年にその他全ての収用事業により譲渡した資産の全部につき①の適用を受けていないこと
(ハ)買い取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物等を譲渡していること
(ニ)再開発事業の施行者から最初に買い取り等の申出を受けた者(その者より相続又は遺贈により当該資産を取得した者を含む)が譲渡していること
(ホ)同一の再開発事業に係る資産の譲渡が二以上の年にまたがる場合、最初の年の譲渡であること

税理士法人タクトコンサルティング

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