【問】 乙さんは、平成29年12月に亡父からの相続により家屋Cと宅地Dの持分3分の2を取得し、乙さんの弟は宅地Dの持分3分の1を取得しました。家屋Cは、亡父が昭和54年に自宅として建築した一棟の建物で、宅地Dは家屋Cの建築の際に亡父が購入したその敷地です。 亡父は、平成25年の乙さんの母の死亡後、相続開始直前まで一人で家屋Cに居住していました。父の死亡後、相続人である乙さんと弟は家屋Cをずっと空き家にしており、宅地Dも特に使用していません。乙さんは平成30年1月に家屋Cを取壊し、弟とともに同3月に宅地Dを上場会社の(株)Yに対価1億2,000万円で譲渡しました。 乙さんは、宅地Dに係る譲渡所得の金額が多額になることから、その所得税の計算上、租税特別措置法(措法)35条3項2号の「相続した空き家を取壊し後、同じく相続したその敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除」(以下「2号特例」)の適用を受けたいと考えています。 2号特例の適用を受けるための要件の一つに、「特例の対象となる資産の譲渡対価が1億円を超えないこと」がありますが、乙さんのように譲渡資産(宅地D)の一部(持分3分の2)のみが2号特例の対象資産(=亡父の居住用家屋の敷地)である場合、譲渡対価のうち2号特例の対象資産に対応する額(1.2億円×2/3=8,000万円)が1億円以下なので、2号特例の適用を受けることができますか。 |
【回答】
1. 結論
乙さんの2号特例の対象資産(=平成29年に亡父から相続した宅地Dの持分3分の2。以下「対象資産」)の譲渡と同じ年に、乙さんの弟が、対象資産と一体的に被相続人(亡父)が居住していた家屋Cの敷地として使用されていた土地(後述2(2)において「対象資産と一体の敷地」という。)である、亡父から相続した宅地Dの持分3分の1を譲渡しており、これら2つの資産の譲渡対価の合計額が1億円を超えていることから、乙さんは2号特例の適用を受けることができません。
2. 解説
(1)2号特例の概要
相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたもの(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下同じ。)により取得した個人(本問では乙さん)が、被相続人居住用家屋を取壊した後にその敷地を譲渡した場合には、その譲渡対価が1億円を超えるものを除き、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除することができます(措法35条3項2号。なお適用要件の詳細は本紙№684をご参照)。
(2)「譲渡対価が1億円を超える」かどうかの判定における追加要件
2号特例の適用において、上記(1)の「譲渡対価が1億円を超える」かどうかを判定する場合には、次の①及び②の要件もあわせて考慮する必要があります。
①その相続又は遺贈により被相続人居住用家屋又はその敷地を取得した個人(以下「居住用家屋取得相続人」)が、対象資産を1億円以下の対価で譲渡した場合に、その年中に「居住用家屋取得相続人」が対象資産と一体の敷地を譲渡した場合は、これら譲渡対価の合計額が1億円を超えないこと(同5項)。
②居住用家屋取得相続人が対象資産を1億円以下の対価で譲渡した後、その譲渡の翌年以降 3年目の年末(以下「制限期間」)までに対象資産と一体の敷地を譲渡した場合は、1回目の譲渡対価(1回目の譲渡をした年中に2回目の譲渡をしたときは、2回目の譲渡対価も含む。)と、制限期間内の全ての対象資産と一体の敷地の譲渡対価の合計額が、1億円を超えないこと(同6項)。
上記「居住用家屋取得相続人」には、被相続人居住用家屋の敷地のみを相続又は遺贈により取得した相続人も含まれます(措法通達35-21)。本問の場合、乙さんのほか、乙さんの弟も(被相続人居住用家屋である家屋Cを取得しないため2号特例の対象にはならないものの)、「居住用家屋取得相続人」に該当します。
(3)本問へのあてはめ
居住用家屋取得相続人である乙さんと弟が宅地Dの譲渡で得た1億2,000万円は、<「対象資産」の譲渡対価>と、<「対象資産と一体の敷地」の譲渡対価>の合計額であり、これが1億円を超えるため上記(2)①の要件を満たすことができません。したがって乙さんは、平成30年分の所得税の計算上、2号特例の適用を受けることができません。