今回は青色申告の主な特典や手続き及び青色申告に必要な帳簿の記帳についてご説明いたします。
青色申告の特典
青色申告を選択すると主に次のような特典が受けられます。
まけてもらえる① 青色申告特別控除が使える
アパート・マンション経営を、事業的規模(一般的には、10室以上あるアパートの賃貸等、貸家なら5棟以上)で行っていて、簿記のルールに基づいて記帳、作成した賃借対照表と、損益計算書を添付して申告期限内に提出している場合には、原則として所得から最高65万円が青色申告特別控除として控除されます。
なお、事業的規模に満たない場合でも簡便な記帳で10万円を控除することが認められます。
まけてもらえる② 家族を従業員(青色事業専従者)にすると、給料を全額経費にできる
事業的規模のアパート・マンション事業に従事している家族に給料を出す場合、白色申告※1なら実際に出した給与の金額にかかわらず、必要経費にできるのは配偶者が86万円、子どもは50万円までの事業専従者控除額に限られます。
これに対して事業的規模の青色申告者の場合、届出書に記載された金額の範囲内で及び労働に対する対価として相当である金額に限られるものの、給与として出した金額が経費になります。
なお、青色事業専従者※2として給与の支払いを受ける人については、配偶者控除や扶養控除の対象とはならなくなります。
※1青色申告制度を使わない通常の申告は白色申告と言います。
※2青色事業専従者とは、次の要件のいずれにも該当する人をいいます。
①青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
②その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
③その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
まけてもらえる③ 純損失の繰越と繰戻
アパート・マンション経営による所得が赤字になり、他の所得と損益通算しても純損失が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって、各年分の所得から差し引くことができます。
ただし、損失のうち、土地等を取得するためにかかった負債の利子の金額については、損益通算の対象になりません。つまり、損失の額が負債の利子の額を超える場合、その超えた部分の額が損益通算の対象となります。
また、前年も青色申告をしている場合は、損失額を前年の所得から差し引き、前年分の所得税の還付を受けることもできます。
まけてもらえる④ 30万円未満の物品が全額経費にすることができる!
10万円以上の減価償却資産は耐用年数に応じて経費化が必要になりますが、青色申告であれば「少額減価償却資産の特例」を受けることができます。これは30万円未満のものであれば、その事業年度の経費として一括で処理することができるという特例です。ただし、この特例の合計限度額は年間300万円までなので注意しておきましょう。(2018年3月31日までの取得の時限措置)
その他減価償却資産の償却が法定の償却額より多く経費にできる特例など、青色申告であれば優遇される特例が数多くあります。
※減価償却資産とは、備品類(パソコン・電話機・FAX等)や車両など、時間の経過により価値が減少する物です。
青色申告を受けるためには
続いて青色申告を受けるために必要な手続き及び要件についてです。
提出期限 | ||
新規オ-ナ- | 既存オ-ナ- | |
青色申告書承認申請書 | 1月1日~1月15日までに開業した場合→その年の3月15日までが提出期限 ※その年の1月16日以後に新規に事業を開始した場合は、開始日から2か月以内が提出期限 |
その年の3月15日までが提出期限 |
青色事業専従者給与に関する届出書 | 1月1日~1月15日までに開業した場合→その年の3月15日までが提出期限 ※その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合や新たに専従者がいることとなった場合には、その開始した日や専従者がいることとなった日から2か月以内が提出期限 |
その年の3月15日までが提出期限 ※その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合や新たに専従者がいることとなった場合には、その開始した日や専従者がいることとなった日から2か月以内が提出期限 |
①青色申告承認申請書の提出
青色申告をするためには、管轄の税務署に申請書を提出し承認を受ける必要があります。一般的には開業時に開業届と一緒に提出されるケースが多く見受けられます。表1は青色申告の関連書類の提出期限をまとめたものです。新規オーナーの場合には事業を開始した日から2か月以内に申請が必要です。
②正確に帳簿をつける
青色申告者には上記の特典を受ける条件として「定められた帳簿を備え正確に記帳する」「帳簿に基づいて青色申告決算書を作成する」「帳簿を7年間保存しておく」ことが求められます。多少の手間はかかりますが、正確に帳簿をつけることは青色申告の為のみならず、現在の経営状況を把握するためにも絶対に必要なものです。
ただしあまり難しく考えないでください。次の項目では、アパート・マンション経営者が青色申告を受けるための、簡単にできる帳簿の記帳(作成)について伝授します。
青色申告を受けるための帳簿の記帳
①アパート・マンション経営に必要な帳簿と作成の仕方
アパート・マンション経営で用意すべき帳簿は①「現金出納帳」②「普通預金台帳(普通預金通帳で代用)」③「売上帳(賃料収入台帳)」④「経費帳」⑤「固定資産台帳」など多岐にわたっていますが、実は①「現金出納帳」と②「普通預金通帳」とでほぼ完成です。
アパート・マンション経営のほとんどは、その取引をお金の流れで表すことができます。
・賃料の入金があった
・給料を支払った
・経費を支払った
・固定資産を購入した
賃借人からは賃料を毎月受領します。最近は回収経費の節約や事故防止などの関係で、ほとんどが銀行振込です。経費の支払いや固定資産の購入は、少額のものであれば現金で、金額が大きい場合や給料は普通預金から振込で支払います。そうすると、事業所には最低限の現金しか置く必要がありません。
この最低限の現金取引を記載する帳簿が現金出納帳、その他の取引はすべて普通預金通帳に記載されます。この2つの帳簿で取引の90%以上が記録として残ります。
続いて預金通帳・現金出納帳をもとに、売上帳、経費帳、固定資産台帳へ記入していきます。売上帳は賃料収入台帳で、賃貸物件別に、部屋ごとの家賃の入金日と金額を記入していきます。入金の滞りがないかどうかの確認に必要です。
また経費帳とは仕入れ以外に支払った経費を項目別に集計する帳簿、固定資産台帳は資産ごとに減価償却費の計算をするための帳簿です。
ここまでの記入で、もう必要な帳簿への「簡易簿記(簡便な記帳)」が完成です。
この簡易な記帳で最初にお話しした青色申告特別控除の10万円の控除を受けることができます。
いかがでしょうか。思ったより簡単な作業ではないでしょうか。
因みに「簡易簿記」とは、上記5つの帳簿で把握できる取引のみを記帳するものです。そのため、借入金やその他の取引の記帳はなされません。借入金の残債がどれほどあるかは、別途管理しなければなりません。
一方、「複式簿記」という記帳によると、損益計算のほかに資産、負債・元入金等のすべてを表す賃借対象表を作成することになります。
今回は、複式簿記についての詳しい説明は省きますが、複式簿記を選ぶことによって、前述の青色申告特別控除が最大65万まで受けられるようになります。10万円の控除しか受けられない簡易簿記(簡便な記帳)に比べ、節税上のメリットが大きくなります。
複雑に見える複式簿記も市販の経理ソフト等を使用すると簡単に作成可能ですので、アパート・マンション経営の規模が拡大していくのであれば、早めに複式簿記に挑戦していただくのがお勧めです。
② 帳簿の記帳にあたっての注意点~経費と家事費の区分をしっかり行いましょう
帳簿の記帳(作成)方法等がわかったところで、経費と家事費の区分についてお話します。
アパート・マンション経営では、普通預金通帳を個人用と事業専用に分けるのが一般的です。これは、個人的な支払はアパート・マンション経営の必要経費にはならないとの理由からです。この必要経費となるかならないかの基準は「事業関連性」と「妥当性」で判断します。
「事業関連性」とは、その支払が、その売上(賃料収入)を得るために必要なものであることを言います。
例えば、建物の修繕費を支払ったとしましょう。その建物が、賃貸物件の場合には、賃料収入に関係しているものとして必要経費となります。しかし、修繕した建物が自宅であれば、賃料収入には関係ないので必要経費にはなりません。
「妥当性」とは、金額などが事業の内容などから判断して妥当なのかどうかということです。
アパート経営者が、希少性の高い高額な車を購入して賃貸物件の管理に使用するという理由には妥当性がありません。
要するに、事業している本人が「この支払は自分の事業に関わるものであるかどうか」を判別することが判断基準になるのです。
▼必要経費として認めてもらう証拠を残す
必要経費として認めてもらうにはきちんと証拠を保存しておかなければなりません。領収書を保存するのはもちろんのこと、飲食代の場合には、得意先名や担当者、人数なども明らかにしておく必要があります。これらのことを現金出納帳の摘要欄に記入しておきましょう。もっとも、個人的な支払か、事業的支払かの判断に迷うような支払もあります。
例えば、携帯電話の通話料です。個人用と事業用と2つ持っていれば問題なく区分できるのですが、1つの携帯電話では、個人的な通話料と事業としての通話料が混ざってしまっています。このよう場合、携帯電話の利用明細書からプライベート分と事業分に分けるのが難しい際には自分で合理的な使用割合を決めて按分する方法でも構いません。
▼必要経費にならない「家事費」があります
事業に関係のない支払は「家事費」と言われます。家事費はいくら支払っても必要経費にすることはできません。代表的なものには食費や自宅の家賃などの生活費等、所得税や住民税などの税金等、国民健康保険等の保険料があります。
最後にアパート・マンションオーナーの帳簿の記載の流れ等を図にまとめました。
青色申告の特典やその条件に付いてご理解いただけたでしょうか。
これを機に、是非青色申告に挑戦をしてみてください。
次回コラムは「【はじめての確定申告】どんなものが必要経費になるの?」について解説いたします。