与党は昨年12月に『平成30年度税制改正大綱』を決定しました。働き方の多様化を踏まえ、様々な形で働く人を応援する等の観点から個人所得課税の見直しを行うとともに、デフレ脱却と経済再生に向け、賃上げ・生産性向上のための税制上の措置及び地域の中小企業の設備投資を促進するための税制上の措置などが講じられています。
今回は、アパ-ト・マンションオ-ナ-に関係する税制改正の内容、特に個人所得課税の税制改正の内容についてご紹介していきます。
アパ-ト・マンションオ-ナ-に関係する税制改正の内容、個人所得課税の税制改正の内容について
1.青色申告特別控除について、次の見直しが行われます。(平成32年から)
(1)取引を、正規の簿記に従って記録している個人事業主が受けられる青色申告特別控除の控除額を55万円に引き下げる。
(2)ただし、上記①の取引を正規の簿記に従って記録している個人事業主であって、次に掲げる要件のいずれかの場合には青色申告特別控除の控除額を従来通りの65万円とする。
- ①その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿を電磁的記録の備付け及び保存を行っていること。
- ②その年分の所得税の確定申告、貸借対照表及び損益計算書の提出を、電子情報処理組織(電子申告のe-Tax)を使用して行うこと。
事業所得又は不動産所得((注)事業的規模) | 【改正前】 | 【改正後】 |
---|---|---|
簡易簿記・現金主義者 | 10万円 | 10万円 |
正規の簿記の原則(複式簿記)での記録者で上記(2)の要件を満たす場合 | 65万円 | 65万円 |
正規の簿記の原則(複式簿記)での記録者で上記(2)の要件を満たさない場合 | 65万円 | 55万円 |
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
【解説】
上記の見直しは、電子帳簿保存、電子申告制度を普及させるための改正と考えられます。
(注)不動産所得における事業的規模の判断は、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているか どうかによって、実質的に判断します。ただし、建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。
- ①貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
- ②独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
青色申告については第3回コラム「税金を「まけてもらえる」お得な制度!? アパート・マンション経営でおトクな青色申告とは?」をご参照ください
2.少額減価償却資産の特例の適用期限が平成32年3月31日まで2年間延長
【解説】
この制度は、青色申告者が少額減価償却資産(取得価額30万円未満の減価償却資産)を取得した場合に、その取得価額相当額を1年間で合計300万円まで損金算入することができる制度です。
この制度の適用を受けるためには、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付することが必要とされています。ただし、青色申告決算書の「減価償却費の計算」(決算書3ペ-ジ)欄に次の事項を記載して確定申告書に添付して提出し、かつ、当該少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管することにより適用を受けることができます。
- ①取得価額欄・・・少額減価償却資産の取得価額の合計額を記載
- ②摘要欄・・・措法28の2と記載
- ③償却の基礎になる金額欄・・・明細は別途保管と記載
3.基礎控除額が一律10万円引き上げられます。
3.基礎控除額が一律10万円引き上げられます。
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
税目 | 基礎控除額 | |
【改正前】 | 【改正後】 | |
所得税 | 38万円 | 48万円 |
住民税 | 33万円 | 43万円 |
4.合計所得金額が2,400万円(給与収入金額2,595万円)を超える個人については、その合計所得金額に応じて控除額が次第に減少し、合計所得金額2,500万円(給与収入金額2,695万円)を超える個人については基礎控除が適用できないこととされます。
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
合計所得金額 | 基礎控除額 | |
【所得税】 | 【住民税】 | |
2,400万円以下 | 48万円 | 43万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 32万円 | 29万円 |
2,450万円超 2,500万円以下 | 16万円 | 15万円 |
2,500万円超 | 0万円 | 0万円 |
5.給与所得控除の上限が195万円に見直されます。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | |
【改正前】 | 【改正後】 | |
162.5万円以下 | 65万円 | 55万円 |
162.5万円超 180万円以下 | 収入金額×40% | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超 360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超 850万円以下 | 収入金額×10%+120万円 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 | 195万円 |
1,000万円超 | 220万円(上限) | 195万円(上限) |
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
【解説】
給与所得控除額は10万円引き下げられますが、基礎控除額が10万円引き上げられるため、給与収入850万円以下の場合は、改正後においても税負担は変わりません。ただし、給与収入850万円超でも下記6の「所得金額調整控除」により税負担は変わらない場合があります。
6.給与収入金額が850万円を超える場合であっても、一定の要件に該当する場合は、負担増が生じないように調整措置がとられます。(所得金額調整控除)
- 【対象者】
- ・特別障害者に該当するもの
- ・年齢23歳未満の扶養親族を有するもの
- ・特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有するもの
【算式】
- {給与等の収入金額(1,000万円を超える場合は1,000万円)-850万円 }×10%
※住民税も同様となります。
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
【解説】
給与収入金額850万円超で介護・子育て世帯でない場合は、税負担が増加します。また、介護・子育て世帯でも給与収入が2,400万円を超えると基礎控除額が減少するため税負担が増加します。
7.公的年金等控除について、次の見直しが行われます。
- ①公的年金等控除が一律10万円引き下げられます。
- ➁公的年金等の収入金額は1,000万円を超える場合の控除額については、195万5千円の上限が設けられます。
- ➂公的年金等に係る雑所得以外の所得の合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下の場合に、控除額を上記①及び➁の見直し後から更に一律10万円引き下げられます。
- ④公的年金等に係る雑所得以外の所得の合計所得金額が2,000万円超の場合には、控除額を上記①及び➁の見直し後から更に一律20万円引き下げられます。
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
公的年金等の収入金額(A) | 公的年金等控除額 | |
【65歳未満】 | 【65歳以上】 | |
130万円未満 | 70万円 | 120万円 |
130万円以上 330万円未満 | (A)×25%+37.5万円 | |
330万円以上 410万円未満 | (A)×25%+37.5万円 | |
410万円以上 770万円未満 | (A)×15%+78.5万円 | (A)×15%+78.5万円 |
770万円以上 | (A)×5%+155.5万円 | (A)×5%+155.5万円 |
【解説】
公的年金等控除額は10万円引き下げられますが、基礎控除額が10万円引き上げられるため、公的年金等に係る雑所得以外の所得の合計所得金額が1,000万円以下の場合は、改正後においても税負担は変わりません。
8.基礎控除、給与所得控除の見直しに伴い各所得控除の合計所得金額について、次の見直しが行われます。
所得控除 | 対象 | 【改正前】 | 【改正後】 |
---|---|---|---|
配偶者者控除 | 控除対象配偶者の 合計所得金額 |
38万円以下 | 48万円以下 |
配偶者特別控除 | 控除対象配偶者の 合計所得金額 |
38万円超 123万円以下 |
48万円超 133万円以下 |
扶養控除 | 控除対象扶養親族の 合計所得金額 |
65万円 | 48万円以下 |
勤労学生控除 | 納税者の 合計所得金額 |
65万円 | 75万円 |
※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の住民税から適用されます。
【解説】
所得制限等(配偶者控除場合、給与収入のみであれば103万円以下)について変更ありません。
9.相続税の宅地等の評価減特例である「小規模宅地等の減額」について、次の見直しが行われます。
内容 | 【改正前】 | 【改正後】 |
---|---|---|
貸付事業用宅地等の範囲 | 相続開始の直前において、(注)被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等 | 左記宅地等から相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等について、特例の対象から除外(ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者を除く)する |
※平成30年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税から適用されます。
ただし、平成30年3月31日以前から貸付事業の用に供されている宅地等については、適用されません。
【解説】
貸付事業用宅地等とは、被相続人等の賃貸物件の敷地や貸地などで、被相続人から相続又は遺贈により取得した親族が相続税の申告期限まで所有及び賃貸継続しているなどの要件を満たしている宅地等のことをいいます。貸付事業用宅地等に該当する場合には、路線価等で評価した土地の評価額を50%減額(地積200㎡までを限度)することが可能となります。
改正後は、相続開始前3年以内に取得した賃貸物件等の敷地は、原則50%減額の対象から外れることになります。ただし、下記の場合に相続開始前3年以内に取得した賃貸物件等の敷地であっても特例の対象となります。
- ①相続開始より3年を超えて※事業的規模で賃貸事業を行っている
※税制改正大綱本文では明らかではありませんが、所得税における基準(いわゆる5棟10室基準)がベースになるのではないかと想定されます。 - ②平成30年3月31日以前から貸付事業の用に供されている宅地等である
(注)被相続人等とは、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族をいいます。
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今後、税制改正法案が国会に提出され、衆議院・参議院での審議後、平成30年3月末頃に成立する予定ですが、国会における法案審議の過程において、一部項目の修正・削除・追加などが行われる可能性があることにご留意ください。
次回コラムは、「アパート・マンション経営を会社経営にするメリット・デメリットは?」について解説します。