目次
1.居住者と非居住者の定義(所法2①三、四、五)
(1)居住者・・・国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいいます。
(2)非永住者・・・居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいいます。
(3)非居住者・・・居住者以外の個人をいいます。
2.課税所得の範囲(所法7①一、二、三)
(1)非永住者以外の居住者・・・所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税されます。
(2)非永住者・・・所得税法に規定する国外源泉所得以外の所得と、国外源泉所得で日本国内において支払われ、又は日本国内に送金されたものに対して課税されます。
(3)非居住者・・・所法164に掲げる非居住者の区分に応じ、それぞれ定められている国内源泉所得に限って課税されます。
3.非居住者等から対価を支払って日本国内にある土地を譲り受けた場合の所得税等の源泉徴収(所法161①五)
非居住者等に対し、一定の土地等(土地又は土地の上に存する権利、建物及びその付属設備若しくは構築物)の譲渡による対価を支払う際には、原則、譲渡対価の10.21%の税率による源泉徴収が必要です。
4.居住者に該当するかどうかの判定
(1)民法における住所
民法第22条は、「各人の生活の本拠をその者の住所とする。」と定めています。民法上「どこが生活の本拠であるか」については、①定住の意思を必要とする「意思主義」と②客観的事実によって決定される「客観主義」の2説があるとされています。
(2)所得税法における住所
意思主義では、本人の意思により住所の有無、つまり課税所得の範囲(上記2参照)が左右されてしまうことから、基通2-1において「法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する。」とされています。
(3)複数の滞在地がある人の住所
ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、例えば、次のような客観的事実を総合的に勘案して判断します。
・どこに住居が所在するか
・どこで職業に就いているか
・生計を一にする配偶者等の親族の居所がどこか
・どこに資産が所在するか
5.不動産売買時の居住者判定に関する事例の紹介(東京高判H28.12.1)
(1)概要
甲(日本国籍を有し、後に米国籍を取得、米国籍の者として日本に出入国、ただし、国籍喪失の届出をしていない)が乙社に、甲の住民票記載の住所地である東京都に所在する土地及び建物を売買しました。その際、乙社は源泉徴収を行いませんでした。課税庁は、乙社に対し源泉所得税の納税告知処分を行いました。
(2)甲が居住者に該当するか否かの判定
①乙社は次の確認をし、居住者と判定しました。
・売買契約締結時に、甲の住民票、印鑑登録証明書等では、甲の住所が本件建物所在地であり、直近に、住所を日本国内に移動させた事実はない。
・売買契約締結の際に作成する各種書類では、甲は、その住所欄に本件建物所在地を記載している。
・甲に、日本国内の居住者に該当するか否かで課税関係が変わることを説明したうえで、居住者か否かの質問をし、居住者である旨の回答を得ていること等。
②課税庁は次の確認をし、非居住者と判定しました。
・法務省入国管理局に対し、甲の出入国記録を照会
・米国内国歳入庁に対する、米国における身分事項や所得税の申告状況等に関する照会等
③判決では次を示しました。
乙社は、甲に対し客観的な事情(出入国の有無・頻度、国外の滞在期間、家族関係、資産状況等)を確認する必要があり、甲の住民票等の公的な書類を確認するのみでは、甲が非居住者であるか否かについて確認すべき注意義務を尽くしたということはできない。
6.まとめ
居住者に該当するかは、「住民票等の公的な書類に記載されている住所」や「居住者に該当するか否かの質問の回答」のみで判定するのでなく、生活状況等の客観的な事実(出入国の有無・頻度、国外の滞在期間、家族関係、資産状況等)での判定が必要となることにご留意下さい。