1.はじめに
相続税の「小規模宅地等の特例」は、合法的な節税ができる制度として、よく知られた相続税の特例です。賃貸不動産等で節税する場合には、被相続人等の貸付事業用宅地等を相続して事業を継ぐなど所定の要件を満たした場合、それらの宅地のうち最大200m2までについて50%の評価減ができます。
この特例に関し、最近、インターネット上に複数の入居者募集広告があったにもかかわらず、税務署から賃貸共同住宅の空室部分に見合う宅地について、上記特例の適用が除外され更正処分を受けた事例が出てきました。(国税不服審判所、令和5年4月12日)。今回は、この事例を紹介します。
2.事案の概要及び相続人の主張
裁決書によると、Aさんは、被相続人から延床面積180m2ほどの8室2階建ての賃貸共同住宅を敷地とともに相続しました。相続開始時点で入居者がいたのは3室で、残り5室(3室の空室期間は4年6か月以上、残り2室の空室期間は2か月から5か月)には入居者がいませんでした。
Aさんは、被相続人からこの貸付事業を引き継ぎました。相続税の申告では、賃貸共同住宅の敷地全体を小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」に該当するとして申告した模様です。
これに対し、管轄税務署が上記特例適用を否認したことから、Aさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)の判断を仰ぐことにしたものです。
Aさんは、おおよそ次のように考えました。
「相続の開始の時以降、請求人(Aさん)は各空室部分については、新たな入居者の募集を行っていないが、複数のインターネットサイトでは相続の開始の時以降も募集広告が出ているので、請求人が被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していた」
3.審判所の考え方
審判所は、この特例の取扱いである措置法通達69の4-24の2では、貸付事業の用に供されていた宅地等には、貸付事業に係る建物のうちに相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における当該部分に係る宅地等の部分が含まれるとされていることを指摘。
この「一時的に賃貸されていなかったと認められる場合」について審判所は「賃貸借契約が相続開始の時に終了していたものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、相続開始の時の前後の賃貸状況等に照らし、実質的にみて相統開始の時に賃貸されていたのと同視し得るものでなければならない」として、問題の空室の敷地部分が一時的に賃貸されていなかったと認められるかどうか、次の事実関係等をもとに、以下の4のように検討しました。
①被相続人と不動産業者との契約=平成20年5月21日、共同住宅に関して一般媒介契約を締結した。なお、共同住宅に関して、(中略)不動産業者は本件共同住宅に係る集金業務及び管理業務を行っていない。
②平成20年5月頃から申告書の提出期限に至るまで、複数の不動産業情報サイトに、問合せ先を同不動産業者として入居者の募集をする旨の広告が掲載されていた。なお、同不動産業者では、オーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続しており、また、広告の掲載のみでは手数料を取らず、新たに入居者があるときに仲介手数料を取っている。
③一般媒介契約を締結してから、申告期限に至るまでの間、同不動産業者は共同住宅に関して入居者を仲介した実績はなく、平成27年以降の共同住宅の空室の状況を把握していない。
4.一時的に賃貸されていなかったかどうか
審判所は、空室のうち3室は「相続の開始の時において少なくとも4年6か月以上の長期にわたって空室の状態が続いていた」こと。もう2室についても「空室であった期間は長期にわたるものではない」が「一時的に賃貸されていなかったものとは認められない」と認定しました。
その理由は次のとおりです。
●不動産業者の仲介実績・空室把握は②③のとおり。
●不動産業者ではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いだったため、平成27年以降においては、被相続人が一般媒介契約及び広告を放置していたにすぎず、積極的に共同住宅の新たな入居者を募集していたとはいえない。
●空室期間が短い2室についても賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかない。