「自分の年収では不動産投資はムリだろう」と思っていませんか? 実は、年収500万円以下、年収300万や年収400万程度でも、不動産投資に取り組んでいる方もいらっしゃいます。どんな人がどんな物件を買っているのか。年収別に物件の目安を紹介していきましょう。
初めて不動産投資の相談にいらしたお客様に資金計画の試算をお見せすると、予想を上回る高額な投資物件を購入できることに驚かれるようです。不動産投資は個別性が高いため、本人の属性に加えて、物件の条件によって実際に購入できる金額が変わります。
目次
不動産投資ローンの融資審査にかかる年収や属性の基準とは
属性とは、金融機関がローン借入者の返済能力を判断し、将来のリスクを推測するために独自に設定している基準です。
一般的に「属性が高い」とは下記のような条件を備えていると解されます。
●収入が高い
●勤務先が公務員や有名企業
●正社員など安定した雇用条件
●高難度で高所得の資格を保有
●定年がない業種
●勤続年数が長い
●結婚している
●他にローンがない
●他に資産を持っている
●返済実績があり事故歴がない
属性が良ければ、融資してくれる金融機関の選択肢が増え、融資審査にも通りやすくなります。
また、融資上限額が上がって金利が低くなり、借入期間が長くなるなどの有利な条件が出ることもよくあるようです。
ただし、金融機関は審査結果を通知するだけで、審査内容や合否判定の詳細は開示してくれませんので、上記を審査基準として断定できない点はご了承ください。
それでは、いくつかの要素に分けて属性について解説します。
収入・勤務先・雇用形態・勤続年数・役職
代表的な属性について解説します。
年収
原則、金融機関が融資対象とする明確な年収の基準はありませんがあえていうならば年収500万円程度がスタートラインになりそうです。明確な基準がない理由は人により保有資産に差があるためです。例えば相続が発生し潤沢な資産をお持ちの方であれば、一般的な会社員の方であっても審査の見方が異なります。
資産だけでなくどの年収帯でも、住宅ローンやオートローンなど他の借入があれば月々返済可能な金額は下がりますので、審査や融資限度額がご自身の予想より低くなることもあります。
なお、一般的に不動産投資での借入可能金額は年収の10〜30倍程度といわれています。住宅ローンの7〜8倍よりも大きいのは、返済原資が回収家賃であるという点によります。
勤務先
公務員は収入や雇用が安定しており、休職や復職に関する待遇も手厚くなっています。こういった待遇も融資審査に関係しています。
上場企業は給与の高さや雇用先の安定感が審査にプラスの影響を与えます。それに次ぐ属性が、非上場の大手・非上場の中小企業・自営業の順番です。
自営業は年収が高くても不安定だとみなされることが多いのですが、開業医や弁護士などは自営業の中でも特別視されています。高難度の資格保有者は高給であることが多く、一般企業と違って定年制度がないためです。
雇用形態・勤続年数・役職
勤続年数や役職、転職回数のも評価に関係します。また、非正規雇用よりも正規雇用のほうが、収入や雇用の継続の面から優位になるようです。
家族構成
単身者よりも配偶者がいるほうが審査に通りやすいのは、共働きの場合、世帯年収が増えることがひとつの要因です。
さらに、配偶者が連帯保証人になるケースが多く、返済に困窮しても夫婦の協力や、双方の家族からの援助で返済を継続できる可能性も高まります。これらのことから、滞納の回避率が高まると考えられているのでしょう。
この他にも、家族の人数から世帯の可処分所得や将来の転勤、転職などさまざまなことが予測でき、審査の参考にされていると思われます。
その他の借入や個人信用情報の登録履歴
不動産投資ローン以外に、どんなローンを毎月いくら返済しているのかも審査に影響を及ぼします。
また、過去数年間にローンの支払いに遅延があった場合にも、頻度や遅延の状況を、個人信用情報機関の履歴から調査します。
たとえ少額を数回で完済するローンやスマートフォンの割賦金であっても、遅延は確実に審査に悪影響を及ぼします。絶対にしないようにしましょう。
過去の履歴が心配な場合、以下の個人信用情報機関へ開示請求をするのも良いでしょう。
●株式会社シー・アイ・シー(CIC):信販やクレジット系の信用情報
●株式会社日本信用情報機構(JICC):消費者金融系の信用情報
その他の所有資産の規模
当該不動産以外に他の資産があれば、万一の場合の未回収リスクを減らせます。他の不動産や、下記のような金融資産なら、換価性や流動性が高く、迅速に現金化してローン返済の補填ができるでしょう。
●現金・預金
●生命保険
●株式
●投資信託
●債権
●小切手や金券
まれに、融資条件として保有する金融資産の最低基準を設けている金融機関もあるようです。
属性を上げるためにできること
不動産投資を始めるならローン借入は避けられません。属性を上げるためには、まずは他のローンを減らし、支払いの遅延は絶対になくすべきです。
さらに、頭金を少しでもたくさん用意して自己資金比率を上げておけば、ローン審査にプラスになるばかりでなく、実際の滞納リスクも下げられます。
また、勤務先・配偶者・勤続年数・役職など、努力で上げられる属性があることを意識して、できる限りアピールができるポイントを増やしましょう。
なお、ローンの審査に関しては、担当者と不動産会社もキーを握っています。金融機関に幅広い取引網があり、経験とテクニックを持った担当者や不動産会社を見つけることが大切です。
購入する不動産の審査もある
不動産投資ローンの審査は、ローン借入者の属性審査とは別に投資物件の審査もあります。
収益物件として、儲かるかどうかの収益性・エリアに合った賃貸ニーズ・出費額を左右する建物劣化状況などを審査。物件の状態が良くない場合、融資条件が厳しくなることもあります。
また、違法建築や再建築ができないもの、権利関係が複雑で不確かなものは流動性が低いため、融資可能な金融機関はほとんどありません。
こちらで詳しく解説していますので、合わせてチェックしておきましょう。
次に、年収別に適した不動産投資についてみてみましょう。
年収400万円あたりの方は区分所有マンションからスタート
まず、サラリーマンの平均所得に近い400万~500万円の方の場合です。投資物件の場合は、年収の10倍程度まで融資を受けられる可能性があります(物件の評価額や資産背景によっては、それを超えることも少なくありません)。
そのため、頭金を物件価格の2~3割入れれば、5,000万~6,000万円の1棟アパートの購入も不可能ではありませんが、年収400万~500万円で初めて不動産投資をする方にとって、いきなり1棟アパートは荷が重いかもしれません。
その場合、まずは区分所有物件からスタートし、家賃収入を得て、不動産投資の醍醐味と投資の流れを勉強するのもひとつです。
区分マンションは、1棟ものの不動産に比べて利回りが低く、資産形成が遅めです。しかし、少額から始めやすく、購入需要の裾野が広いため流動性が高いというメリットもあります。
以下は、区分所有のワンルームマンションでしたら、東京23区内でも500万円前後、表面利回り10%以上で購入可能です。表は実際に売り出された物件の例です。
物件種別 | 区分所有マンション |
---|---|
価格 | 490万円 |
表面利回り | 12.7% |
所在地 | 東京都豊島区 |
交通 | 最寄駅から徒歩6分 |
構造 | 鉄筋コンクリート4階建て |
専有面積 | 15.7m2(ワンルーム) |
築年数 | 26年 |
資金調達方法としては、できれば全額現金か、融資を受ける場合も借入額を価格の5割程度までに抑えるほうがいいでしょう。というのも、多くの金融機関は投資用のワンルームマンションに対する融資に消極的で、ノンバンク系から借り入れることが多くなるからです。ノンバンクは金利がやや高めですし、借入金額を多くし過ぎると、キャッシュフローが悪化する恐れがあるのです。
区分所有物件を1戸購入し、何年か運用して賃貸経営の実績を作ってから、余裕ができたら2戸、3戸と買い増してみる。そして、手持ちの物件を担保に融資を受けて1棟アパートを購入する、というステップを踏むのがいいのではないでしょうか。
年収700万円あたりの方なら新築の1棟アパートの購入も可能
年収700万~800万円になると、1棟アパートを購入できるケースが多くなります。最近では、新築アパートの売り出しも増えているため、選択肢が広がっています。
例えば、神奈川県の川崎市や横浜市では、満室想定利回りが6~7%台の新築アパートが5,000万円前後で販売されています。中には8%台のものもあります。表2はその例です。
東京23区内では、新築アパートは利回り5~6%前後、7,000万~になります。23区に限らなければ5,000万~6,000万円の物件はそれほど珍しくありません。
物件種別 | アパート |
---|---|
価格 | 5,140万円 |
表面利回り | 8.5% |
所在地 | 神奈川県横浜市保土ヶ谷区 |
交通 | 最寄駅から徒歩10分 |
構造 | 木造2階建て |
規模 | ワンルーム6戸 |
築年数 | 新築 |
自己資金を2~3割用意できれば、1億円程度の1棟マンションも購入可能な範囲に入るでしょう。
購入後2~3年、賃貸経営をしてローン返済を進め、家賃収入から経費を引いた残りのキャッシュを積み立てて再び自己資金を増やしていけば、銀行も実績として認めてくれます。そうなると、2棟目の融資も受けやすくなるので、徐々に資産を増やしていけるようになります。地方銀行や信用金庫は返済実績を重視するため、こうした金融機関との取引実績を積むことが次のステップに繋がるでしょう。
年収1,000万円以上の方なら1棟マンションをはじめ選択肢は広がる
年収1,000万円以上の方になると、選択肢は一気に広がります。価格が1億~2億円程度、利回りが8~9%程度の1棟マンションを、頭金1~2割で購入するケースが多くなります。
同じ利回りの物件でも、購入価格が大きいほうが手取り収入も大きくなるため、次の投資に回せる自己資金も早く増えます。それだけ資産形成がスピードアップするのです。可能な範囲で大型物件を取得して、2~3年経ったら次の投資を検討し、積極的に資産を増やしていくスタイルです。
表3.年収1,000万円で購入できる物件は?
物件種別 | 1棟マンション |
---|---|
価格 | 1億1,000万円 |
表面利回り | 8% |
所在地 | 神奈川県川崎市多摩区 |
交通 | 最寄駅から徒歩7分 |
構造 | 鉄筋コンクリート造4階建て |
規模 | ワンルーム19戸 |
築年数 | 27年 |
課税所得1,800万~4,000万円以下の方は、個人所得税40%と住民税10%を合わせると収入の50%が税金となり、半分しか手元に残りません。このくらいの所得帯の方は、所得税の節税を想定した不動産投資を検討することも大切です。
例えば、必要経費として計上できる、「建物の減価償却費」の割合が大きい投資物件を選ぶ、などの視点を取り入れると良いでしょう。
高額所得層は、法人化を視野に入れた不動産投資が必要
さらに、個人所得税が高い方は、法人化を視野に入れた不動産投資も必要です。不動産所得を給与所得と合わせると、資産規模が大きくなった分、税金の支払いも大きくなり、法人化せずにいると、手取り収入が思ったように増えなくなってしまいます。維持管理の手間やコストがかかる物件が増えてしまうと、手取り収入が赤字になる恐れもあるため注意が必要です。
ちなみに、相続対策などの節税スキームにおいても、不動産事業の法人化を伴うケースがあります。
親族を役員にした法人化で所得を分散する節税スキーム
そこで、配偶者や子、親などを役員や社員にした会社を作り、不動産をその会社の所有にします。そして家賃収入を会社の収入とし、会社から役員報酬や給与を家族に支払うという形です。所得税は課税所得が低いほど税率も低くなるため、複数の人数に所得を分散することによって税額を減らせます。これが「所得分散効果」による節税です。
法人化に伴いさまざまな経費がかかるため、すべての人が法人化によって節税できるとは限りません。以前はサラリーマンで年収2,000万円以上の高額所得者にならないと、法人化の恩恵はないといわれていました。
個人所得税増税の陰で法人税率が30%に引き下げられた
しかし、現在では、法人税率は30%以下(※)に引き下げられ、一方で個人所得税の最高税率は45%へ引き上げられました。つまり、個人は増税、法人は減税になったのです。そのため、これから不動産投資を行う場合には、給与所得が年収1,000万円を超えるくらいから、法人化の検討が必要になってくるでしょう。
(※)課税時期と法人の規模などで異なる
詳しくはこちらで解説しています。
不動産投資を検討したいがまだ一歩踏み出せない方は、以下の記事もぜひご覧ください。
不動産投資とは?【初心者向け】仕組みや、メリット・デメリットを解説
まとめ
不動産投資は、収入アップだけでなく所得分散や相続税の節税効果もありますが、着手の時期・適用条件・物件の選び方が重要になります。
また、法人化の適切なタイミングは、不動産投資事業が赤字か黒字か、さらに本業か副業かによっても異なるため、自分の考えだけで判断するのは危険です。
今後は、税務に精通した専門家に相談しながら不動産投資をすることが、ますます重要になってくるでしょう。